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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第九章 苑州の乱

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276話 太子に報告……だけれども

***


「ただいま戻りました」


雨妹ユイメイの様子を見にいっていた立勇リーヨンが太子宮に戻ると、明賢メイシェン秀玲シォウリンに淹れてもらったお茶を飲んでいるところだった。


「お帰り。

 こちらに座って、一緒にお茶を飲もう」


明賢が手招きしてそう誘ってくる。


「ありがたいお言葉ですが、今しがたお茶を飲んできたばかりですので」


けれど立勇はそう言うと申し訳ない顔をして、これを辞退した。

 実のところ、雨妹の家からの移動の間に飲んだお茶なんてものは、とっくに身体の中で消化されている。

 だが、今明賢と長話をしないための方便であった。


 ――命令を遂行したとは言い難いからな。


 立勇としても、最初は雨妹に普通に話を振ってみて、相手が話さないならそれはそれでいい、くらいに考えていたのだ。

 けれど顔を合わせたとたんの、あのいかにも「身構えています」というあの表情を見て、なにも聞けなくなってしまう。

 なにも聞かずとも、雨妹がなにか大事に巻き込まれていることくらい、察せられる。

 これ以上重荷を増やしてどうしようというのか?

 明賢に誤魔化しを言いたくないが、雨妹からの情報をこれ以上求められたくない。

 立勇がそうした気持ちの狭間で出した答えが、「とっととこの場から逃げる」であった。

 これに明賢は「そうかい?」と首を傾げただけで、すぐに引き下がる。


「雨妹の家はどうだった?」


次いで早速尋ねて来た明賢に、立勇は内心で構えつつも口を開く。


「さすがに部屋の中までは確認しませんでしたが、台所は物が揃っていましたし、聞くところによると暖かい敷物など『十分な差し入れ』があったようでした」

「そうか、『十分な差し入れ』があったのなら、まあ安心かな」


明賢が立勇の言わんとすることを察したらしく、苦笑している。


「今回は急な人事のようですし、入用の物を揃える暇もなかったでしょうから、そうした点での配慮もあるのかもしれませんわね」


秀玲も思案気にそう意見を述べた。

 立勇もなにか不足があれば後ほど差し入れるつもりでいたのだが、今のところ特に困っている様子はなさそうだ。

 それにせっかくの新居なのだから、今から自分で色々と作ったり集めたりして、好みの空間に整えていく楽しみもある。

 配慮を先んじるあまり、その楽しみを雨妹から奪ってしまうのもよくないだろう。

 なにしろ物置を部屋に改造してしまった娘なのだから。

 一方で、立勇の選んだ差し入れだが。

 これまで雨妹への差し入れといえば、とりあえず食べ物を選べば外さないという認識だった。

 だが雨妹の下についた新入りのやせ細った身体を見るに、どうやらあちらは食べるのがあまり得意ではないようだと考えて、今回は茶葉にしたのである。

 そしてその選択は正解だったようで、立勇の戻り際に見送りに部屋から出て来た静という娘は、「饅頭ではなかった」とあからさまにホッとしていた。


 ――さて、粗食しか知らない苑州の者に、雨妹がどれだけ食欲を仕込めるものかな。


 きっと雨妹は苦労することだろうと、立勇は内心で懸念する。

 立勇は都育ちとはいえ、そのあたりの事情は故郷の者からよく聞かされているし、里帰りをした際に州境を抜けて来た者を見たこともあった。

 死人と紙一重な身体つきを見て、絶句したものだ。

 立勇がそんなことを考えていると。


「それで、例の新入り宮女の素性は、少しは知れたのかな?」


いよいよ明賢が核心の疑問を持ちだしてきた。

 これに、立勇は不自然に思われないように思案するような間を置いてから、答えを述べる。


「雨妹の『あの娘をひとかどの人物に育て上げよう』という心意気は、見受けられました」

「ふぅん、なるほど?」


立勇の言葉に、頷いたものの心底納得した様子ではない。


 ――これ以上会話を続けるのはよくないか。


「では、所用にて台所の様子を少々見て参ります」


立勇は不自然を承知の上で、強引に会話を切って立ち去るのだった。

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