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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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173話 徐の琵琶

「はぁ、具合が悪いと聞いて見舞いを贈ったが、いつもならば礼の文が返ってくるのがなんの反応もない故、心配しておったのだが。

 元々思い詰めがちな女だったゆえ、無理もないと言えるか」


ドゥがため息交じりにそう話すのに、雨妹ユイメイはどうしようかと迷った末に、口を開く。


「あの、すごく気になっているんですけど、シュさんを宮妓にして連れて来たのって……」


「ああ、それは我であるぞ」


雨妹が皆まで口にすることなく、杜があっさりと暴露する。


 ――やっぱりね!


 己の想像が当たった雨妹は、納得感しかない。

 雨妹に聞かれた杜は昔を思い出したのか、「あの時はなぁ」とため息を吐いた。


「徐をもっと早く助けてやれなんだのが悔やまれる。

 時期がちょうど色々ゴタゴタしていた頃でなぁ、我が事態を知るのが遅れてしまい、気付くと徐の恋人は国境の戦地へ旅立った後であったのよ」


杜が当時の状況をそう語る。


 ――なるほど、時期が悪すぎたのか。


 しかし皇帝ともあろう人が、そうそう都合よく他人の不幸に合わせて暇ができて、偶然通りかかれるわけではない。

 そんなご都合主義は、ドラマの中だけだ。


「それで杜様、今日は私に刑部での話を聞くために来られたのですか?」


雨妹は改めて尋ねるが、それであればわざわざここまで来ずとも、刑部からの報告を待てば良い話だ。

 それか、きっと密偵のような人が情報を集めているはずで、それを聞けば良い。

 だが、わざわざここまで来たということは、雨妹でなければならない用事があるのだろう。

 そう考えて問うた雨妹に、杜がニコリを笑みを浮かべる。


「いやいや、それだけではなくてな、知りたいことがあったのよ。

 そなたは徐子シュ・ジの不調の原因に心当たりがあると聞いた。

 どうだ、あの者は再び琵琶を弾けそうかな?」


そして尋ねられたのは、徐の体調についてであった。


 ――そう言えば、そもそも始まりは徐さんの風湿病のことだったんだよね。


 それがここまで大事になってしまっているが、雨妹はもちろん病気について忘れてはいない。


「結果を言うと、徐さんに出ている風湿病の症状は、軽度ではないかと思われます。

 普通の人ならば日常生活にそれほど大きな支障はなく、あまり問題にしないのでしょうが、徐さんは楽師です。

 そのような指先を繊細に操る職人の方にとって、己の思うように手が動かないという心理的衝撃が強くて、心の方が参ってしまったのではないでしょうか?」


この雨妹の説明に、杜が「ふむ」と顎を撫でる。


「確かにあれ程巧みな琵琶師であれば、常人と違った感覚に悩まされるものかもしれんなぁ」


そしてしみじみと頷く杜に、雨妹は聞かずにはいられない。


「あの、そんなに徐さんの琵琶って凄いんですか?

 私、そもそも琵琶の音っていうのを聴いたことがないんです」


興味津々な雨妹に、杜は「ほう、気になるか」と口の端を上げる。


「徐子の琵琶の音色を聴いてしまったら、もう他の琵琶師の演奏が児戯に聴こえるだろうよ。

 徐の若い頃の勢いのある音も魅力であったが、今の成熟した音もなんとも言えぬ色気があって良きものだ。

 徐子は音楽に愛された女だと、我は思うぞ」


「音楽に愛された、ですか!」


それはなんと心をくすぐる表現だろうか。


 ―― 俄然、徐さんの琵琶を聞きたくなってきた!


「私、徐さんの琵琶を聴くために、なんだってしちゃいますよ!

 やる気だけは本人次第ですが、応援は全力でやります!」


握りこぶしを突き上げて宣言する雨妹に、杜が拍手をしている。


「うむうむ、人間己の欲望に素直が一番!

 もちろん他人に迷惑をかける欲は身を滅ぼすが、変に抑圧するのも歪んでしまう故なぁ」


「ですよね!」


二人して話が合って、妙に気分が盛り上がってしまう。


「……なんだろう、根本が似ているのかねぇ」


そんな自分たちを、ヤンが頭が痛そうな顔をして見ていることに、雨妹は気付いていなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 娘が自分の興味有る事に感心が有るって、父親としては嬉しいだろうな~。
[一言] …何というか微妙に周りに迷惑をかけているんだけど、その結果や人柄の所為で「まぁしょうがないかな」なんて思わせてしまう何かがある所も似ている気がしますね ……………まぁでもそれって、周りの人…
[一言] こういうとこは親子だなー
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