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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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188話 徐と陳

それから二日後、チェンの刑部への往診の許可が出た。

 その際、徐が初めて会う医者相手に緊張しないようにと、雨妹ユイメイも臨時の助手として同行することになる。

 刑部の建物へ勝手に入るわけには行かないので、途中であちらが寄越す案内人と落ち合うことになるわけであるが。


「来たな」


約束の場所で雨妹と陳を待ち受けていたのは、立彬リビンだった。


「……もしかして、刑部に入るための案内人ですか?」


「そういうことだ」


雨妹の問いに答える立彬がとても渋い顔をしており、不本意であることが見て取れる。

 どうやらあの同期だという刑部の男から、またもや頼まれてしまったようだ。

 確かに知らない役人を寄越されても、それが本当に本物の刑部の役人なのか雨妹には判断できないため、信頼性という点ではこの上ない人選なのだろう。


 ――でも太子殿下の安全、大丈夫なのかな?


 雨妹は思わずそんな心配をしてしまう。

 まあ、立彬一人だけが警護しているわけでもないだろうし、許可が出ているからこうしてここにいるのであろうが、どうも便利に使われ過ぎているのでは? と立彬に同情してしまう。


「お前さんも、難儀だなぁ」


雨妹と似たようなことを考えたらしい陳からそんな声をかけられた立彬は、大きくため息を吐いている。


 結果として、なんだかんだでいつもの顔ぶれと言える面子で、刑部の建物へ行くこととなった。

 建物へ入ると、勝手にフラフラとされないようにか、案内人の立彬とは別にもう一人見張りがつくらしいが、それは見慣れない相手だ。


 ――あの人じゃないんだ、忙しいのかな?


 あの男はおそらく刑部でも偉い部類の役人だろうから、そうそうこのような案内役に出てこないのもわかる。

 一方で雨妹たちを先導するのはまだまだ少年っぽさが抜けない、おそらくは雨妹と変わらないくらいの成人したばかりであろう人物だった。


「あの、こ、こちらです!」


彼は立彬をチラチラ見ながら緊張してガチガチになっているのがまるわかりだ。

 立彬は宦官の格好をしているものの、近衛として鍛えている身のこなしには隙がなく、威圧感があるのだろう。


 ――大丈夫だから、立彬様は取って食ったりしないから!


 雨妹は彼の背中に心の中でそう励ましの言葉を投げかけつつ、いかにも新人らしい初々しい様子にほっこりする。

 そんな雨妹を、立彬がチラリと見た。


「お前だって立派に新人だろうが、なのに老練者が見守るような視線は余計に酷だぞ」


「……そうですね」


雨妹は言われて気付き、それからできるだけ彼を見ないようにしておいた。

 確かに同じくらいの年頃の人から慣れているような雰囲気を感じると、「もしや自分は人として大きく不足があるのではないか?」と思ってしまうかもしれない。

 雨妹自身は新人らしくしているつもりなのだが、ところどころで前世の自分が出てしまうのは、もう仕方のないことだろう。

 これもまた自分自身の一部なのだし、変に隠して取り繕うより、立彬のように「変な娘だ」と諦め気味に認識される方が気が楽というものだ。

 そんなこんながありつつも、雨妹たちが案内されたのは、以前よりも広そうな部屋であった。


「私は外にいますので、用事が済みましたら声をかけてください。

 しかし、部屋の戸は閉めずにお願いします」


案内の彼にそう言われ、雨妹はこれに頷いてから戸を叩く。


「徐さん、雨妹です。

 入りますよ」


雨妹は一声掛けてから戸を開くと、中は普通の部屋だった。

 狭い中庭に面した窓があるが、その中庭は刑部の官吏が休憩に出入りするし、外部者に見られない区域になっているようだ。

前にいたのはちょっとマシな牢獄といった感じであったのが、今の場所はちゃんと部屋であるので、徐の居心地は段違いであろう。

 徐は中庭が見える窓辺に座って待っていた。


「徐さん、今日は約束通りお医者様を連れてきましたよ」


雨妹が話しかけてから、陳が一歩前に進み出る。


「医局で医者をしている陳だ。

 お前さんが徐子かい? ちょいと診せてもらうぞ」


陳が徐にニコリと笑いかけるのに、徐は多少迷う顔をしたものの、


「……よろしく、お願いします」

そう言って頭を下げた。

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