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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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163話 結局、どういうことだ?

ここまでの隣の部屋の様子を見た雨妹ユイメイは、「う~ん」と考える。


「つまり、あの人がシュさんを大っ嫌いだから、嫉妬してこんなことになったってことなんですかね?」


雨妹が聞いたままの感想を口にすると、立彬リビンが背後で唸った。


「いや、あの宮妓は徐に可愛がられている妹分だと聞いた覚えがあるのだが……」


「そうなんですか?」


立彬の言葉に、雨妹は驚く。

 雨妹の目には今のところ、あの宮妓と徐がそんな愛し愛されの関係にはとてもではないが見えない。


「御前に出たところで、陛下に所望されるのはアイツが作った曲ばかり!

 私はあくまでアイツの代理でしかないだなんて、こんな屈辱がある!?」


彼女は卓を叩いて蹴ってと騒ぎながら叫ぶ。


 ――徐さんは、作曲もするのかぁ。


 雨妹は「すごいなぁ」と感心した直後に、違和感を覚えた。

 徐は手が痛んで琵琶が弾けなくても、そちらの仕事ができるのであれば教坊も邪険にしないだろう。

 けど初めて雨妹が徐と会った時、ごみ捨て場で腹を空かせていた。

 雨妹はそう考えると、なんだか徐の境遇がちぐはぐなように思える。

 そんなことを考える雨妹をよそに、隣の部屋ではあの宮妓が騒ぎ続けていた。


「アイツはいいわよね、手が動かなくなったっていうのが、衰えのいい理由になって!

 どうせその言い訳にすがっているでしょう⁉

 年老いて腕が落ちたのならさっさと身を引けばいいのに、いつまでも未練がましく居残って、私にいつまでも指図してきて、鬱陶しいのよ!

 今一番の弾き手は私なのよ!」


こうやってがなり立てる宮妓はまだまだ徐への悪口を続けているが、同じ話を何度も繰り返すようになり、新しい情報はさっぱり出てこなくなる


 ――要するに「自分が一番なんだ!」って言いたいみたいだけどねぇ。


 あの宮妓にそれだけの自信があるのであれば、誰を憚ることなく堂々と胸を張っていればいい。

 けれど、それができないなんらかの引け目があるからこそ、ケシ汁煙草による多幸感に溺れてしまったのだろう。

 もしくは、彼女が完璧主義であったかだ。

 他人が実力を認めていても、自分自身が想定している実力を越えていないと満足できないという人もまた、心の弱り目に付け入る輩に狙われやすいものだ。

 ケシ汁煙草にさえ出会わなければ、彼女は琵琶師として輝いていたのだろうに。

 それを想うと雨妹は憐れに思う。


「あれ以上話が進展しそうにないな、ああも会話にならないのでは益にならん」


そう言って「フン」と鼻を鳴らす男に、雨妹は注意を促す。


「あの方はだんだん暴れ方が酷くなっていますから、ケシ汁が切れてきて禁断症状が出始めているんじゃないですかね?」


そうであったならば、このままさらに時間が経つと退薬症状が出てもっと酷いことになってしまう。

 あの宮妓に涙と鼻水まみれの鳥肌姿を他人に晒させるのはいくらなんでも酷だろうし、刑部の人たちだって見たくないに違いない。


「隔離をするのであれば、暴れても怪我をしない環境に置くことをお勧めします。

 少なくとも割れたら切れそうなものを近くに置かないようにしないと」


「面倒なことだ」


男は雨妹の忠告を聞いて、そうぼやくと。


 ピュイッ、ピュイッ!


 指笛を鳴らし、この音が聞こえたらしいあちらの部屋の刑部の人たちが一斉に動き出し、宮妓を再び拘束してしまう。


「放しなさい!」


「ああ放すさ、牢の中でな」


抵抗する宮妓に、そう刑部の人が応じる。どうやら彼女は牢行きであるようだ。

 楊とも中毒者の拘束には牢に入れるしかないのではないか? という話になったことだし、罪人の拘束という意味合いも相まって一石二鳥なのかもしれない。

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