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285話 饅頭教室

しかし、美娜メイナはニコリと笑って静の背中を叩く。


「大まかには、だいたいの宮女は饅頭をよく食べる連中と、お米をよく食べる連中とに分かれるんだろうけど……まあ里にも色々あるさ!」


美娜はジンを傷付けないようにという配慮だろう、「お前の里はものすごく貧乏だな!」というような表現を避ける。

 静はなにしろ、ダジャと山越えの旅をしている際にも、干し芋と薄い粟粥を食べていた娘なのだ。

 里を一歩出れば、もっと美味しいものがそれなりにあっただろうに。


 ――そんな食生活の子どもが都に入って、美味しそうなものを売っている屋台に出くわしたら、そりゃあ食べたくなるよねぇ。


 雨妹ユイメイは静と初遭遇した際の盗み食い事件を、そう振り返る。

 売り買いの知識がなかったら、並んでいる饅頭を物々交換するつもりだったのかもしれない。

 もしかすると、屋台のどこかに饅頭と交換するなにかを置いていたのだろうか?


 ――そのあたりを、ちゃんと見ていなかったなぁ。


 あの時はそこまで考えが及ばなかったとはいえ、雨妹は叱られる羽目になった静に「可哀想なことをしたのかも?」と思うのだった。



それはともかくとして、今は饅頭作りだ。

 まずは美娜が実演してみせて、それを静が真似をしていく。


「そうそう、手つきはいいよ。

 もっと身体を使って、こういう風に力をこめて」

「うん、よいしょ!」

「手につかなくなるのが合図さね」

「わかった」


美娜の指示に頷きながら、静が生地をこねている。

 さすが美娜で、静への饅頭指導が的確だ。

 雨妹とて饅頭を作れはするけれど、教えるならばその道の人を頼って正解だった。

 こね終えて生地をしばし寝かせるところまでやると、静が「フゥ~」と大きく息を吐く。


「饅頭作りって、すごく疲れるんだね」


くたくたになって椅子代わりの木箱に座る静に、美娜が「ははっ」と笑う。


「疲れた分だけ、余計に美味しく思えるさね。

 それにしても静静、なかなか器用じゃないか!」

「そ、そうかな」


美娜に褒められた静が、照れてもじもじと袖をいじる。


「うんうん、上手だったよ!」

「へへ」


雨妹も褒めると、静はまんざらでもなさそうな顔だ。

 実際、静はちゃんと自力で饅頭の生地をこねられた。

 分量も適当にせず、ちゃんと計るということもできている。

 教えればこれだけやれるのだから、やり方を知ってさえいれば、里での食生活もマシになっていただろうに、雨妹はこれまでの静の環境が残念でならない。

 もしかすると里での暮らしで静の周囲に、料理を教えられる人がいなかったのだろうか? あのダジャだって、なにせ旅の道中で静に干し芋と粟粥のみを食べさせていた男である。

 教えられる料理といっても「焼く」と「煮る」のみの野営料理などになりそうだ。

 そもそもダジャは王子であったので、軍隊生活でも専属の料理係がちゃんといる生活をしていたわけだが、そんなことは雨妹の知る由もない。

 なにはともあれ、こうしてお喋りをしている間に生地を寝かし終わり、いよいよ成型だ。

 饅頭の形は様々だが、今回は簡単なぐるぐると巻いて作るやり方でやることとなった。


「そうそう、できるだけ同じくらいの厚さで、こういう風に端も伸ばして」

「こう?」


静が美娜の指示で、生地を棒で四角く平らにしていく。

 それをぐるぐると巻いていく作業は、静にとってことさら楽しい作業のようだ。


「ふはっ、ちょっとへこんだ!」

「ちょっとくらいは気にしなさんな、結局食べられればなんでもいいんだから」

「なんかこれ、なにかに似ている気がする!

 変なの、ふふっ」


こんな風にお喋りしながら、時折歓声を上げつつなんとか巻いて、棒状になったものを手ごろな大きさに切れば、成型は終わりだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 饅頭(マンジュウじゃなくてマントウ)は具なしの蒸しパンだしね。湯(ユじゃなくタン)とか、同じ漢字でも全く違う物多いよね。ちゅこくこむつかしいある。
[良い点] 饅頭というより具なしの花巻きみたいな感じかな。 角煮と食べると美味しいんですよねぇ [一言] 里のごはんは全部の食材をごった煮にして再分配するとかそんな感じだったのかなぁ
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