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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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177話 呼ばれる前の腹ごしらえ

突然の立彬リビンの登場に、雨妹ユイメイは驚く。


「あれ立彬様、どうしたんですか?」


雨妹は掃除の手を止めて尋ねる。


「無論、用事があってのことだ」


問われた立彬はそう告げると、雨妹へ手招きして耳目を避けるように移動する。

 周囲に人の気配がなくなったところで、立彬が言った。


「刑部から知らせがあってな、徐子シュ・ジがもう一度お前と話がしたいそうだ」


これに雨妹は、目を瞬かせる。

 徐が雨妹と話をしたいということは、死にたがっていたあれから心境の変化があったということだろうか?

 いや、それよりも、だ。


 ――もしかして立彬様、使いっぱしりをさせられているの?


 太子の側近とは、ずいぶんと豪華な伝言役である。

 雨妹の考えていることが分かったのか、立彬が渋い顔をした。


「あいつめ、方々に連絡をつけるのを面倒がりおって、私に言伝を頼んできたのだ」


確かに、お偉いさんとのやり取りならば直に話すことが可能かもしれないが、雨妹のような下っ端宮女になにかを伝えたかったら、広くて人数の多い百花宮の中で、直に話をするなんてことにはならない。

 まず雨妹の属する組織の一番偉い人に繋ぎをとり、ただ話を聞きたいのであって捕縛ではないことを説明して理解を得ると、そこで出向いてほしい旨の伝言を頼み、その人が部下に伝え、その部下がそのまた部下に……というような伝言ゲーム状態となり、まともに話が伝わることは稀だろう。

 先日教坊内で男と雨妹が直に接触できたことが奇跡なのだ。

 雨妹なら普通であれば、楊あたりから刑部へ行くように命じられるところだろう。

 そうなると、雨妹が刑部へ現れるのはかなり遅くなるのは必然だ。

 あの刑部の男はそれを面倒がり、雨妹と直に会うことが可能な立彬に、雨妹との繋ぎを頼んだのだ。

 それを素直に自分で雨妹へ伝えに来る立彬も、律義というかなんというか。


「それは、お疲れ様です」


雨妹は立彬を労わる。

 ともあれ、雨妹は今日こなそうと思っていた作業はそろそろ終わりで、これからおやつを食べようとしていたところであった。


「あの、仕事終わりのおやつを食べますので、しばしお待ちを!」


おやつまでが仕事の作業と言っても過言ではないので、雨妹がこれだけは譲れないという気持ちを込めて立彬を見る。


「まあ、そのくらいは待とう」


特に急ぐことでもないのだろう、おやつ時間に反論はなかった。

 本日のおやつは、胡麻団子だ。油紙を開けると、胡麻の香りがフワッと広がってとても幸せな気分になる。

 胡麻団子は冬になるとよく見るようになった甘味で、麻花もそうだが、やはり夏の暑い時期には揚げ物は辛いことが原因だろうと、雨妹は思う。

 冬季限定甘味となれば、よくよく味わわなければ罰が当たるというものだ。

 胡麻団子を一つ口に入れれば、まずはカリッとした食感があり、そのカリッと層を噛み割ればフワッとした中身と、甘い餡が口の中に幸せを連れてくる。


「うむ~、かりふわで美味しい♪」


十分に味わってからゴクンと飲み込んでから、感想を漏らす。


「茶も飲まないと、喉に詰まらせるぞ」


立彬の忠告に、しかし雨妹はクワッと目を見開く。


「お茶でこの幸せを流すのが、勿体ないです!」


「……なるほど?」


この反論に、立彬は「全く分からない」といった顔ながら、とりあえずそう言ってくる。

 しかしこうやって雨妹だけが食べて、立彬を待たせている現場を他人が見たら、どう思うだろうか?

 いくら人目につかない場所で話しているとはいえ、もしもということがある。

 雨妹は残る胡麻団子をじぃっと見ると、未練を断ち切るようにグイっと差し出す。


「どうぞ、一つ食べますかっ!?」


身を切るような思いで問いかける雨妹に、立彬がしかめっ面をする。


「そのような涙目で言われても、受け取れるわけがあるまい」


どうやら思いを隠しきれていなかったらしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新たな展開は次回かなぁと思いつつ読んでいたら、最後の涙目で差し出すところで、つい笑ってしまいました。さすがです。
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