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219話 意地っぱり

雨妹ユイメイはまず、ジンの足を桶の水で洗う。


「……っ痛う! 痛いじゃないか!」


水が傷に沁みたらしい静がジロリと雨妹を睨むが、こちらだって意地悪で痛くしているのではない。


「こんなに酷い状態なんですし、痛いのは当たり前です。

 ですがこうして傷口を清潔にしておかないと、最悪の場合には足が腐り落ちるかもしれないんですからね!?」


「え!?」


雨妹の言葉に、静がギョッとした顔になる。

 脅すような言い方になったが、掛け値なしの真実である。

 小さな傷だって放っておくと大事になるのだから。


「じゃあ、私の足は腐っちゃうのか!?」


自分の足が腐る様を想像したのか、これまでの強気から一転して泣きそうな顔をする静に、雨妹は安心させようとニコリと微笑む。


「治療が間に合いましたから、腐りはしません。

 けれど、もっと早くにこの足の状態を誰かに訴えるべきでした。

 そうすれば、こうまで痛くはならなかったでしょうに」


「……」


雨妹の指摘に、静はふくれっ面になって俯く。

 静は我慢してここまで歩いた、その頑張りを認めてほしい気持ちが強いのだろう。

 なにしろ彼女はまだ子どもなのだ。

 そんな静に、雨妹は静かに語りかけた。


「この足でここまで旅をしたあなたは、すごく心の強い人なんでしょうね。

 でも、そのせいで足の怪我が悪化して取り返しのつかないことになったら、一緒にここまで旅をしてきたダジャさんが悲しむのではないですか?

 あなただって、ダジャさんが怪我をしたことを隠して無理をしていたら、悲しくなりませんか?」


これを聞いて、静がハッとして顔を上げてダジャを見る。


「そう、だね。

 そうだよ。

 私が悪かったかも」


己の非を認めた静は、その後は雨妹の治療を黙って受け入れていた。

 一方、雨妹がこうして静の足の治療をしている横では、リー将軍がミンに話しかけている。


「明よ、苑州の何家の大公と会ったことはあるか?」


李将軍に問われた明は、難しい顔になる。


「ずぅーっと昔に、戦場で陛下の供をしていて、当時の大公のお顔をちらりと見たくらいですので、この娘が真実血縁かどうか、自分には分かりかねます」


「そうか、俺も同じようなものだ。

 さてさて、真贋を確かめるにはどうしたものかなぁ?」


男二人がそう言い合い、頭を悩ませていると。


「そちら、何者だ?」


これまで黙って成り行きを見守っていたダジャがそう尋ねてきた。


「ああ、俺の身分か?」


ダジャにそう問いかける李将軍の様子を横目に、雨妹もそういえばこちらも正式に身分を明かしていないことを思い出した。

 ダジャは「こちらも名乗ったのだから、そちらも名乗れ」と言いたいのかもしれない。


「まあ、話を進めるには必要か。

 自分はこの崔で衛将軍を賜っている、李である」


そう言って李将軍は鎧につけている徽章を示してみせる。


「私はそのお供です」


雨妹もそう名乗る。

 本当は今回の外出だと雨妹の供が李将軍なのだが、これを理解してもらうには将軍と下っ端宮女という身分差からややこしいことになるため、そういう事にしておいた。

 これについて、明も口を挟まない。


「兵の長か」


「まあ、そういうこったな」


納得したらしいダジャに、李将軍も頷いてみせる。

 ダジャは異国人ながら李将軍の徽章を信用したのか、それとも李将軍のこれまでの振る舞いで、なんらかの確信のようなものを得ていたのかもしれない。


「見せるもの、ある」


ダジャがそんなことを言って、懐を探って油紙の包みを取り出した。


「これ、分かるか?」


そう言ってダジャが差し出す包みを、李将軍は受け取る。

 包みを開けると、中にあるのは印鑑と手紙だった。

 それらの物、特に印鑑を見た李将軍と明が、顔色を変えた。


「……これは、何大公の印!?」


なんと、ものすごい物が出てきたようだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 印鑑だと判子(印章)を押したもの、印影であって本体なら印章と言うべきなのだとラジオで放送してました。
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