表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第九章 苑州の乱

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

308/681

304話 ご褒美ならば

 この話に、ダジャは言葉が出ないようであった。

 数回喘ぐように呼吸をしてから、ダジャは声を振り絞るようにして言う。


『なんと、それでは、それでは祖国は滅びに向かっていると……!? どうすれば、どうすればいいのだ!?』


ダジャの絶望の叫びに、しかしジェは冷静な顔である。


「それについては、我が国の過去の事例を参考にはできると思われる。

 しかし、そのような問題を放置し続けたことが、結果災厄を招いたと知ることです。

 王子であったのならば、民の安全を背負う者として『知らなかった』では済まされない」

『……』


解の言葉に、ダジャは言葉が続けられないでいる。


 ――まあ、近親婚の究極の目的って、権力者が権力と財力を他人に奪われないため、っていうことだもんねぇ。


 つまり、どこかの時点で近親婚に問題があると発覚していたとしても、それよりも権力と財力の独占欲が勝ってしまえば、無視してしまうのだろう。

 そのような事例は、前世の歴史でも聞いた話だ。すなわち、ダジャのかつて奪われた「王子」という身分の維持のための仕組みであったと、そういうことなのだ。

 ダジャはそのような己の身にある業にまでは、おそらくはまだ気付いていないことだろうけれども。


 ――けど、子どもの静静ジンジンがあんなに頑張っているんだから、大人のダジャさんも反省なりなんなりの、根性があるところを見せてほしいよね!


 雨妹ユイメイは、恐らく今頃はヤンに連れまわされているであろうジンを思って、そのように考える。

 それに思えば、ダジャの口から静の名前が一度も出ていない。

 もしかすると、雨妹が静の身柄を預かっていることを知らないのだろうか?

 ダジャに与える情報もきちんと管理しているだろうから、あり得る話である。

 それでも、静のことを気にして雨妹に尋ねてほしく思う。

 ひょっとしてこういうところが、以前杜がダジャを保護者失格の烙印を押した原因なのかもしれない。

 しかしなにはともあれ、雨妹がこの場に呼ばれたケシ汁についての話は、把国はそれ以前の問題であったことがわかった。

 となると、雨妹はこれで役目を果たしたことになるのだろうか? そう思って雨妹が解をちらりと見ると、あちらも頷きを返してきた。


チャン殿にはご苦労だったな。

 この件については、気付いた張殿のお手柄だ。

 なにか褒美を要求してもいいくらいだぞ?」

「褒美……」


解の冗談交じりなのであろうその言葉は、今の雨妹にはなんとも甘美なものに響いた。

 そんな雨妹の様子に、リー将軍が気付く。


「なんだ、なにか欲しいのか? 試しに言ってみろ」


李将軍のありがたいお言葉に、雨妹はキラリと目を輝かせる。


「あの、ずっと気になっていたのですけれど、把国の自慢料理はなんでしょうか?

 やはり香辛料なのでしょうか?

 お米文化? それとも小麦文化?

 もしかしてカレーなんてものがあるのでは――」

「失礼」


 ゴィン!


 まくしたてるようにしゃべる雨妹であったが、唐突に、その頭に衝撃が走った。

 何事かと思えば、いつの間にか傍まで来ていた見張りの兵士が、拳を構えているではないか。

 どうやらアレが頭に落ちたらしい。

 というより、この兵士はよくよく見れば立勇リーヨンではないか。


「なにをするんですか!?

 っていうか立勇様、いつからいたんですか!?」


涙目で抗議する雨妹に、「はぁ~」と立勇が深く息を吐く。


「なにをする、ではない馬鹿者!

 ここで食欲に走る者があるか!?」

「そちらこそ、なにをおっしゃいますやら!

 食欲よりも大事なものが、この世にあるとでも!?

 私、後宮での美味しい料理はある程度満喫できていると思うのです。

 そうなれば、次に目指すは世界の美味しいものに決まっているではないですか!」

「それは個人的に別の機会に行え、この場は非公式とはいえ国の折衝なのだぞ!?」


雨妹と立勇の口論を、他の面々がポカンとした顔で眺めている。


「だから言ったのです。

 暴走娘の手綱を御させるため、念のためにこの男を同席させた方がよいと」

「うむ、良い判断であった。

 しかし仲が良い二人だな」


李将軍と明からなにか言われている。


「妙な方に暴走するあたりが、実に似ている……」


解がなにかに感心しているが、たぶん褒められているわけではないのは、雨妹にもわかるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こちらのパパ上にも仲の良さがわかっちゃったか。そしてやはり雨妹は中身は父親似と周知されていくんですね。 立勇さん、そのうち自分のパパ上から雨妹とのこと追求されないかな?
[良い点] パパに仲良し認定されたこと。 血の繋がりを再認識されたこと。
[気になる点] いくらなんでも自分の国が滅びに向かっているという現状を知って打ちひしがれている相手の目前で、褒美の食べ物の話でハイテンションに振る舞うのはありえませんね。 あと、近親婚の害が麻薬の害と…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ