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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第九章 苑州の乱

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311話 宇の思惑

「機会があるなら、仕返しはやっぱりしておきたいよね!」


ユウはにこやかな笑顔でそう告げてから、募る思いを吐き出すように話し出す。


ジンを泣かしちゃだめだし、強がっている姿が可愛かったから、僕も一度は怒りを飲み込んだんだよ?

 偉いよね?

 けどさ、やっぱり可愛い静の髪をほぼ丸坊主にまで切っちゃうって、やっぱり許しちゃいけない!

 天誅を下してやりたくて仕方ないんだ!」


頬を膨らませてぷりぷりと怒る宇なのだが。


「「髪?」」


一方で大偉ダウェイ唯一の執着点である言葉が聞こえて、大偉が呆けた顔になり、フェイはぎょっとした。

 しかし宇はこれを「そんな非道をするのか」という驚きと捉えたようで、特に気にすることなく話を続ける。


「静はどんな静でも可愛いよ?

 けどさ、髪を切られるってすっごく嫌なことだし、すっごい酷いと思わない?

 それなのにあんなことをされちゃって、もうその命で償ってもらうべき重罪だと思うんだ。

 世のため人のため僕の静のために、やった奴を成敗しないといけないよね!」


ブンブンと両手を振り回しながら力説する宇に、大偉が戸惑うように宙を見上げた。


「だそうですぜ、殿下」


飛にちらりと視線を向けられ、大偉はしばし考える。


「私は、髪を頼んで貰い受けているのだぞ?

 それに丸坊主にしたりはしない」


なんとも都合の良い言い訳をする皇子様だが、皇后唯一の皇子から受ける圧による恐怖に、一体どれだけの女が拒否できるというのか?

 この大偉と飛のやり取りを聞いて、宇が目をつり上げた。


「なぁに、お兄さんってばひょっとして、女の子の気を引こうとして意地悪で、髪に悪戯したことがあるの?

 駄目だよぅ、そんなことしたら!

 やられた方がすごく悲しいんだからね!

 わからないなら、今から僕がお兄さんを丸坊主にする!」


宇の想像がとても状況が限定的なのだが、それがあながち外れていないのが恐ろしい。

 宇のこの怖いもの知らずな正義感は、しごく真っ当な説教であったが、恐らくは大偉には響くまい。

 と、飛は考えていたのだけれども。


「……そうか、反省しよう」


なんと、これまで髪切り事件については誰に言われてもなんとも思わずにいた大偉が、このような反省を口にしたのだ。


「ちゃんと反省してよね、めっ!」


そう言うと口をむっと突き出す宇に、大偉が心なしかしゅんとした顔になる。

 子どもに叱られたのを受け入れるとは、飛は驚愕であった。


 ――なるほど、この皇子殿下には素直に情緒に訴えて叱ればよかったのか。


 確かにこの件に関して、大偉の周囲は「皇子たる者の振る舞いが云々」という、規律という点からの説教しかしていない気がする。

 「相手が傷つく」という点は、権力の頂点付近にいる者たちにとって、考える必要もない些末な事なのだろう。

 飛が出会った頃の大偉は既にこういう性格であったので、性格を矯正しようと努めたこともなく、せいぜい髪切り魔が出るような状況にならないように立ちまわるくらいであった。

 まさに目から鱗が落ちる思いな飛の内心の衝撃はともかくとして。

 確かに髪を丸坊主にしてしまうというのは、さすがに大偉ですらやらない非道であろう。

 崔国人にとって、髪を全て切るとは、出家か罪人落ちの証であるのだから。


「……静様はご立派でございました。

 そのような目に遭ったというのに、ご自身の嘆きを堪え、貧しき生活を強いられる民をひたすら思っていらっしゃった」


その時のことを思い出したのか、マオが若干目に涙をにじませながらそう告げる。


「そうなの、静ったら健気だから、自分が酷い目に遭ったら余計にムキになっちゃって、『私が皆のために頑張るんだ!』って言って聞かなくなったんだ。

 けど、なんだか危なくなってきたからさぁ、どうにか余所へ逃げてほしいじゃない?

 だから逃げるように静を誘導するのに、僕ってばかなり演技をがんばっちゃったよ。

 自分のためにはなにもしなくても、僕のためならなんでもやってくれるお姉ちゃんだからねっ!」


宇が「ふふん!」と胸を張るのに、飛は「なるほど」と納得する。

 都からの情報では宇という子どもは「健気な弟が己の身を犠牲にして残った」とあった。

 けれど宇はまったく健気そうに見えず、話がおかしいと感じていたのだが、こういうことだったのか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 皇子と太公のどこか歪さが似ているコンビの嫌がらせが どんな展開なのか楽しみです!
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