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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第二章 繋がる縁

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21話 ついに遭遇

立彬(リビン)曰く、庭園から現れた人物が皇帝陛下だという。

 この崔の国の頂点にいる人で、雨妹(ユイメイ)の父かもしれない男。

 その顔を一目見ようと思うのだが、いかんせん立彬の押さえつける手の力が強い。


 ――痛い、もう少し顔を上げさせて!


 ちらっとでいいから皇帝の顔を見ようとする雨妹と、その頭を押さえつける立彬の攻防が繰り広げられる中、(ワン)美人がおっとりと皇帝に話しかける。


「まあ陛下、こんなお時間に珍しいですわね」


「少々、お前と茶を飲みたくなってな」


皇帝はお茶のために突撃訪問したらしい。

 妃嬪(ヒヒン)としての位が低いために後宮の端にある王美人の屋敷だが、案外皇帝の寵愛度は深いのかもしれない。


 ――だったら、あの汚屋敷放置も納得かも。


 王美人から皇帝の足を遠ざけたい者の仕業だろう。

 立彬との静かな戦いをしながら、そんなことを考えている雨妹の方に、皇帝がチラリと視線を向ける。


「お前は、明賢(メイシェン)の所の者ではないか」


そして隣の立彬に声をかけた。

 立彬は太子付きの宦官であるので、皇帝に顔を覚えられていてもおかしくはない。

 皇帝に存在を気付かれた立彬が、少し顔を上げた。


「は、少々所用でこの宮女を探しておりまして、たまたまこちらに」


目的が王美人ではないことを明らかにするためであろう、立彬が告げる。


 ――太子付きの宦官が皇帝の妃嬪に近付くって、聞こえが良くないもんね。


 そう思いながら、立彬の意識が皇帝に向かって手の力が緩んだ隙に、雨妹も少し顔を上げて皇帝を見る。

 そして最初に目に入ったのは、皇帝の青い目だ。

 雨妹が自分以外で出会った青い目の持ち主は、太子に続いて皇帝で二人目となる。


 ――これって、もしかして……


 青い目の意味について思考が纏まりかけた時、皇帝とバチッと音がするかのように目が合う。

 雨妹が慌てて頭を下げるのと、立彬の手の力が復活するのが同時であった。

 おかげで額が膝に付きそうになる。


 ――曲げすぎて腰と背中が痛い!


 雨妹の「うおぉ」という低い呻きが聞こえたのか。

 立彬が若干手の力を緩めたおかげで、九十度までお辞儀の角度が修正された。

 そんな雨妹たちに、皇帝の視線が注がれていたのだが。


「陛下、温かいお茶を用意しますからこちらにどうぞ」


皇帝がこの場を去らないと雨妹たちが動けないと察したのだろう、王美人が屋内へ誘導する。


「……そうか」


ようやく皇帝は雨妹たちから視線を外し、王美人に連れられて行く。

 残された二人はしばし頭を下げたままだったが、しばらくして雨妹は膝から力が抜けるように地面にへたり込んだ。


「うぉお、ビビったぁ」


後宮に皇帝が住んでいるとしても、実際にその姿を見ることができるのはほんの一握りでしかない。

 下っ端宮女が国で一番偉い人に会うには、心の準備が必要ではなかろうか。


 ――いや、でも医局で太子に会うよりは、まともな遭遇の仕方かも。


 皇帝が己の妃嬪の元に通うのは、至って普通のことだろう。

 むしろ心の準備をしていなかった雨妹がうかつなのかもしれない。

 それにしても、驚いたら余計にお腹が空いた。


「お饅頭、食べていいのかな?」


王美人が言っていたおやつの饅頭は、果たして貰えるのだろうか。

 雨妹の心配に、立彬が呆れ顔をする。


「お前、皇帝陛下を拝見したのだぞ?

 もっと他に言うべきことがあるだろう?」


皇帝とのほんの一瞬の初対面に、饅頭以外に言うべき事とはなんだろう。

 雨妹はしばし己に問いかけた。

 そもそも雨妹は皇帝に特別な期待を抱いていない。

 尼寺で聞かされた母の話が本当だとしても、皇帝にとっては数多いる奥さんの一人でしかない。

 そんな相手に肉親の情なんて求めてはいけないと、とうの昔に割り切っている。

 なので今の関心ごとは、皇帝の訪れでおやつの行方がどうなったのかだ。


「いや、饅頭の事以外は特にないかな」


そう結論付ける雨妹に、立彬が奇妙な生き物を見るかのような視線を向ける。


「お前は……」


なにか言いたそうだがそれをぐっと飲み込んだような立彬に、雨妹はヒラヒラと手を振る。


「会えて幸運くらいは思ってるって、明日はいいことがあるかなぁ」


お気楽な雨妹に、立彬が深くため息を吐いた。

 結論を言えば、王美人のお供の人がちゃんとくれたので、美味しくいただいたのだが、立彬と二人で食べることとなる。


「美味しいね~」


「普通に饅頭の味だな」


ホクホク顔で齧り付く雨妹に対して、立彬は無表情に口に入れる。

 そして会話が続かない。

 微妙に静かなおやつタイムであった。


そして夕食時、雨妹は食事を盛ってくれる美娜(メイナ)に告げる。


「今日、陛下を見ちゃいました」


「まあ、運がよかったね阿妹(アメイ)、きっといいことがあるよ」


お玉で汁物を掬いながら美娜が返す。雨妹同様、皇帝陛下の扱いがまるで幸運グッズのようだ。

 だが皇帝なんて存在とは縁遠い宮女の認識なんて、こんなものである。

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