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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第九章 苑州の乱

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302話 違和感

 ――え、そんな最悪の状況になるまで、被害を放っていたってこと?


 雨妹ユイメイはこの話にどうにも違和感があり、眉をひそめる。

 春節前にケシ汁の問題を太子の元へ持っていった時には、大騒ぎになったというのに。

 国が違えど太子と同じくらいの身分であろうダジャの、こののん気さはなんだろうか?

 一方で、ダジャの話を聞いて解が頷いてみせたので、彼が知っている情報と同じことが述べられたのだろう。


チャン殿、今の話について、なにか意見がおありで?」


解に話を振られ、雨妹は気になったことを尋ねてみた。


「あなたはケシ汁の影響が重篤な者を、実際にその目で見ましたか?」


雨妹の質問を、通訳から聞かされたダジャが大きく頷く。


「では、ケシ汁被害の現実を見たのに、危険だと思わなかったと、そういうことでしょうか?」


少々きつめの口調になってしまった雨妹に、ダジャは戸惑うようにしながらも、これまた通訳に向かって頷いてみせた。


 ――ケシ汁中毒というものを全く知らなかった立彬様でさえ、患者を見てすぐに異常だと判断できたのに。


 立彬は刑部で重篤なケシ汁中毒患者を目にして、言葉では伝わり辛い現実を知れたという。

 一方で、ダジャは実際の目で見たのになんとも思わなかった。

 彼だけではない、把国の誰もがそうだったとしたら、国全体がのん気過ぎはしないだろうか? それとも、把国人とは個体差で、ケシ汁中毒の症状があまり強く出なかったのか?

 この雨妹の抱く違和感に、通訳越しにダジャが返したところによると。


『いつものことだろうと、誰しもがそう考えていたのだ』

「いつものこと、とは?」


このダジャの言葉に、雨妹のみならずリー将軍が反応した。

 なにか異変はないかと、頻繁に都を見て回っている李将軍なので、ダジャのケシ汁問題に対する初動の遅さには、彼としても思うところがあるのだろう。


『それは……』


雨妹と李将軍の視線を受け、最初は答え辛そうにしていたダジャであったが、やがて口を開く。


『我が国には、昔から国民病と言われている不治の病がある。

 自失病などと民は言っているな』


そのように語るダジャによると、ケシ汁の被害はその自失病の新たな症状だろうと思われ、放置されていたのだそうだ。


『わめき、暴れ、妄言を吐くといったことを繰り返す……昨今、国ではそのような状態になって暴れ、牢屋に入れられる者がそれなりに多い。

 なので、異常だと思いもしなかった』


深刻そうなダジャの表情を見ると、その場しのぎの嘘を言っている風にも見えない。


「お主は、その病とやらを知っているか?」


李将軍が通訳の男に尋ねると、「ええ」と彼は肯定した。


「アッシも最初は怖いと思いましたがね、その自失病とやらは人にうつるようなものではないんだそうで。

 生まれつきの病気ってやつです」

「生まれつき……もしかして、っと」


通訳の男の話を聞いて、ふと雨妹の脳裏をとある知識がかすめた。

 けれど、ここは不用意に発言してもいい場ではなかったと思い出し、慌てて口をつぐむ。


「なにか、思い当たるのか?」


そんな雨妹の様子に気付いたジェが、ダジャの方へ聞こえないくらいの小声で問うてくる。


「ええっと……」


これに雨妹は迷いながらも今浮かんだ考えを、こちらも小声でひそりと口にした。


「もしかして把国では、近親婚を推奨されているのでしょうか?」


雨妹の問いに、解が目を見開く。


「……なんと、近親婚のことを知っているとは驚いた」


解はそう告げてから、「うぅむ」と唸る。


「我が国でも、かなり歴史を遡ればさようなこともあったが、今はそうした事例は推奨されてはいない」

「そうでしょうね、自然とそうなると思います。

 続ければ一族が滅亡しかねませんから」

「よくわかっている、推奨されなくなった理由はまさしくそれなのだ。

 そうかなるほど、それならば納得がいくかもしれぬ」


解と雨妹が二人でわかり合っているのに、李将軍と明が不思議そうにしていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 血が濃くなることの弊害について考慮されていないということは、把国は比較的若い国なんでしょうか?
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