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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第七章 冬の事件

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132話 性分

 雨妹ユイメイがその宮妓を気にしているのは、レアキャラに出会ってしまった興奮からというわけでは――いや、多少の野次馬根性が疼いたのは否定しないが、それだけではない。


「楽師だとしたら、リウマチ――風湿病は辛いだろうなって思って」


雨妹の言葉に、美娜が首を傾げた。


「風湿病? 初耳だねぇ」


疑問顔の美娜メイナに、雨妹は風湿病について説明する。


「症状には覚えがあると思いますよ?

 よくあるのが手の節が腫れてひどいと変形するっていう、女の人に多い病気です」


雨妹の説明に、美娜が「ああ、それね!」と手を叩く。


「子どもの頃、近所に住んでいたおばさんがソレだったよ!」


美娜は納得顔で頷く。

 前世でリウマチとも呼ばれていた風湿病は、身体の関節が腫れてしまい、放っておくと関節が変形してしまう病だ。

 関節が腫れる原因は関節が炎症を起こすからなのだが、放っておくと軟骨や骨が破壊されて関節の機能が損なわれ、関節が変形してしまう。

 症状として有名なのは腫れや激しい痛みだが、これは関節を動かさなくても痛みが生じるのが、他の関節の病気と異なる点だ。

 その他にも発熱や疲れやすい、食欲がないなどの全身症状が出て、関節の炎症が肺や血管など全身に広がることもある。

 関節の病気というと老人の病気と思われがちだが、風湿病はどの年代にも発症する可能性があり、特に男女で比べると女性が多い。

 すなわち、あの宮妓の年齢でも風湿病の発症が早すぎるということはないのだ。

 そんな風湿病は、放っておいても三割程度が自然と治るが、七割にとっては一生付き合うことになる病である。

 関節の炎症が進むにつれて、関節の破壊も進むため、関節の破壊が酷くなる前に治療を始めることがなによりも重要となる。そうすれば治る可能性も高くなるし、生活の質を保つことができるのだから。


 ――そのためには特に、煙草を止めること!


 あの宮妓からは煙草の匂いがしたが、煙草は風湿病の症状を悪化させるので、即座に止める必要がある。

 不摂生な生活も発症の要因でもあるので、不規則な生活での睡眠不足や、疲労を溜めて心労が多いなどの事態も避けたい。

 そして栄養のある食事をバランスよくとることで、体質改善を図るのが大切なのだ。


「早めに生活を見直して治療に取り組めば治りますから、あの人がそれを知っているかを話したかったんですけど」


そう語る雨妹に、美娜が「はぁ~」と声を漏らす。


「見ず知らずの宮妓が相手だってのに、阿妹アメイはお人好しだねぇ」


「性分ですから」


感心半分、呆れ半分の美娜に、雨妹は笑顔でそう返す。

 そう、もう性分なので、解決策を模索しないとモヤモヤするのだ。ここまでくるとはっきり言って自己満足以外の何物でもないと、雨妹も自分でわかっている。


「なにが性分だって?」


そんな会話をしていた雨妹と美娜に、割って入る声があった。


「あ、ヤンおばさん」


声の方を見ると、楊の姿があった。


「宮妓がどうのという話が聞こえたがね、なにか揉め事かい?」


楊はどうやら、宮妓という言葉を心配したようだ。


「そう言う話ではなくてですね」


雨妹が楊にもごみ捨て場での出来事を語ると、楊はなんとも言えない顔をした。


小妹シャオメイは、宮妓になんとも思わない質かい?」


そして楊からまずはそう尋ねられて、雨妹はきょとんとしてしまう。


「へ? ああ、そうですね、特には」


雨妹はそう返しながら、そう言えば宮妓に良くない感情を持つ人たちもいることを思い出す。

 宮妓は妓女というよりも芸能集団と呼ぶ方が正しいのだろうが、それでも宮妓のことを、民間での寝所働きが仕事の妓女と同じように考える人たちがいるようだ。

 辺境にはその妓女というものがいなかったが、近くの大きな里へと出れば妓女が働く店がある。


 ――あの人たちだって、アレが仕事なんだろうけど。


 雨妹が掃除をするのと同じく、女官が高貴な人のお世話をするのとも同じく、稼ぐ手段だ。

 それが何故か妓女と聞くと、「閨事好きな連中だ」という視点がどこからか出てくるのだから不思議だ。

 人は誰かを見下していると安心するという、厄介な業を背負う生き物なのかもしれない。

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