253話 双子との出会い
苑州は大公選びが難航している上に、上層部は薬に汚染されている。
そのような状況の中、ダジャの奴隷としての所有権が、博から双子たちへ譲渡された。
珍しい把国人の奴隷なので、博を連れ出す東国人が一緒に欲しがったが、博が懸命にこの地に残したいと願ったのだ。
ダジャは早速、その双子へと会いに行ったが、双子は苑州でもかなり奥地にある里で暮らしていた。
双子の両親は既におらず、里の長老に育てられたのだという。
大公家の直系であるというのに、かなり貧しい暮らしをしていた。
『静も宇も、里の中だけが世界の全てで、苑州でなにが起きているのか、全く知らなかった』
というのも、博がこの双子を可愛がっていて、この隠れ里のような場所に隠したからだ。
双子の両親は苑州の現状を憂いて改革を訴え、それが邪魔に思われて殺されてしまったそうである。
しかしその隠していた存在が大公へと推されたのだから、博の身近な人物が情報を漏らしたのだろう。
突然表舞台に放り出される形となった宇が利用されないためにも、世間のことを今知らなければならない。
ダジャが奴隷であることや、双子へ所有権が移されたこと、事がここに至るまでの説明をすると、長老は卒倒しそうな顔色になり、双子は興味津々な顔でダジャを眺めてきた。
『すぐにでも双子を逃がしたかったが、それに一歩先んじて、州都から里へ使者がやってきた』
使者は州兵でもなんでもない、どこぞの里の自警団の若者であった。
使者といっても書面を預かっているだけで、中身がなんなのかも知らない、単なる伝言役である。
その者がもってきた書面には『何宇を大公に任ずるので、速やかに州城へ出頭するべし』と書いてあった。
この信じられない内容に、里の者はみんな仰天したという。
双子の育ての親である長老は、双子を権力者から守るには弱い立場である。
それでも「このような子どもに、大公などという重荷を背負わせるなどあんまりだ」と言って、州都へ連れてくるようにという要請を突き返した。
宇に背負わせるにしても、成人するまでの数年は別の大人が背負うべき責務だ。
この真っ当な意見に、伝言役の自警団の若者も頷かざるを得なかったようで、あっさり引き下がったという。
というよりも、このような大切な伝令を地元民任せで州兵を正式な使者として派遣しないあたり、苑州中央の混乱ぶりというか、宇を「所詮田舎者だ」と下に見る姿勢がうかがえるというものだろう。
拒否された苑州上層部は、当然強引に宇を連れて行こうとして、やがて使者なのか暴漢なのかわからないような男たちがやって来た。
彼らは全てダジャが撃退したのだけれど、これで諦めるはずもない。
こうなっては、いよいよ速やかに苑州を脱出した方がいいということになった。
双子も積極的ではないものの、面倒ごとに巻き込まれないためだと説得した。
当初、双子を脱走者として肩身の狭い思いをさせることに反対していた長老も、やがて脱走計画を了承する。
今の大公の位がどのような地位なのか、長老もちゃんとわかっていたのだ。
しかし、この計画がどこからか漏れていたらしい。
『ある日、静が攫われてしまったのだ』
攫われたと知ったのは、ある日懲りずにやってきた使者が「静の身柄を預かっている」と言ってきたからだ。
それまで、そのあたりで遊んでいるものだと、長老もダジャも思っていたという。
『ある里の者が、金に釣られて連れ去りに協力したのだ。
長老も我も信頼していた男だったというのに』
使者は「静は丁重に扱われており、宇が州城へ行けばそこで待っている」と告げた。
宇に大公となることを了承させるために、静を人質にされてしまったのだ。
だが、人攫いの言葉をどれだけ信じられるというのか?
すぐに静の奪還に動いたダジャだったが、静を見つけたのは静を商品として商人に売り払う寸前であり、奴隷の印を刻まれようとしている、髪の短い静の姿があった。




