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295話 再びのボロ家

フェイ大偉ダウェイを伴って、今来た道を戻っていく。


「また、面倒な道を通ったものだな」

「用心のためです」


後をついてくる大偉の愚痴と感心と半々の言葉に、飛はそう返す。

 事実、今通っている所は道などなく、なかなか険しいのだが、大偉は遅れることなく飛についてきている。

 頭も悪くはないし、本当に持ち合わせている能力を無駄に遊ばせている皇子だ。

 いっそ皇子をやめて影働きに転職すれば、いつかどこぞの国でも裏から牛耳ることができるかもしれないのに。


 ――こんなお人でもあの母親に、幾ばくかの愛情を持ち合わせているのかねぇ?


 「曰くつきの皇子」という身分に甘んじている大偉のことを、飛はそんな風に思う。

 そしてそのようなことを考える時に思い浮かべるのが、後宮のとある下っ端宮女の姿だ。

 大偉が一年前の花の宴にて自ら絡んだせいで大層叱られた、あの原因の宮女について、調べるのは容易とはいわないが、飛にならば可能なことである。


「あの娘は、大偉とほぼ同時期に生まれたことにより、梗の都を追放された美人の子だ」


飛がつかんだこの情報を聞いた大偉は、微かに驚いた表情を見せたものの、他にはなにも感情を露わにしなかった。

 飛がその宮女と大偉とを比べて思うのは、自由さの落差である。

 あの宮女は母共々追放され、不自由を強いられた結果自由を手に入れた。

 一見矛盾した言い方になるが、そうとしか言いようのない、全く自由な娘なのだ。

 一方で大偉は一見すると、何不自由ない暮らしを得ている身の上であるのに、不自由を強いられている。

 この奇妙にも理不尽な現実が、大偉に課された楔であろう。

 大偉こそ、その時いっそ同時に追放されて寺にでも放り込まれていれば、無駄に高い能力を大いに発揮して、あの宮女のようになにがしか他の道を歩めていたことだろうに。


 ――どちらにしろ、権力者の親なんて持つものじゃあないな。


 飛が自身の中でそのように結論付けたところで、目的のあのボロ家に到着する。

 ところがこの皇子は観察する手段として、ボロ家の隙間から覗くなんていうことを選ばなかった。


 ガラッ、ガタッ!


 大偉はボロ家に近付くと建て付けの悪いのを強引に開けたことで、戸が外れてしまう。


「せめてひと声かけて入りましょうや」


大偉の傍若無人ぶりに、飛は呆れてしまう。


「何奴だ!?」


家の中では、突然誰かが戸を開けたことに二人、というより娘の方がギョッとしている。


「邪魔するぞ」


しかし大偉はそんな娘には構わず、遅まきながらそう挨拶をしてから外れた戸を放置したまま、ズカズカと中へ入っていく。


「なっ、なんなのだお前たちは!?

 見れば先程の商人ではないか!」


この大偉の図々しさに、娘が激高する。

 この場合、娘の怒りの方がもっともであると言えよう。

 怒り顔の娘に、しかし大偉は全くわるびれることがない。


「少々話をしたくなってな、こうして邪魔をしたところだ」


大偉はそう述べてからボロ家の中を改めて見渡して、「風通しが良すぎるな」などとぼやく。


「文句があるなら入って来るな、出ていけ!」


大偉に向かってそう喚く娘であったが、大偉の容貌を改めてみたところで、ハッとした顔になる。


ユウ様、お下がりくださいませ!

 この者、皇族でございます!」


これまで気にも留めていなかった特徴に気付いたのだろう、どうやら宇という名前らしい子どもの腕をひいて後ろに下げようとした。

 これが都であれば「青い目は皇族の証」という事実が先立つものだが、異国の者が流れて来やすい苑州であることが「人とは違う容姿」という点を気に掛けなくして、娘に気付くのを遅らせたようだ。

 あるいは他の事に気を取られていて、大偉の姿をよく見ていなかったのかもしれない。

 その必死の娘に守られている子どもを、大偉がまじまじと眺める。


「似ているか?」


そしてくるりと飛の方を振り向いて、首を捻ってくる。


「似ているのです」


見分けがつかない癖に見分けようとする大偉に、飛はそう断じた。

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