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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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144話 お仕事ですね!

掃除が滞っている場所を指定されるのは、たまにあることだ。

 けれど今回は、なんとなく楊の表情が気になった。


 ――どことなく意味深な顔である気がする。


「いいですけど、どこなんですか?」


多少の警戒心を抱きつつ問う雨妹に、楊が告げる。


「教坊だよ」


「行きます!」


雨妹が間髪入れずに即答するのに、楊がため息を吐いた。


「まあ、食いつくだろうとは思ったけれどね。

 小妹、もう少し話を聞き出すことをしなさいな」


雨妹の勢いを、楊がそう窘める。


「うぐっ……、気を付けます」


ごもっともなお説教に、雨妹は頷く。

 確かに、どんなことでも前情報というのは大事だ。

 そして今回の願ってもない仕事でも、疑問がある。


「なんで教坊の掃除が不人気なんですか?

 宮妓たちがいるからとかですか?」


そう、教坊の掃除が嫌われているなんて話を、雨妹はこれまで聞いたことがなかった。

 というか、教坊という場所が話に上がったことがなく、だから教坊という場所があることを知らなかったのだ。

 だから教坊のことを知っても、そこの掃除にこれまで回されてないことから、楽器などの高価なものが保管されているだろうと考えると、新人宮女が入れない特別な場所なのだろうと思っていたのだが。

 雨妹がそうした仮説を脳内で整理していると、楊が難しい顔をした。


「そういう連中が一部いることは確かだが、別に宮妓と近しく接する必要もないし、それほど今まで厭われる場所じゃあなかった。

 逆に自分より偉い人間がいないから、不敬で叱られることがなくて気楽だっていう意見すらあったのさ。

 それがここのところ嫌う連中が多くなって、おかげで教坊から苦情が出ている」


この楊からの説明を聞いた雨妹は目を瞬かせて、さらに質問する。


「理由はなんでしょう?

 栗の木掃除みたいに、嫌な事があるんですか?」


「いいや? それほど面倒な場所じゃあないはずなんだ。

 事実、これまでは普通に掃除されていたし。いつ頃からかねぇ、妙に不人気な場所になったのは」


そう言って首を捻る楊にも、理由がさっぱりわからないらしい。

 立彬とも話したが、宮妓は誰かが所有していた妓女を贈られたとか、潰れたお家の生き残りであることがほとんどだ。

 贈られた妓女だとて宮城での作法ができる人物であることが必須で、すなわち宮妓とは元々裕福な生まれである女が多い。

 ゆえに自ら掃除をするだなんて、したことがない人たちなのである。

 だから掃除の手が入らないとなると、雨妹が最初に掃除した王美人の屋敷のようになっているのではないだろうか?


 ――保管してある楽器が埃を被っていたりとかしないかな……。


 雨妹はそんな心配が湧いてきて、ぜひ掃除をしに行きたくなった。


「お前さんばかりに嫌な場所を押し付けるのは申し訳ないがね、ちょいと掃除に行って、どんな具合なのか見てきてくれるかい?」


楊の言い方に、雨妹は「ふむ」と頷く。


「つまり、掃除と、他の人たちが教坊を嫌う理由の調査ですね?」


「そういうことさ。

 こんな妙な事をしてくれそうなのは、小妹くらいしか思い当らなくてね」


雨妹の確認に、楊は困ったような顔で告げる。

 なんだか、風向きがおかしな方向になってきたではないか、と雨妹は不謹慎かもしれないが、ちょっとワクワクしてきた。


 ――これって、探偵モノっぽい話じゃない!?


 雨妹は前世で、推理ドラマもそこそこ好きだった。

 自分が事件の当事者になるのは御免被るが、調査だなんて心が躍るというものだ。


「おまかせください!

 この張雨妹、野次馬根性には自信があります!

 調査なんてドンと来いです!」


「まあ、野次馬根性は程々にしておきな。とにかく頼んだよ」


力強い雨妹の宣言とは逆に、楊は少々不安そうな顔になるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 色々と繋がっていそうですね
[一言] 赤裸々野次馬根性に草 まぁコソコソやるような娘さんよりかは好感は持てますが、代わりに「コイツ大丈夫か?」という不安は付き纏う。人間って贅沢ですよねぇw
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