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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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137話 人気者らしい女

シュが皇帝のお気に入りというのだから、皇帝が絡むのは納得ではある。


 ――でもさ、好みでもない女を百花宮に入れるという行為が謎ではあるんだよねぇ。


 しかし雨妹ユイメイとて、さすがにここで「あの人は陛下好みの女の人ではないですよね?」と尋ねるのが不敬であるということくらいは分かっているので、別の言い方をした。


「それって、陛下は突然徐さんを後宮に入れたことを、変に疑われたりはしなかったんですか?

 特に皇后陛下からとか」


雨妹の疑問に、立彬リビンは「それは当然あったな」と返す。


「当初から愛人だのなにか弱みを握られているだのと、色々な疑惑が飛び交った。

 だが一度徐の手が琵琶を奏でると、下衆な勘ぐりはぴたりと止まったのだ」


立彬の言葉に、雨妹は目を丸くする。


「……それって、徐さんの琵琶の音色が醜聞を消したってことですか?」


「そういうことだな」


雨妹の確認に、立彬が頷く。


 ――なにそれ、スゴくない!?


 どうやらあのゴミ捨て場にいた宮妓は、雨妹の想像以上の弾き手であるようだ。

 それほどの徐の琵琶の音色を、こうなってはぜひに聞きたくなってきた。


「ちなみに立彬様は、その徐さんの琵琶を聞いたことがありますか?」


雨妹の質問に、立彬は「もちろんだ」と答える。


「徐は太子の宴にも出ていたからな。

 ああしたものにあまり興味のない私でも、『これこそが天上の琵琶の音だ』と言われれば頷くだろう」


「そんなにですか!?」


他人を褒めたたえるということをあまり見せない立彬のこの言葉に、雨妹はさらに驚く。

 それにしても、陛下の宴や太子宮にも呼ばれるような注目っぷりとなると、他のどの宮でも徐を呼びたがったはずである。

 事実、立彬の話だと徐はかなり忙しかったはずだという。


「う~ん、人気があるのも大変ですねぇ」


「そのようだな。

 夜は宴、昼は練習で、今にして思えば寝る間もあまりなかったのではないか?」


徐の日常を想像して眉を下げる雨妹に、立彬もそう付け加える。

 だとすると、徐は人気者であるがゆえに心労も大きなものであっただろう。

 心労とは万病に影響を与えるのだが、風湿病にもこれが当てはまる。

 徐には心労に煙草と、風湿病を悪化させる要因が揃ってしまっていた。


 ――む~ん、これは根本治療のためには環境を変えないとダメっぽい?


 しかし百花宮に生きる女に、環境を変えるというのは難しいだろう。

  一人で頭を悩ませる雨妹に、立彬が眉をひそめて鋭い視線を向ける。


「一つ聞くが雨妹よ、何故そんなに徐のことを熱心に心配するのだ?」


「何故、ですか?」


これに、雨妹はきょとんとした顔になる。


「もちろん、気になっちゃってモヤモヤして仕方ないからですけど?」


雨妹はそうキッパリと告げた。

 むしろ、これ以外にどんな理由があるというのか。


「あ! もしかして立彬様は宮妓には助けなんて必要ないとか、そういうことを言っちゃうような人ですかっ!?」


徐が自嘲していたことを思い出し、雨妹はムッとして眉を吊り上げる。


「いや、そうではないが」


これに立彬はすぐに否定するものの、困ったような顔をする。


「これまでは助ける行為に対して感謝をされることが続いたが、徐のように相手が助けを望んでいるわけではないのなら、『余計な事をした』とむしろ罵倒されるかもしれないのだぞ?」


立彬が苦々しい口調でそう言ってくる。


 ――なるほど、そこを気にしてくれていたのか。


 だが雨妹はそんなこと、百も承知なのである。


「感謝をされないことが、なんだっていうんですか?

 それにこれは『徐さんのため』なんていうものではなく、私の自己満足で、私が満足することが大事なんです!

 というより、親切とはすべからく自己満足ですしね」


雨妹としては自分の気持ちがスッキリして、ご飯が美味しく食べられる精神状態が保てればそれでいいのだ。

 少なくとも「困っている人は全員救ってあげたい」だなんていう、博愛と奉仕の精神に基づくものではないのは確かである。

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― 新着の感想 ―
[一言] やらない善よりやる偽善 自己満足である事を自覚しながら行う善行は大切です。自己満足なのだから行為に驕り高ぶることもありませんから
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