236話 食は戦い
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大盛の器を見て、静が頬をひきつらせている。
「なんだこれ……」
昨日の普通盛りの粥にすら「多い」と言うような静であるので、この大盛の量はきっと異常事態に違いない。
ちなみに今日の朝食は餡かけ飯、前世で言うところの中華丼だ。
寒い朝には温かい餡が絡んだご飯がとてもありがたい献立で、しかも大盛となれば雨妹ならば喜ぶところである。
「静静、頑張って食べられるだけ食べようか、残りは私が食べてあげるから」
雨妹は静にそう話す。
今の静の食欲的には多いかもしれないが、雑用をこなす宮女はただでさえ体力勝負であるので、小食を許したままにしておけばすぐに倒れてしまうだろう。
雑用宮女は食べねばやっていられないのだ。
静は今のところ飢餓状態で動くのに慣れた身体になっているだろうが、やはりそれは健全な状態ではない。
「……わかった」
静は雨妹が妥協しないことをその目力で悟ったのか、やはり渋々頷くのだった。
それから静にとっては戦いの時間が始まり、その朝食の戦いを終えて部屋に戻った雨妹たちだったが。
「食べ過ぎて具合悪い……」
大盛餡かけ飯を半分くらいまで頑張って食べた静は、そんな愚痴を漏らした。
大盛を半分なので、ご飯は普通の量よりも少なめといったところだが、飯にかけられている具だくさんの餡が胃を圧迫しているようだ。
けれど食べ応えがあって栄養満点なこともあり、宮女たちに喜ばれる品である。
静とて量が多いというだけで、美味しかったことは確からしく、餡かけ飯自体に不満はないようだった。
「これから仕事で身体を動かせば、楽になるって」
「そうかなぁ……」
雨妹がそう言うと、静は懐疑的な表情である。
しかし食事もある意味訓練なのだ。
食べて動いて消費してを繰り返して、身体に食べ方を教え込むのだから。
「慣れない量なのはわかるけど、静静はその身長なんだから、本来ならそのくらい食べるものなの。
成長するのに必要な量を食べていないと、正しい成長ができないよ?
大人になって背は高いけど筋肉のないひょろひょろで骨ばった身体なんて、静静だって嫌でしょう?」
「……そうだけど」
雨妹がそう言い聞かせると、静はむっつりとした顔ながらも頷く。
静は今まだ成長期なので、食事での身体づくりの修正が間に合う。
けれどこれがあと数年経って筋肉や骨の成長が止まってしまったならば、もう修正が効かないのだ。
「静静はきっと、これからなにかをやりたいんでしょう?
だったらなおさら、逞しい身体に仕上げておかないと、悪者なんて殴り倒せるくらいにね!」
静が「逞しい」という言葉にピクッと反応した。
「……私も、ダジャみたいに逞しくなれる?」
この問いに、雨妹は「う~ん」と首を傾げる。
ダジャは体格以前に人種差というものがあるので、簡単に比べられないだろう。
「ダジャさんと同じようにっていうのはちょっと難しいけどさ、静静は今でもそんなに背が高いんだもの、女侠客くらいは目指せるって!」
雨妹は己の好みを若干織り交ぜた意見を力説した。
前世の華流ドラマで、武侠モノも好みであった雨妹である。
剣や棍を巧みに操って敵をバッサバッサとなぎ倒す様に未だに憧れがあるし、諦めていない道なのだ。
「女侠客って、子ども相手のお話じゃあないんだから」
静はちょっと馬鹿にした口調だったが、表情はちょっと嬉しそうであった。
おそらくはまんざらでもないのだろう。
なんであれ、これで静が食事を積極的に増やそうという気持ちになるならばいい。
せっかくの美味しい食事なのだから、その美味しさを楽しみながら栄養をつけて成長していった方が、いいに決まっているのだから。
――けど後で医局に行って、静静のための胃薬を貰った方がいいな。
粗食続きで弱っている胃を健康にするには、やはり薬にも頼った方がいいだろうと、雨妹は心に書き留める。




