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274話 とりあえずお茶でも

立彬リビンのおかげで気が楽になった雨妹ユイメイは、とりあえずせっかく新居を見にきてくれた立彬にお茶を淹れようと、竈に火を入れる。

 立彬が差し入れに桃の香りがする茶葉をくれたので、早速試飲である。

 お湯が沸くまでの間に、台所から卓代わりの木箱を持ちだすと表にひっくり返して置き、他の木箱を椅子代わりにひっくり返す。

 卓の方の木箱に布を敷いてそれっぽくしたところで、ちょうどお湯が沸いたので、木箱の卓でお茶を淹れると「どうぞ!」と立彬に席を勧める。


「うぅ~ん、いい香りのお茶ですねぇ。

 お腹が空く香りです」

「これは、母上が気に入っている茶葉だ」


雨妹がお茶の香りをくんくんと嗅いでいると、立彬がそう説明してくれた。

 なるほど、彼の母の秀玲のお気に入りとあれば、きっとお高い茶葉に違いない。

 そう思ってお茶を口に含むと、ほのかな甘みを感じる味がした。


「……ふむ、ずいぶん上手く淹れられるようになったな」


同じくお茶に口をつけた立彬がそんな風に言う。


「ふふん、これでも日々腕を磨いていますので」


雨妹のお茶の先生でもある立彬に褒められ、雨妹は思わず胸を反らせる。

 ヤンがお茶を飲んでいる時などに、たまにお願いして淹れさせてもらうのだ。

 自分一人だと白湯で済ませてしまうので、お茶を飲むには誰かと一緒である方がいい。


「けど、自分専用の竈って便利ですよねぇ」

「まあ、そうだろうな」


雨妹がしみじみと言うのに、立彬は木箱に座って頷く。

 後宮はそこいらで勝手に火を焚くことができない場所であるので、ある程度自由に扱える竈があるのは、特に寒い季節には嬉しいことだ。

 家の竈は小さなものなのだけれど、ちょっとお湯を沸かすというのにちょうどいいかもしれない。


「家具は足りているのか?」

「はい、昨日立派な敷物を差し入れしてもらっちゃいましたから、土間でも暖かいです!」


立彬の気遣いに、雨妹が我が家の快適さを自慢しようと胸を張る。


「……ほう、『立派な敷物』か」


立彬はそこが気になったようで眉を上げてみせたが、それ以上の追及はない。

 おそらく誰からの差し入れなのか、見当がついたのだろう。

 そしてそれはたぶん当たっている。

 ともあれ、こうして温かいお茶で喉を潤したところで、雨妹は早速疑問をぶつけてみた。

 確かに今、誰かに聞きたいと思っていたことがあるのだ。


「立彬様、苑州ってそんなに食糧事情って悪いんですか?」

「ふむ、そのことか」


雨妹のこの疑問に、立彬はどう話したものかと思案顔で口を開く。


「食事情は悪いな。

 そもそも苑州は耕作に向かない岩山ばかりの山地であるし、何家をはじめとした州城の連中は庶民の暮らしに興味がない」


だから民がなにを食して命をつないでいるのかなど知りもしないだろう、と立彬は述べた。

 なので、食うに困って州境を密かに抜けて青州に逃れてくる者が多く出るのだそうだ。


 ――なにそれ!


 あんまりな話に雨妹は目を見張るが、それでもさらに疑問を述べる。


「でも苑州って、ずっと東国と戦争をしているんでしょう?

 戦争をするのは兵士の人たちで、その人たちのご飯は大事じゃないですか!」


その東国と癒着があったという事実がこの頃発覚したとはいえ、それでも国境が戦争状態だという認識は、庶民にはあったはずのだ。

 ならば、戦争をしているのだと演じて見せる必要があるわけで、そのためにも食糧確保は必須であろう。

 腹が減っては戦ができぬと、昔から言うではないか。

 しかし、これに立彬が答えるには。


「州城の連中は戦場には立たぬからな、兵士は霞を食っているとでも思っているのではないか?」


なんとも憤慨ものの意見に、雨妹は目を釣り上げる。


「そんなわけないでしょうが!」

「私に怒るな」


思わず木箱から立ち上がって怒りの声を上げる雨妹に、立彬が冷静にそう返してくる。

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[気になる点] 私たちの主人公と髪を切るプロットをしないでください。泣きそう。
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