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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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152話 異変

「輸入というと、佳が思い浮かぶけれど」


明賢メイシェンも流通路として佳を考えたらしく、そう告げてきた。


「あちらについては、陛下を通してホァン徳妃から黄家へ伺ってもらうことになるかな」


「そうなるでしょうね」


明賢の意見に、秀玲シォウリンも同意する。

 黄徳妃とは、徐州の黄家から百花宮に入った人で、あの利民リミンの伯母が百花宮入りを競って負けた相手でもある。

 百花宮内でのことを黄徳妃を通さずに黄家へ繋ぎをとるのは、確かによくないだろう。

 佳のことは、それでいいとして。


「しかし私個人の考えでは、東の国が怪しいのではないかと思っている」


明賢は少々声を潜めて告げた。


「東、ですか」


最近東からどうのという話を聞いたばかりである立勇リーヨンは、また東の地名が出たことに微かに息を呑んだ。


「最近、東の国境に金が流れ過ぎている。

 小競り合いとはいえ戦争だし、戦争にはとにかく金がいるものだから、不自然ではないとも考えられる。

 けれど、なんだか気になってね」


明賢の言葉に、立勇と秀玲は顔を見合わせる。

 主の懸念は、仕える者にとっての道筋となる。


「ではまず、情報を集めることからですかね」


「わたくしも、実家にそれとなく東について聞いてみますわ」


こうして、主従の話し合いはなされていく。


***


一方、ちょうどその頃。

 宮城の外では、ミン家の居候であるドォンが、この日も市場をウロウロしていた。

 見覚えがあるように思える場所やものを一つ一つ確かめて、気になった場所で「自分のことを知らないか?」と道行く人に声をかけてみる、ということを繰り返している。


 ――今日も、成果はなしか……。


 実はあの娘の言っていた音楽というものが気になって、流しの琵琶師がいるあたりをうろついてみたことがある。

 けれど東は、なにか気になるどころか妙な焦燥感に駆られてしまい、早々に立ち去ってしまった。

 焦燥感の正体はわからないのだが、「これではない」という気持ちになったのだ。

 自分はなにか、琵琶というものにこだわりがあったのだろうか?

 もしや自分は琵琶師であったのかと一瞬考えたのだが、生憎と琵琶を弾ける気がしない。

 完全に自分探しに行き詰ってしまった東が、一人トボトボと歩いていると。


「そこのお前」


ふいに横手から声をかけられ、東は立ち止まって振り向いた。

 そこに立っていたのは、異国を感じさせる容貌の知らない男である。

 しかし同時に、どこかで見たことがある気もする相手であった。


「なんでしょうか?」


もしや自分と同じく都に疎く、なにかを尋ねたくて声を上げたのかと思ったのだが、あちらは何故か止まった東に驚いている様子である。


「……とぼけているのか?

 まあいい、逃げないのは楽だしな」


なにやらブツブツと言っていた男が、片手を振り上げた。

その手の先には、日の光をきらめかせているモノが握られていて――


「東!」


 ガキィン!


 新たな声と、金属音が男と東の間に割って入った。


「明様!?」


割って入った者の正体は、東が世話になっている家の主だ。

 その手には、剣が握られている。


「チッ、邪魔が入ったか」


あちらはしかめっ面をすると、すぐにこの場から去って人込みに紛れてしまった。

 こうなっては追うのは難しいだろう。

 いや、東は追うどころか、驚きのあまりに足が固まってしまっているのだけれども。


 ――今のは、一体なんだったのだろう?


 東は謎に思いながら、とりあえず助けてくれたらしい明に礼を言う。


「明様、助けていただきありがとうございます。

 けど、どうしてここに?」


「医者帰りだ。アイツは誰だ?」


明は剣を仕舞いながら東の質問に短く答え、さらに問い返してきた。

 これに、東も返答に困る。


「それが、突然声をかけられてああなって、誰なのか知らないのです。

 いや、どこかで見た気が……?」


自分で言いながら疑問に思えて、東は考え込む。

 その様子を見て、明は眉をひそめていた。


「あれは、東風の顔立ちであったか?」


その呟きは、東の耳に入らなかった。


***

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― 新着の感想 ―
[一言] 琵琶…ふむ、色々繋がって来ましたねぇ
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