122話 三度、明の元へ
明日1月9日は、「百花宮」3巻の発売日です!
皇帝にそっくりさんな宦官と話をした、翌朝。
雨妹はまたもや門を抜けようとしていた。
楊の依頼で三度、明の元を訪れるためである。
――今日こそは、話をするんだからね!
そう意気込んで向かっていると、門で合流する雨妹の付き添い人が見えてきた。
今度は誰だろうかと思って、目を凝らして門を見る。
「おぅい、娘っ子ぉ!」
すると、大声で怒鳴りながらこちらに手をふる大柄な男がいた。
そう、なんとまたもや熊男がいたのだ。
それとももしかして別件で、たまたま門にいただけかもしれない。
そのあたりはどうなのかと、雨妹が首を傾げながらも李将軍の方へ近寄っていく。
「今日もあなた様なのですか?」
とりあえずそう尋ねてみると、李将軍が頷いてきた。
「いやぁ、俺も頼まれた以外にも、ちぃっとガツンと言ってやりたくてなぁ!」
李将軍がそう言って片手を拳にして振り下ろすそぶりをする。
――李将軍を寄越したのはもしかしなくても、あのなんちゃって宦官か!
あの人はよほど明のことが気がかりだと見える。
まあそれはともかく、雨妹が李将軍と合流したならばとっとと向かうことにした。
雨妹たちは三度目にして慣れた明の屋敷への道を行く。
「屋敷におられますかね?」
もしや飲みに出ていたりしないかと、雨妹が心配していると、隣で李将軍がニヤリと笑う。
「いるはずだぜ、出て行かないように部下に見張らせてあるからな」
なるほど、「見張らせるからな!」という前回訪れた時の言葉を実践しているわけか。
明の屋敷が近付いて来ると、確かに屋敷の入口に体格のいい男が立っているのが見えて、李将軍を見て頭を下げてくる。
私服だが、李将軍の部下の人たちなのだろう。
ちなみに表と裏の両方の入口を見張らせているという。
「中の様子はどうだ?」
「それが、自分も明様と揉める心づもりだったのですが。
不気味なほど静かで、一度も出てこないのです」
見張っている男が不思議そうな顔でそんなことを言った。
これを聞いて、雨妹と李将軍は顔を見合わせる。
――あの時、かなりの怯えっぷりだったしなぁ……。
もしやあれからずっと、雨妹のことを勘違いした母の亡霊に怯えているのだろうか?
雨妹はそんな懸念を抱きつつ、李将軍に連れられて裏の戸口へと向かう。
「おや、いらっしゃいましたか」
すると老女は雨妹たちを見て、もはや驚かない。
入口に見張りを張り付けてあるので、その内に来るだろうと考えていたのだろう。
「どうだ、明の奴は?」
「それがでございますねぇ……」
李将軍が尋ねると、老女は困ったようにため息を吐く。
どうやら、あまりよろしくない状態であるようだ。
「とにかく会ってやってくれ」と言う老女に案内され、雨妹たちは明の寝所へと通される。
するとそこにいたのは、目の下に酷い隈を作って牀にボーッと座っている明であった。
「うわぁ……」
まるで幽鬼のような様子に、雨妹は思わず声を漏らす。
するとその声が聞こえたのか、明がこちらを向いた。
「ひぃ、慧!」
そう悲鳴交じりの叫び声をあげると、慌てすぎて牀から転げ落ちる。
「また出たのか、やはり俺を恨んでいるのか……!」
しかし落ちた体勢のまま、起き上がることなくブルブル震えている。
――なんだ、私はオバケかなにかか?
明の様子に、雨妹は心配を通り越して呆れてしまい、出立時の意気込みも落ち着いてきていたりする。
人間、目の前の者が動揺したら、逆に冷静になるものらしい。
「俺に意気地がないばかりに、お前を死なせてしまった!
すまねぇ、すまねぇ……!」
そんな雨妹に尻を向けて謝る明に、李将軍は「どうしたものか?」と困り顔だ。




