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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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187話 刑部への往診

胡麻団子を二人で美味しく食べながら、雨妹ユイメイは早速話に入る。


「実は、刑部に身柄を保護されている患者さんがいるんですけど、往診してもらえますかね?」


そう切り出した雨妹は、シュとの出会いからケシ汁に関することだけをぼかしつつ、ざっと語った。


 雨妹の話を全て聞いたチェンは、お茶を飲んで胡麻団子を流し込んでから口を開く。


「なるほど、風湿病か。

 呪いだの祟りだのって言われがちな病気だな」


陳が気にしたのは徐が宮妓であることではなく、そちらの方だった。


「そうなんですか?」


雨妹は陳の言葉に驚く。

 美娜メイナに風湿病について話した時には、そのような話題にはならなかったのだが。

 これに、陳が「なんだ知らないのか」と言って説明してくれた。


「風湿病は酷いと節のところに瘤ができるだろう?

 それが大きくなると、人の顔に見えるって言い出す輩が結構いるんだよ」


「ああ、そういうことですか」


雨妹は呪いの原因に納得する。

 いわゆる人面なんちゃら的なものは、前世でもその不気味さから話題になったが、それは世界は変わっても同じであるようだ。


 ――確かに節の瘤って放置すると、かなり大きくなる場合があるもんねぇ。


 その見た目が不気味で、厭う理由としてそんなことをこじつけているのかもしれない。


「昔からある症状なことだし、病気だってわかってはいるんだが、この呪いや祟りだっていうのが妙に根強いんだよ。

 その徐子とやらも、もしかしてそうした偏見がある家庭に育ったのかもな」


陳が徐の現状を、そのように推察してみせた。


「ふむぅ、言われてみると、そういう流れもあるかもしれないですねぇ」


雨妹は一人唸る。

 風湿病は遺伝傾向のある病気である。

家族に患者がいて、その人が迫害を受けているのを見ていたら、この病気は知られてはならないものだと考えてしまうこともあるだろう。

 それで言うと美娜の場合は、労働で手指や関節を酷使する庶民ゆえに風湿病がありふれた病気であり、祟りだなんだと特別な事象となる余地がなかったのだろう。

 そうなると呪いだ祟りだとされてしまうのは、肉体労働をしない金持ちに多い可能性がある。


 ――道士がたかるのだって、貧乏人よりも金持ちに多いんだろうし。


 陳のおかげで、徐がここまで病気をこじらせてしまった原因の一端がわかった気がして、雨妹はスッキリとした気分になる。


「で、刑部に行けます?」


そして改めて尋ねた雨妹に、陳は「そうだなぁ」と顎をさする。


「刑部にはさすがに行ったことがないがな、入る許可さえあれば、そりゃあ往診くらいするぞ」


そう話した陳はお茶を一口飲んでから、ポン! と膝を叩く。


「そうだ、刑部っていえば、この間ケシ汁の現物を見たいとか言われて人が来たぞ。

 事情は聞かなかったが、もしや薬の害でも起きているのか?

 お前さん、なにか知っているか?」


陳がそう問うてきた。

 なんと、ケシ汁についての問い合わせが既にあったようだ。

 刑部は煙草の燃えカスではない状態を確認したかったのだろう。

 これに、雨妹は「まあ!」と驚いてみせた。


「ケシ汁ですか?

 それはまた高価な薬ですねぇ。

 私もそのあたりのことはさっぱりわかりませんが、大事にならないといいですけど」


雨妹は事件が露見した原因が自分だとはおくびにも出さず、無関係のような口調で告げた。

 この雨妹の様子を、陳は特に疑うことなく話を続ける。


「薬が悪さに使われるのは、昔からあったことだが、そのせいで薬を禁止されるのは困る」


陳がそう述べて「う~ん」と悩ましい顔をした。

どうやら気になるのは、その一点のようだ。


「ケシ汁って痛み止めですよね、ならば兵士の治療に使うことが多いですし、ケシ汁の使用禁止は軍が止めるんじゃないですかね?」


「そうだといいがなぁ」


雨妹の言葉を聞いて陳は大きく息を吐くと、胡麻団子を一つ口に放り込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 知識チートで依存性が少ない麻酔を………と思いましたけど元看護師だと調薬はさすがに範囲外か
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