154話 対処の仕方
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とはいえ、実際にそうした中毒者に遭遇したら、逃げるわけにはいかない。
放っておくと、なにをしでかすかわからないからだ。
「その中毒になっている連中を見つけたら、どうすりゃいいのか。
酔っ払いが暴れたらとっ捕まえて酔いを醒めさせるのと同じかねぇ?」
楊がそう言って「う~ん」と唸る。
やはり彼女も、立彬同様に中毒というと酒の中毒を思い浮かべるようだ。
雨妹はこれに「そうですねぇ」と考えつつ答える。
「基本は同じです。
酒中毒者からお酒を取り上げるように、ケシ汁中毒者もまともに考えることができるようになるまで、ケシ汁を与えずに待つしかないです。
その間、かなり暴れるでしょうけれど」
暴れると聞いて、楊が面倒そうな顔をした。
「暴れるっていったら、酒乱が暴れると手が付けられない場合があるが、あれだって相当面倒だよ?」
楊の出した例えに、雨妹は「まさにそれだ」と指摘する。
「その興奮状態が長く続くと考えてもらうのが、近いかもしれません」
これを聞いて、楊はさらに面倒そうにしかめっ面をする。
「そんな様子を万が一大勢に見られでもしたら、それこそ道士が出てきて大騒ぎさ」
楊の口から出た雨妹が嫌いな連中の名前に、雨妹までしかめっ面になった。
――あの人たちかぁ、確かに出てきそう。
雨妹が度々対立する羽目になった道士たちだが、彼らとて世の中に必要な仕事ではあるのだ。
暦を作ったりしている真面目な道士たちには罪はない。雨妹はただ、皇太后の権威を笠に着る威張り散らしている道士が嫌いなだけだ。
仮にあの道士たちがしゃしゃり出てきて「呪いだ!」と断定したところで、呪い祓いの祈祷をするのがせいぜいで、根本的な解決ができるとは思えない。
長時間祈祷をしている間に薬が抜けて一時的に理性が戻ることはあるだろうが、太子にも説明した通り、薬物中毒者はもう元の正常な脳には戻らない。
ケシ汁を取り上げ、これは害悪なのだと告げて手を出してはいけないと丁寧に教え諭さないことには、患者本人はケシ汁が悪いのだと気付かないだろう。
さらにはケシ汁のせいだとわからないままで「呪いだ!」とされてしまうと、前のインフルエンザでの呪い騒動よりも、もっと酷い事態になるのが目に見えるようだ。
なにしろケシ汁中毒患者とそうではない人とは、ぱっと見では変わりないように見えるのだから。
都合の悪い人たちを全て「呪い憑き」だと断定し、前世での魔女狩りのような事態になっては最悪だろう。
――ダメダメ、そんなの!?
雨妹はブルブルっと頭を振り、嫌な想像を追い出す。
「道士が出てくる案件になる前に、速やかになんとかしたいです!」
「だねぇ、それが一番かね。
そうなると、おかしなのを一旦とっ捕まえて隔離しておける、牢みたいな場所がいるかもしれないねぇ」
楊がとりあえず思い付く解決方法を口にした。
この国での牢とは、前世であるような鉄格子の嵌った部屋などではなく、地面に井戸のような深い穴を掘っただけもので、かなり居住性が良くなかったりする。
雨妹としては牢という響きは少々物騒だが、いわゆる隔離病棟的な、他人に迷惑をかけない場所として使うのはアリだと思う。
――まあ、そういうのは偉い人が考えることだよね。
下っ端の雨妹ができるのは情報の共有で、ケシ汁について伝えなければならないことはだいたい言ったか? と己の脳内を再び探ってみていると。
「小妹、見慣れない相手や変な訛り言葉が気になったら、すぐに言うんだよ?」
楊が厳しい表情でそう言ってくる。
「訛り言葉、ですか?」
なんの話なのか? と首を捻る雨妹に、楊は顔を寄せると声を潜めて言葉を続ける。
「そのケシ汁とやらは他の国から取り寄せているんだろう?
だったらその他の国の誰かが入り込んでいるかもしれないって話だよ」
「おお、なるほど!」
雨妹はポン! と手を叩く。
――なんか、推理小説っぽいよ!?
不謹慎なのだろうが、雨妹は華流ドラマオタクの血が騒いで、若干ワクワクしてしまうのだった。




