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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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174話 徐の病

「エッヘン、話を戻すとして」


皇帝相手にキャッキャとはしゃいでしまった己に、冷静になった雨妹ユイメイは恥じ入りつつ、会話を続ける。


「それでシュさんの風湿病ですが、きちんとした治療をすれば改善は可能だと思われます。

 治療というのは服薬となにより、日常生活の改善ですね」


心労を溜めこまない、適度な運動と休息を心がける、関節を冷やさないで負担をかけないように行動する、栄養のある食事、などが大切だと雨妹は語る。


「徐さんは状況的に琵琶の練習のし過ぎ、あと宴席での仕事であることから睡眠が不規則だろうこと、あとは食事をどのようにしていたのか、などが気になりますね」


特に徐が宴席に出た際には、宴席料理の残り物を食べていた可能性もある。

 ああいう席で残された食事が、下位の者たちの食事になるのは、よくあることだからだ。

 しかし宴席だと酒のつまみがほとんどであろうし、非常に偏った栄養しか摂れなかったことだろう。

 あと、煙草を吸っていたのも、心労をごまかすためであるのかもしれない。

 今は煙草を控えているのか、匂いがしなかったが、それを継続するのは大変だということは、前世で禁煙するために病院に通う患者がそこそこ多かったことからもわかる。

 雨妹が話した内容に、「ふむ」とドゥが頷く。


「なんじゃ、大仰な修行をするわけではないのか」


杜が拍子抜けのような様子だが、どのようなことをすると想像していたのか謎だ。

 修行という言い方から、滝行のようなことをするとでも思っていたのだろうか?


「そんなものはありません」


雨妹は首を横に振り、キッパリとそう言った。


「治療のために一回だけものすごく大変な思いをするよりも、日常の些細な行動を継続することが大事なのです」


雨妹の説明に、杜が「なるほど」と得心顔になった。


「病を乗り越えるとは、新兵の訓練のようだのぅ。

 普段の訓練をサボっていては、たとえ天性の才能がある男でも、戦場では使い物にならないものよ」


杜が自分なりの理解の仕方をしたが、その例えが合っているかは、兵士事情に詳しくない雨妹にはわからない。

 なにはともあれ、こうして風湿病の治療について分かってもらえたのはいいのだが。


「治療さえやれば琵琶を弾けるとしても、はて、どうやってその治療のやる気を出させたものか……」


杜がそう言って悩む。

 その様子だと、どうもただ「徐の琵琶を聴きたい」というだけとは違う気がした。


「杜様は徐さんに、琵琶を弾いてもらわなければならない事情でもあるのですか?」


雨妹が尋ねると、杜が真面目な顔になる。


「うむ、そなたは明の屋敷に居候しておる、ドォンなる男と会ったのであろう?」


「……あの、記憶喪失の人ですか?」


杜が出した名前に、雨妹もまさに立勇リーヨンと話していたところなのでドキリとする。

 杜が東のことを知っているのは、誰かに聞いたからなのか、自ら確認しに出かけたからなのか?

 雨妹は後者かもしれない、なんて考えてしまう。


「その東のことだがな」


そう切り出した杜曰く、明から李将軍へ手紙という形で相談があり、なんでも最近東の身辺をつけ狙う輩がいるのだそうだ。


「そうなんですか!?」


雨妹は驚きの声を上げる。

 雨妹達が訪ねた際にはそんな危険な状況だと聞かなかったし、東は普通に一人でフラフラと散歩をしているようであったのに。

 それにしても、東が狙われる理由はなんだろうか?


「そう言えば立勇リーヨン様はあの方を見て、『兵士ではないか』と言っていましたが」


雨妹が告げた内容に、杜が思案気な顔になる。


ミンも同じことを言っておった。

 そしての、徐の恋人である男もまた、兵士であったのだぞ?」


「……!」


杜がもたらした情報に、雨妹は目を見張る。

 これでますます、東という男が徐の恋人である可能性が高まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そう繋がるんですね!(◎_◎;) 不穏な雰囲気と琵琶の繋がりが分からなくてどういう展開になるのか不安でした! スッキリしました!
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