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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第九章 苑州の乱

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297話 先行き不安

恐れを抱くフェイであるが、その主はユウに問いかける。


「お主は、ジンとやらが好きなのか?」

「もちろん!」


これに宇が元気に返す。


「だって、静を生かすのも楽しませるのもいじめるのも殺すのも、静と命をわかちあった世界でただ一人である、僕だけに与えられた特権じゃない?

 それを奪おうだなんて、死をもって償うしかないことだよね?」


宇は無邪気な顔をして、まるで「空は青い」ということと同じように当たり前であるような口調で、サラッとそのようなことを言ってきた。

 当たり前の話だが、双子であっても片割れの生殺与奪権を持って生まれたりはしない。

 大偉もさすがにこの発言に、良くないものを感じたようだ。


「おい飛、この子ども怖いぞ。

 どこかの山の中で野垂れ死にさせた方が、その静とかいう子どものためではないのか?」


「若が怖いと言うだなんて、すごい子どもですね」


珍しく真顔でまともなことを述べてきた大偉ダウェイに、飛も深く頷くしかない。

 この大偉と飛の反応に、しかし宇はケラケラと笑う。


「やだなぁ、冗談じゃないか」


そう楽しそうに言われても、飛は「そうか、冗談であったか」と納得できはしない。

 むしろ本気で言っていたのだという考えが深まるばかりだ。

 すると宇がさらに言う。


「静はね、僕の宝物だから、ちょっと強引な手だったけど外に出したんだ。

 だって静が怖がって泣いちゃったら、かわいそうだと思って」


険しい山を越えさせて都入りをさせるとは、「ちょっと」

どころではないくらいに、これ以上ない強引な手だろう。

 できれば飛だってそのようなことはしたくない。

 けれど、このふざけているのか真面目なのか判断のつかない宇の「かわいそう」

という言葉が、どういうわけか真実味を帯びて聞こえた。

 宇が言葉を続ける。


「僕ねぇ、何家っていうのも嫌いだし、州城で偉そうにしているだけの奴らも嫌いだし、『正義は我らにあり』とか言っちゃっているのに所詮他力本願な奴らも嫌い!」


宇は癇癪を起こす子どものように、頬を膨らませて叫ぶ。

 いや、年頃からして癇癪を起こす子どもそのものであるのだが、言っていることは全く子どものそれではない。


「嫌いな奴らばっかりだから、もうココは滅びればいいと思うんだぁ。

 けどね、そうしたらきっと静が泣くんだ。

 静はお馬鹿で可愛いお姉ちゃんだけど、どうしてかあのクソ爺老師になついているんだから、本当に神経疑うよね。

 それにさぁ、東国っていう連中も嫌いだから、後で来られても癪なんだぁ。

 だって、静のことをきっと好きそうだもの、あの連中」


嫌いだから滅びればいいとは、子ども故の単純な思考なのか、はたまたもう全てを諦めて切り離した方がいいということなのか。

 会話を重ねれば重ねるほど、わからなくなってくる。


「だから比較的良さそうな皇帝なら、いい感じにプチってやってくれないかなぁ? って思ったの。

 そうしたらほら、ちゃんと人が来たじゃない?

 僕、ひとまずここまで大成功!」


このように話した宇は、手を上げて喜んでみせた。


「皇帝を頼ったのは正解だったね。

 老師は『戦え』しか言わないクソ爺だけど、皇帝のことを教えてくれたことだけは、感謝してもいいかな」


そう話した宇は、本当に嬉しそうに笑う。


 ――こいつは子どもか、はたまた子どもの姿をした幽鬼の類か?


 そんな宇の姿に、飛は一体何者と会話をしているのか、だんだんとわからなくなってくる。

 しかし、大偉はそのような迷いを見せず、真っ直ぐに宇を見ていた。


「聞いていると、お前の行動は全て静という姉のためなのだな」


大偉がそう語ると、宇はきょとんとした顔になる。


「当たり前じゃないのさ。

 この世界に静以上の、どんな大切な物があるっていうの?」


大人のように聡明なことを言うかと思えば、無茶苦茶な悪童のような発言をして、さらには幼子のような無垢な心を持つ。

 なんともつかみ辛い子どもだ。

 そんな宇の話に、娘は口を挟まずに黙していた。


「お前さん、この主で本当にいいのか?」


その娘に飛は尋ねる。

 大公に同行するくらいであるから、きっと位の高い家の娘なのだろう。


「……もう他に、他にいないのです。

 苑州の行く末を託すに足るお方が」


唇を噛み締めて苦悩の表情を浮かべる娘に、飛は己を重ね合わされてしまって同情してしまうのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 変態VSサイコパス 常識人の飛と宇付きのお姉さん、大変だな~。
[良い点] 気持ちとしては、あんたも大変だな…、いえいえそちらも… みたいな感じですねー
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