126話 お月見
とうとう雨妹が大好きな季節、中秋節となった。
今年は天気に恵まれ、満月の出番まではまだまだある夕暮れの時刻に、食堂前の広場ではたくさんの灯篭が灯されている。
そこで複数設置されている卓を囲む宮女たちが、それぞれに談笑していた。
その中の一人である雨妹がいる卓の上には、中秋節ならではの御馳走が並んでいた。
あれから数回収穫作業に立候補して手に入れた栗が入った月餅や、先日屋台で見たかぼちゃ饅頭を参考に作った月餅、甘薯入りの月餅と、月餅だけでも雨妹も手伝って美娜が色々と作ったものが載っている。
これが辺境での巨大月餅ではなく、小さな掌程度の大きさで、食べやすくてとてもいいのだ。
あと月餅以外だと、鴨を焼いたものがあった。
――くぅ~っ、どれも美味しそう!
雨妹は幸せの光景に感激する。
秋の美味しいものを食べながら、お月様を愛でるとは、なんて風流なのだろうか?
今世でこれほど御馳走に囲まれた中秋節は初めてで、雨妹は作ってくれた美娜が月に住まう仙女様に見える。
キラキラした目で卓を見つめる雨妹に、美娜が苦笑を漏らす。
「ほらほら阿妹、見てばっかりいないで食べな」
「はぁい、いただきます!」
美娜に促され、雨妹は早速月餅に手を伸ばす。
まずは自分の労力も加わっている栗月餅からだ。
香ばしく口当たりの良い皮に包まれた餡はしっとりとしていて、その中にある小さく砕かれた栗がしっかりと主張していて、甘さもちょうどいい。
「――うん、栗月餅おいしぃ~♪」
とたんに、雨妹はフニャリと表情を緩ませる。
「栗の粒感を残したんだが、イケるだろう?」
美娜も同じく栗月餅を食べながら、「うんうん」と頷いている。
「こっちの瓜月餅も美味しいよ?
瓜って種しか食べたことなかったけど、実を蒸かせば結構甘くなるのがあるって初めて知ったよ」
美娜が初挑戦のかぼちゃ瓜の月餅を勧めてくる。
こちらは餡がかぼちゃそのままで、なんだか懐かしい気持ちになる。
きっと美娜のことだから、これでかぼちゃ料理を考えてくれることだろう。
――美娜さん、ぜひいつかかぼちゃプリンの開発を!
月餅ばかりを食べていては口の中が甘くなるので、たまに鴨もつまんだりしていると。
「やっているな」
そう言いながら現れたのは、包みを下げた立彬であった。
「あ、立彬様、中秋節おめでとうございます!」
雨妹はまず、中秋節の挨拶を述べる。
「満月の祝福が届くよう、お祈り申し上げる」
立彬も挨拶を返してきたが、それにしても立淋の挨拶はなんだかお洒落だ。
「立彬様、太子宮でも中秋節のお祝いをしているのではないんですか?」
雨妹がそう尋ねると、立彬は眉を上げる。
「あちらは長丁場だからな、ずっと貼りついていることもあるまい」
「なるほど」
――お偉い人たちは夜型人間だしね。
夜に寝るのが早い宮女と違って、あちらは中秋節の宴がまだ始まってもいないのかもしれない。
そんな風に考える雨妹に、立彬が持っている包みを差し出してきた。
「これは土産だ。
お前のことだ、月餅は種類が多い程いいかと思ってな」
なんと、立彬は月餅をもってきてくれたそうだ。さすが立彬、雨妹のことをわかっている男だ。
雨妹は受け取った包みを、早速開く。
包みの中はお洒落な箱であり、それに詰められた月餅もまた、お洒落であった。
――きっと太子殿下からだよね、コレって。
立彬が個人的にどこかで手に入れたものである可能性とてあるが、それよりもそちらの方が可能性が高いだろう。
それにしても、月餅に囲まれるとは幸せの光景である。
雨妹がホクホク顔で月餅にかぶりついている横で、美娜が立彬に卓の上の月餅を勧めている。
「立彬さんよ、コレなんか新作だよ。
阿妹が瓜の実の饅頭を食べたっていうから、それを参考に作った瓜の実月餅だ」
「ほう、それは新しい」
立彬がかぼちゃ月餅に手を伸ばし、頬張る。
「うむ、ほんのり甘いな」
「だろう? 瓜にも色々あるんだねぇ」
立彬と美娜が頷き合っている。どうやらかぼちゃは人気を徐々に上げていきそうだ。
そんな風に、この場が月餅パーティとなっていると。
「月見の席に、混ぜてもらってもよいかな?」
そんな男の声がしたので、雨妹がそちらを見れば、手荷物を持った楊に連れられた宦官の杜がいた。




