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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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143話 報告する

「はぁ~、なるほど。拾った男は東から都へ来たのかい」


夕食時の食堂にて、内城から戻った雨妹が早速報告した内容を聞いて、楊はお茶を飲みながらそう呟いた。


「東というと、国境の戦場にいたお人なのかねぇ?」


楊が話すのに、雨妹は楊が淹れてくれたお茶を一口飲んで、首を傾げつつ疑問を口にする。


「立彬様からも記憶喪失は戦場が多いとか聞きましたけど、東の方の地域ってそんなにずっと戦争しているんですか?」


なにせ雨妹の育った辺境はド田舎過ぎてそうした血生臭い話とは無縁な場所であった。

 砂漠に面した土地であったので、過酷な砂漠越えしてまで攻める旨味が、辺境にはなかったのだ。

 なので雨妹にとって戦争という事にいまいち真実味がなかったりする。

 この雨妹の問いに、「そうさねぇ」と楊がなんと言うものかと思案する様子を見せた。


「戦争というよりは、小競り合いが延々続いているって話だけどね。

 実際、戦争のための将軍が立っていないから、本気の戦争じゃないだろうさ」


楊の言い分に、雨妹は「なるほど」と頷く。

 庶民はどうやら戦争になるかどうかを、戦争専門の将軍職ができるってことで測るらしい。

 そして今は、確かに将軍職は衛将軍である李だけだ。

 前世の華流ドラマでも、戦争というテーマは付きものだった。

 国内での内輪揉めだったり、隣国と揉めたりなど、戦の火種には事欠かない。

 それを踏まえると、今は国内で大規模徴兵が行われているなんていう噂も百花宮内で聞かないし、むしろ徐州との戦争状態を止めたくらいなので、戦争が減っているというように思える。


 ――なら、今この国は平和な方ってことかな?


 雨妹がそんなことを考えていると、楊が「それにしても」と話す。


「全くあの男は、変わらずにお人好しなことだよ」


楊が呆れ交じりにそう漏らし、ため息を吐いた。


「そのお人好しさに付け込まれて、うっかり目撃した陛下のお忍びに同行することになったのを、ズルズルと付き合わされたんだろうに。

 性分はなかなか変えられないと見えるね、お前さんと同じで」


そう言う楊が、チラリと雨妹に目をやる。

 明と同じと言われるのはそこはかとなくムッとしてしまう雨妹だったが、気になる点は他にもある。


「明様が皇帝陛下に重宝がられたのって、そういうことだったんですか?」


楊の漏らした、聞く人が聞けば不敬だとも捉えられかねない暴露話に、雨妹は思わず尋ねる。

 これに、楊が「そうさ」と肯定する。


「誰がお忍びなんていう面倒そうなものに、好き好んで付き添いたい奴がいるかい。

 陛下になにかあれば、そいつの首がスパッと飛ぶんだよ?

 私ならたとえ気付いても、見なかった振りをしてサッサと立ち去るね」


楊から力強くそう言われ、雨妹も「そうかもしれない」と考える。

 太子にとっての立勇のように、家族ぐるみで仕えているというならばともかくとして、明は他所から都に出てきた出稼ぎ組で、最初から皇帝との繋がりがあったわけではないのだ。

 そんな人に対して、そこまで忠誠心があったはずもない。


 ――そうか、明様は放っておけない系の人なのか。


 確かに自身とちょっと近しいものを感じた雨妹は、明の評価をまた若干上向ける。

 それはともかくとして。

 雨妹は今回の様子見の駄賃として、食後の甘味に紅豆湯(ホンドウタン)――小豆の湯を貰っていた。

 日本のお汁粉に似ているのだが、あれよりもあっさりとした食感である。

 最近めっきり寒くなってきているので、あったまるお汁粉が美味しい。


「んふふ、幸せ」


雨妹は紅豆湯を匙で口に運ぶ度に頬が緩む。

 この様子を眺めている楊は自身も同じものを食べていて、しばらく二人でフゥフゥしながら食べていると。


「ああ、そうだ」


楊がふいに声を上げた。


「小妹、仕事のことでちょいと相談なんだがね。

 不人気な場所の掃除が滞っているんだが、お前さんが行ってくれるかい?」

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