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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第九章 苑州の乱

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300話 事前情報は必須です

 というより雨妹ユイメイとしてはてっきり、もうダジャが先に部屋で待っているとばかり思っていたのだが。


 ――ダジャさんは後から来るのかな?


 そんな雨妹の疑問を、ジェもわかったらしい。

 まずは今日の呼び出しについて詳しく教えてくれた。


「軽く聞かされたとは思うが、ダジャがケシ汁被害を食い止めた功労者に会いたいそうだ。

 つまりチャン殿、あなたのことだな。

 それに先立って張殿には、我々がわかっているダジャという男の素性について、先にお話しておこうかと思う。

 何者かを知らなければ、どこまで情報を渡すのかの判断が難しいだろうからな」


解がこのように述べるのは、雨妹としてもぜひお願いしたいところだ。


 ――どこまで話していいかをあらかじめ教えてもらえるのは、助かるものね。


 国とて、他国の人間に国内事情をアレコレ知られたくはないだろう。

 なるほど、そのあたりの確認のために、雨妹を先に呼んだらしい。

 それに雨妹だって、前世の経験や知識を誰彼構わず話しているわけではない。

 これでも話す相手を一応選んでいるのだ。

 というわけで、解から早速事前情報を与えられる。


「まずは、あのダジャという男の素性だ。

 簡単に言えば、海の向こうにある把国という国の王子ということだ。

 しかも王位に最も近かったのが、罠にかけられ奴隷の身に落ちてしまい、あちらこちらで転売されて苑州へとたどり着いたらしい」


解の口からサラッと語られた内容は、なかなかに衝撃的なものであるのだが。


 ――やっぱりか!?


 雨妹は思わず内心でそう突っ込む。

 前世であれば「そこから王子が這い上がって偉業を成し遂げる」的なドラマが作られそうな経歴だが、雨妹としては納得しかないというか、その主人公としてダジャは非常にしっくりと来るのだ。


「張殿は、あまり驚かないのだな?」


だがこのような雨妹の反応は、解にとって予想外だったらしく、訝し気に問われてしまう。


「はあ、まあ、えっと……」


雨妹がこの己の感覚を、相手に失礼のないようにどのように答えようかと困っていると。


「この娘は初見であのダジャが奴隷だということに驚いていましたし、むしろ腑に落ちたのではないでしょうか?」

「そうです!」


ミンがこのように助けを出してきたのに、雨妹は「うんうん」

と頷いてみせた。

 あの時明とて同じように驚いていたので、きっと今も雨妹と同じような心情なのだろう。

 というより、ちゃんと雨妹の気持を汲んで会話を誘導してくれる人物が同席していないと、お偉い人を相手に話をするのが非常に難しいのだと、今更ながらに気付く。

 なんだかんだで、偉い人と会う時は高確率で立彬もしくは立勇がいるのだ。


 ――変なことを言わないっていう、自信がないよぅ!


 あのお助け男がいたならば、妙な事を言いそうになる前に注意してくれるのにと、度胸はあるが礼儀が足りない自覚のある雨妹が、心の中で少々泣き言を漏らしていると。


「おや、奴隷であるのが意外だったか。

 どのあたりにそう感じたのか、参考までに聞いてみたい」


明の意見に眉を上げた解に、そう言われてしまう。


「えっとぉ」


雨妹はちらりと明を見たが、目が合わないので今度は自分で答えなければいけないようだ。

 なので雨妹は思案しつつ答える。


「だってダジャさんは、なんていうか、普通よりも偉そうな圧が強いじゃないですか。

 奴隷じゃなくて農民と言われても驚きますって」

「お前さんは、妙な言い方をしたな」


雨妹の言葉に明が顔をしかめるのだが、解はというとクスッと笑う。


「なるほど、『偉そうな圧』というのは面白い表現だ、言い得て妙だな」


どうやら雨妹の言い方が気に入ったらしい解が、しばらく「フフフ」と笑っていたのだが、やがて表情を改めて話を続ける。


「把国ではケシ汁の被害が国全体に広まってしまい、手が付けられない状態になってしまったという。

 それで、ケシ汁の被害を食い止めた我が国のことを知りたい、なおかつケシ汁の影響を最初に知った者の話も聞きたいと、そういうことだ」


なるほど、やはりダジャの母国はケシ汁被害に遭っていたのだ。

 そこでケシ汁被害を食い止めた成功例を学びたいと、そういうことなのだろう。

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― 新着の感想 ―
楽しく読み返してます。 「偉そうな圧」でいったいどこの陛下を連想したのやら、ツボに入ってる解さんの笑いにつられますね! この場に立勇がいたら、も無い話ですが、ちょっと想像すると楽しい。 というか、そこ…
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