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273話 警戒相手

やがて立彬が、戻ってきた雨妹たちに気付く。


 ――うっ、今できるだけ会いたくないのに!


 雨妹は静に関することを太子周辺に話さないように言われているが、こうした内緒事というのは案外難しいもので、言葉にしなければいいというわけではない。

 態度や目線で怪しさが露呈することもあるわけで、なので会わずに済むのが一番なのだ。

 そんなわけで、立彬の存在に思わず身構える雨妹であったが。


「雨妹よ、あそこに大きな物を置くのは、死角になって危ないぞ」


その立彬がこちらへ挨拶よりも先に、積んである籠を指差してそんなことを言ってくるのに、雨妹は気が抜けてしまう。


「それは御忠告どうも」


防犯の観点での助言に、雨妹はまだちゃんと置き場所を決めていなかっただけの籠を動かす。


 ――身構えすぎてもよくないよね。


 雨妹は気分を切り替えて、いつも通りの平常心で行こうと試みる。


「静静、疲れたでしょう?

 夕飯まで休んでいなって」

「うん、そうする」


とりあえず静を立彬の前から避難させようと声を掛けると、静はやはり疲れていたのか、大あくびをして奥の部屋へと入っていく。


 ――とりあえず、これでよし!


 雨妹は隠さなければならない人物をこの場から去らせたことで安堵して、改めて立彬に向き合う。


「もしかして、引っ越し先の家を見に来たんですか?

 立彬様も結構野次馬ですね!」


雨妹が普段から「野次馬根性が強め」だとからかわれているのを言い返してやると、立彬は「ふん」と鼻を鳴らす。


「それはそうだろう、今影ではひそかな噂になっているからな」


そう話す立彬に意味ありげな視線を周囲に向けられ、雨妹はぐっと息を呑む。

 静の動向を見張っている杜の手の者の気配を察知しているのかもしれない。

 平常心を努めようとしていたのが、あっという間に吹き飛んでしまった。


 ――この間立彬様は、やっぱり簡単に誤魔化されてはくれなかったかぁ。


 そもそもの話、雨妹ごときの嘘で騙されるようでは、太子付きなんて地位にはないに違いない。

 けど、だからとすぐさまお手上げするわけにはいかないので、「さて、これからどうするか」と考えていると。


「お前は、なにか聞きたいことはないか?」


唐突に、立彬に問われた。


「……はい?」


こんなことを言われると思っていなかった雨妹は、呆け顔になる。


 ――聞きたいこと、聞きたいこと?


 なにを聞けと言われているのかと、雨妹が首を捻っていると、立彬が「はぁ」と息を吐く。


「お前の立場としては、疑問を覚えても方々で尋ねて回るわけにはいかないだろうが」

「いやぁ、えっと、そのぅ」


雨妹はなんと答えるのがいいのだろうか、と目をさ迷わせつつも頭をぐるぐるとさせるが、そこに立彬が続けて語り掛けた。


「私は、おそらく『あちらの方々』よりも有益な答えを出せるだろう。

 けれど、私からお前にはなにも尋ねない」


最後にきっぱりと断言した立彬に、雨妹は目を丸くする。

 立彬はなんでそんなことを言ってくるのだろう?

 それでは立彬にはなにも得がないではないか。


 ――それとも、誘導尋問とかでなにか情報を引き出されたりとか……。


 雨妹が疑いの眼差しを向けるのに、立彬は静かな視線を返して来た。


「雨妹よ、秘密というものは、持ち慣れていないと心を病ませる」

「……!」


そして語られたことに雨妹がハッとすると、立彬が手を伸ばしてきて、頭巾越しに頭をポンポンと叩く。


「あの方とて、お前に完全な黙秘は求めてはいまい。

 肝心なことだけを話さなければいい、程度に思っていることだ」

「立彬様……」


つまり立彬は、なにかを聞き出そうとして来たのではなく、雨妹のことを心配してくれているのだ。


 ――なんだかんだで優しいんだから、もう!


 雨妹は緊張を解いて、へにゃりと表情を崩した。

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― 新着の感想 ―
この時の雨妹は静を守らなきゃと思う余り子猫を守る母猫みたいに周囲への緊張、警戒感に溢れていた感じがするんですよね。 だから立彬がいつもの雨妹に戻してくれて安心しました。 単行本の挿絵でも雨妹がホッとし…
[一言] 立彬めっちゃいい男だし頼りになるけどパパ上から目の敵にされてるのこういうところなんだよな(頭ポンポンからの絶妙な気遣い) 絶対雨妹に付いてる影の皆さんも同じこと思ってるって
[良い点] イケメンすぎるやろ!
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