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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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165話 本来の目的

こうして雨妹ユイメイは結局、立彬リビンも含めた三人で移動する。

 そして到着したのは、先程と似たような感じで戸が並んでいる内の一室だった。

 しかしこちらには休むためのショウがあり、徐はそこに寝かされていたようで、今は上半身を起こして座っている。


徐子シュ・ジ、気分はどうだ?」


男がそう問いかけるのに、徐は不機嫌そうにこちらに視線を寄越してきた。


「どこかで誰かが騒いでいたみたいだね。

 おかげで起きちまったよ」


徐はそう言うと大きく欠伸をする。


 ――さっきのが聞こえたのかぁ。


 ここは宮妓がいた部屋からはかなり離れた場所なのだが、それでも聞こえていたらしい。

 あちらが大騒ぎしたせいか、徐の耳が良いせいか、両方かもしれないと雨妹は考える。


「聞こえていたのならば、説明の手間が省けるか。

 聞いての通り、最も怪しい輩は捕まったぞ」


男はそう言いながら、座る徐の目の前に立つ。


「徐子よ、お前が害悪をもたらす煙草を宮城へ持ち込み、広めた本人だという意見は変わらないか?」


「そうだよ。

 あの娘は私の妹分だから、あの娘がやったことは全部アタシの指図さ」


男の問いかけに、徐は迷うことなくキッパリと告げる。


 ――徐さん……。


 その様子を男の背後から眺める雨妹には、徐の表情から「誰かを助けたい」という必死さは見て取ることができない。

 もしかすると徐が雨妹に内心を気取らせない演技派であるのかもしれないが、それよりもただ仄暗い感情を覗かせる目が、どうしても気になってしまう。


「付き添い人、なにか異論があるか?」


男が背後の雨妹に意見を求めてきた。

 これに雨妹がなにかを言うよりも早く、徐が口を挟む。


「無駄だよ、その娘はアタシのことなんざなぁんにも知らないんだから」


徐が口の端を歪めてそう言ってくるものの、今は男から雨妹の発言が求められている時間であることに変わりはない。

 なので雨妹は、遠慮なく口を開く。


「徐さんは私と会った時、どうしてあのごみ捨て場でお腹を空かせていたんですか?」


そして雨妹が問うたのは、ケシ汁についてとは全く関係のないことだった。


「はぁ?」


徐は訝し気な声を上げる。


「そんなことを知ってどうするっていうんだい?

 第一、今となんの関係がある?」


徐はそう言ってフイッと顔を背けた。


「徐子、問いに答えよ」


しかし男が徐にそう命令する。


「……!」


徐は無言で雨妹達を睨むものの、男が命令を取り下げないとわかって、嫌そうに答えを述べた。


「そりゃあ、アタシが琵琶を弾けなくなった役立たずだからさ。

 それ以外になんの理由があるっていうんだい?」


徐のこの回答に、しかし雨妹としては先程捕えられた宮妓の話を聞いた後では、「なるほど」と納得することはできない。


「皇帝陛下へ奏上する曲を作ることができるあなたのことを、教坊が『琵琶が弾けないから役立たずだ』だなんて考えるでしょうか?」


雨妹はそう疑問を口にする。

 作曲というのは経験を積めばだれしもが持ち得る技術ではなく、個人の才能がものを言う。

 琵琶の弾き手はいくらでも替えがきくだろうが、作曲家となると話は別である。

 そんな才能の持ち主を、教坊が簡単に捨てるなんてあり得ないだろう。

 この雨妹の指摘に、徐は顔をしかめる。

 まさかそのことを指摘されるとは思わなかったようだ。


「徐の言葉が真実だとしたら、教坊側の権力乱用案件だな。

 即刻捕まえて取り調べるか」


男がそうボソリと告げる。


「あ、いや」


徐は「捕まえる」と聞かされてなにか言おうとするが、上手く言葉にならないのか焦るように口をパクパクとさせる。


「はぁ……」


そしてため息を吐いてから、仕方なく語った。

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