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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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178話 再びの刑部

このようなやりとりがありつつも、雨妹ユイメイが胡麻団子を美味しく食べ終えたところで。

 雨妹は立彬リビンに伴われて、再び刑部へとやって来た。

 ちなみに立彬も一緒なのは、雨妹が刑部への道をちゃんと覚えていなかったのと、雨妹を一人で応対させるのに不安がられたためである。

 どうやら雨妹は放っておくとなにかしらのいざこざを引っ掛けてくると思われているようだ。


 ――私、そんな大層な困ったちゃんじゃないやい!


 非常に不本意な扱いであることに、雨妹は頬を膨らませる。

 そして建物の入口では、あの立彬の知り合いである男が待っていた。


「どうも、お呼びだと伺い参りました」


雨妹は男に向けて礼をとると、彼はヒラリと手を振ったのみで応じ、「こちらだ」と早速案内する。

 雨妹は立彬と共に男の後ろについていきつつ、その背中に問いかけた。


「あれから、シュさんはどうでしたか?」


これに男は前を向いたまま答える。


「どうもしないな。騒ぐわけでもなく静かなものだったぞ?

 死にたがっていたようだから、自死騒ぎを起こすかと警戒していれば、そんな様子も見せなかった」


男の説明に、雨妹はホッとする。

 こちらとしても、徐がやけを起こしてからの自死を特に心配していたのだが、それが杞憂であってなによりだ。


「お前の最後の説得が効いたのではないか?」


一緒に話を聞いた立彬がそう言ってくるのに、雨妹は「う~ん」と首を捻る。

 このことを雨妹の功績だと称えられるのは、少し違う気がするのだ。


「確かに私は徐さんと話をしましたけど、他人からなにかを言われて即聞き入れるような素直な人って、そうそういないと思うんですよ」


雨妹はそう述べる。

 人が他人の言葉を疑ってかかるのは当たり前だろう。

 たいていは己の自我と他者の言葉をすり合わせ、理解していく過程を経てから意見を己のものとするのだ。

 この過程というのが案外気力体力を使うもので、気力体力がなければ何を聞いても全て否定するか、逆に全てを信じてしまうのだ。

 それで言うと、徐はきちんと過程をこなせる状態だったというわけだ。

 彼女は少々視野を狭くしていただけで、状況的には追い詰められてはいなかったということではないだろうか?


「徐さんにはまだきちんと考える余地があった、ということじゃないですかねぇ?」


「ふむ、分かるような分からぬような……」


雨妹の言葉に、立彬は微妙な表情をする。

 苦労人のようだがまだ歳若い立彬には、こうした気持ちは想像し辛いのかもしれない。

 きっとこれから色々な人と出会って、悟ることなのだ。


「小娘のくせに、ずいぶんと年寄りのように達観しているんだな」


一方で、前を行く男が面白そうな声でそう言ってきた。まあ、成人したての小娘に似合わない発言であることは確かだろう。


「徐は毎日を一人静かに過ごし、食事も文句を言わずに食べる。

 その食事の差し入れをした係の者が突然言われたんだ、あの掃除の宮女に話をしたいとな」


「なるほど、そうでしたか」


徐が雨妹を呼ぶに至った流れを聞けたところで、目的の部屋の前までやってきた。


 トントン!


「入るぞ」


男は部屋の戸を叩くと、一声かけてから中へ入った。

 部屋の中は牀と卓だけが置いてある簡素なものであり、そこで徐は牀に腰かけた体勢で、ぼうっと窓の外を見ていた。

 入ってきた男に構うこともしない。


「どうも徐さん、呼んでいると聞いて来ましたよ」


雨妹が声をかけると、徐がようやくこちらを向いた。


 ――前に会った時よりも、顔色は良いかな。


 雨妹は徐の様子をそう見て取る。

 前に会った時はひどい顔色をしていたが、今日の彼女はまだ青白いものの、多少はマシになっているように見えた。

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