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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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167話 出会い

『一目惚れをしました』


上司に同行して宴席に来た彼は、シュにそう言ってきた。

 しかしそんな台詞はこれまでの求婚者も述べていた内容で、徐は信じてなんかいなかった。

 けれどその男は他と少し違った。徐の部屋から見える塀の上に、彼が毎朝花を置いていくようになったのだ。

 徐は塀の上の花を見るのが次第に楽しみになってきて、やがて彼に恋をする。

 男の誠実さが本物だと分かり、両親は男を婿入りさせて徐と添い遂げさせようという心づもりであった。

 しかし、幸せは突然に終わる。

 両親が商売のために出かけた先で、不慮の事故で亡くなってしまったのだ。

 突然の不幸に悲嘆にくれる徐に、さらなる不幸が襲い掛かる。

 店に大きな借金があると言われ、取り立てのために店のなにもかもを持っていかれてしまったのだ。

 けれどそれでも借金には足りないようで、徐は借金の取り立てに苦しめられることとなる。

 住む場所を失った徐は昔から良くしてくれた使用人の家に身を寄せ、そんな徐を助けようと恋人が奔走してくれた。

 しかし、誰も徐たちに助けの手を差し伸べてはくれない。

 両親と懇意にしてくれていた人たちを頼っても、けんもほろろに追い返されるのだ。

 両親の生前はとても親切な良い人たちであったのに、周囲の変わりように徐はさらに心を痛める。

 誰も頼ることができない中で恋人だけが力になってくれるが、その彼は借金を返せるような大金なんて持っておらず、誰も貸してくれなかった。

 それでも、恋人は諦めなかった。


『必ず金を作って君を助けるから』


彼はそう約束して、金策のために都を旅立つ。

 ちょうど東の国境で戦う兵士の募集がされていて、そこで大きな手柄を上げると大金が得られるという話があったのだ。


『そんな危ないことをしなくていいの!』


そう止める徐を振り切って、恋人は行ってしまった。

 都に一人残され、恋人を案じながら自身でも金策を考える徐だったが、ある日、徐の借金を全て肩代わりしようという人物が現れた。

 しかしそれは純粋な親切ではない。


『その代わり、お前は私専属の妓女になれ』


そう言ってきたのは、徐にしつこく求婚してきていて、よくない噂にことかかない男であったため両親によって却下された相手であったのだ。

 しかも徐に妻ではなく、妓女になれという。

 結婚するのも嫌なのに、妓女として支配される身分になれと、そう言っているのだ。

 徐とて借金のために妓女になるということも、選択肢の一つとして頭の片隅にあった。

 それがこの男専属の妓女だなんて、想像するだけでゾッとする。

 それに、徐は男のにやけ顔を見てすぐにピンときた。両親は恐らく、この人物に嵌められたのだ。

 そして両親の知り合いがけんもほろろだったのも、恋人が誰からも金を借りられなかったのも、全てこの男が手を回したに違いない。

 そうした汚い手口が得意な男で、両親はその点を心底嫌っていた。

 こうなると、両親の事故が本当に不慮のものであったのかも怪しい。

 徐は男の話を断る。

 自分が楽になるためにこの汚い男の手を取っては、恋人はなんのために兵士になって国境へ旅立ったのか?

 そう考えると、到底受け入れられなかったのだ。


『生意気な、いいから来るのだ!』


男は徐に断られると、強引にでも連れて行こうとする。

 けれどその時、徐が連れて行かれるのに割って入った人物がいた。


『徐子の身柄は、我が買おうぞ』


そう告げてきたその人は、父の宴席にしばしば顔を出していた男だった。

 徐によく演奏の礼だと言って珍しい菓子をくれたので、よく覚えている。


『なにを言うか、この徐は儂の妓女になったのだぞ!?』


止められた男は顔を真っ赤にしてそんな勝手な事を言うが、その人は意に介さずに徐に話しかけて来た。


『徐子よ、我はそこな男のように妓女などとは言わん。

 なぁに、ちょうど宮城で働く宮妓を探しておったのよ』


そんな思いもよらない破格の話に、徐は飛び上がらんばかりに驚いたそうだ。


『琵琶さえ披露してくれれば生活の保障をするぞ?

 恋人の帰りを待つには、持ってこいの環境だと思うがなぁ』


その人は笑みを浮かべて、徐にそう言ったという。

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― 新着の感想 ―
[一言] 助けたのは抜け出して来た陛下かな。彼女の恋人は東かな。
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