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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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155話 掃除の続き

そんな話し合いを繰り返した、翌日。

 雨妹ユイメイは再び教坊に来ていた。

 なにしろ雨妹に教坊の掃除を指示されているのは続行中で、昨日やり損ねた掃除の続きをやらねばならないのだ。

 ここが掃除困難案件になりかけている事実は変わりないのだから。


 ――なんか、ここに来たばっかりの頃を思い出すよね。


 百花宮に入ったばかりでは、先輩宮女であるメイが放置した汚屋敷ばかりを掃除していたことを思い出す。

 ちなみにその梅とは、最近顔を合わせることが減っていたりする。

 それも当然で、掃除をサボって妃嬪になるために顔繋ぎをしたい梅と、普通に掃除とたまに野次馬にいそしむ雨妹とが、行動範囲が被るわけがないのである。

 夜だって夕食を部屋に運ばせて仲間の宮女ととっぷりと夜更かしをしているようで、朝も遅くにしか起きて来ないためにどこかでかち合うこともない。

 会う時は、梅がわざわざ雨妹に嫌味を言いたいがために食堂へやって来る時である。


 ――まあ、あの人はあの人で必死なんだろうけどねぇ。


 ただ、今まで妃嬪になれていないのだから、やり方を変えて頑張ってみればいいのに、梅にはそうした考えがないらしい。

 妃嬪になりたいけれど、努力はしたくない。

 それが梅であるようだ。

 そんな昔話はともかくとして。

 雨妹は今日は掃除を進めようと、「よし!」と気合を入れる。

 掃除の邪魔になる例の臭いだが、臭い対策はバッチリしてきた。

 鼻に布を小さく裂いたものを詰めて、その上からマスク布をしているのである。

 喋ると「フガフガ」言ってしまうのが難点だが、掃除中に誰かと喋る予定もないので問題ないだろう。

 というわけで、雨妹は自分が任された敷地の端からはたきで埃を落とし、それを掃き集めていっていると、ふとどこからかざわざわと騒ぐ声がしたので動きを止める。


「なんだろう?」


気になった雨妹が声のする方を窺っていると、離れた場所にある回廊を黒っぽい格好をした複数の男たちがぞろぞろと歩いている姿が見えた。


 ――教坊に宦官がなんの用かなぁ?


 それに見慣れない服装である彼らを見て、雨妹が「はて、どこの誰だろう?」と観察していると、彼らは通りざまに教坊の部屋の戸や扉を次々に開けていく。


「きゃあ!?」


「なんなの!?」


開けたのは宮妓の部屋だったらしく、中から女の悲鳴が聞こえてくる。

 どうやら彼らは部屋を検めながら進んでいるようで、雨妹は「なるほど騒ぎ声はこれか」と一人頷く。


「抵抗をするな、抵抗をする者は罪を犯した者とみなす」


その騒ぎの中、黒い男たちの内の一人がそう告げた。

 声は決して大きく怒鳴るようではないのに、妙に耳に響く声である。


「我々は刑部である。

 神妙にしていろ、調べを終えたら出ていく」


続けて発せられた言葉に、宮妓たちのみならず、離れて見ていた雨妹も驚く。


 ――あの人たち、刑部の人なの!?


 刑部とは宮城の組織で、前世で言うところの警察組織である。

 こう言うと、では突然教坊へ現れた彼らは捜査を行いにきたのかと考えてしまうが、そこは少々事情が異なる。

 雨妹の華流ドラマ知識だと、現場の調査などは兵士や近衛、百花宮内ならば敷地を警邏する宦官などがやるべき仕事であり、刑部はそこで捕えられた犯罪者の身柄を引き受けた後で取り調べることが仕事であったはずなのだ。

 つまり、刑部自らがこうして現場に出て捜査をするなんてことは、あまりないことではないだろうか?

 事実、雨妹はこれまで刑部の所属という人を見たことがなかった。

 その刑部がわざわざ姿を現したということは、やはりケシ汁のことなのか? と雨妹がドキドキしながら成り行きを見守っていると、刑部の集団の中の一人と目が合った。

 先程「抵抗をするな」と呼びかけた男である。

 彼はまだ年若く、立彬リビンと同じくらいの年頃に見えた。

 その刑部の男がなんと仲間から離れて、雨妹の方へスタスタと歩いて来たではないか。

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