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209話 除夕

今夜は除夕チューシーの夜だ。

 

 除夕とは前世日本で言うところの大晦日であり、この国では家族と一緒に新年を祝うために故郷へ帰り、語り合いながら食事を囲む日である。

 そんな夜に、食堂では賑やかな声があふれていた。

 家族の元へ帰れない宮女たちは、こうして仲間と語り合い、望郷の念を酒で流すのだろう。

 ほとんどの者がこの日ばかりは夜更かしをして、このまま年明けの鐘が鳴るまで酒を飲んで過ごすらしい。

 そんな酒盛りの片隅に、雨妹ユイメイも加わっていた。

 ただし雨妹のお目当ては酒ではなく、団欒を演出している食事なのだけれども。


「美味しい~♪ お魚が食べられるなんて、贅沢ですねぇ」


小ぶりな魚を油でまるごと揚げたものを、雨妹は頭からかぶりついていた。

 これは川魚だが、それでも魚が下っ端宮女の口に入ることなんて普段ないのに、これぞ除夕の贅沢だろう。

 雨妹が喜ぶのに、目の前に座る美娜メイナが「うんうん」と頷く。


「この日ばかりはアタシらにも振舞いだってんで、魚が回ってくるんだよ」


「そうなんですねぇ」


雨妹は頷きながら、小骨まで食べられるくらいにカラッと揚がっている魚を、モシャモシャとかみ砕く。

 日本の大晦日と同じく、この国でも除夕に食べるお約束の料理がある。

 宮女たちの故郷によって食べられるものも変わるようで、それぞれの卓にはそんな各地の料理が様々並んでいる。

 その中でも魚や、水餃といういわゆる水餃子、日本の餅のような年糕などが、幸運を得られるありがたい料理であるとか。

 なんでも魚は繁栄、水餃は富、年糕は一年の幸運を願うものだそうだ。

 あと、日本の年越しそばのように長生きを願って麺を食べる習慣も、どこかの地方にある。

 これらが全部こうして揃っているのは、百花宮という様々な里から人が集まる場所ならではだろう。


 ――きっと川魚を獲る漁師さんたちは、大忙しだな。


 なにせ人口が多い都であるので、百花宮だけでなく都の人たちがみんな「除夕にくらい魚を食べたい」と思うとしたら、どれだけ魚を獲っても足りないに違いない。

 もしかするとお偉い方々だと、海の魚が食べられているのだろうか? 冬になれば海産物の運搬もしやすくなり、干物の魚が入ってくるらしいのである。

 それに、楽しいのは食事だけではない。

 食堂の外には春節の飾りとして、道沿いや建物の軒下に赤い灯篭が設置されている。

 外を歩くと赤い光があちらこちらに灯っていて、幻想的な雰囲気を味わえるのだ。

 他にも戸口に春聯しゅんれんという赤い紙の対句、これまた日本でいうところの門松みたいなものが飾られていて、それらを読み比べながら歩くのも楽しいものだ。

 こんなに大々的に祝う春節は、今世では初めてだ。

 前世の中国旅行で味わった春節の方がずっと賑やかだったのだろうが、それはそれ、これはこれである。


 ――いいなぁ、みんなで過ごす除夕って。


 雨妹はこれまでの除夕に特に楽しい思い出などがない。

 幼少期を過ごした尼寺は春節に特別賑々しくする習慣はなかったし、尼寺を出てからも一人で過ごす除夕なので、やはり盛り上がりに欠けるものだった。

 つまり今世、こんな人に囲まれて過ごす除夕は初なのだ。


「ふふ、楽しくって眠れないかも!」


「ははっ! だから皆こうして食堂にいつまでもいるんだよ。

 ほら、水餃も食べな」


雨妹が美娜とこうしたやり取りをしていると。


「小妹」


ヤンが声をかけてきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 漁師さん良い魚の取り方ががありますよ〜 くっそ重たいハンマーを持って川の真ん中にある程度岩の上で暫く待って魚がある程度戻ってきたら力いっぱいハンマーで大岩を殴るんですよ。 いっぱい魚が浮かん…
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