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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第六章 百花宮の秋

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119話 話を聞きたい!

お腹を満たして後宮へ戻った雨妹ユイメイは、ヤンの元へ報告へ向かう。


「お帰り小妹シャオメイ、どうだったかい?」


「それがですね」


尋ねられた雨妹は、まず門にリー将軍が待ち構えていて驚いたことを話す。


「李将軍かい、まあなんというお人を……」


楊が顔を引き攣らせている所を見ると、彼女にも予想外であったらしい。


「あの、楊おばさんが頼んだんじゃあないんですか?」


雨妹が尋ねるのに、楊がしかめっ面をした。


「私にそんな伝手があるもんかい!

 他のお人にちょいと、誰か用意できないかとお願いしただけなんだがねぇ」


楊は頭痛を堪えるような様子だが、一体誰を介すれば李将軍にまで行き着くというのか?

 尋ねたいような、聞いてはならないような微妙な心境である。


「それでですね、起きている明様に会うには会ったんですけど。

 何故か酷く怯えて話にならなかったんですよね」


「あの男はなにをしているんだか……」


雨妹の話に、楊がため息を吐く。


「じゃあ、とんだ無駄足を踏ませちまったわけか。

 済まないね小妹」


謝罪を口にする楊に、雨妹は言ってみる。


「あの、こうなるとですね、明様がなににそんなに怯えているのかが気になるっていうか」


明が雨妹の母の名らしきものを口走ったことは、楊に話したりはしない。

 雨妹としては、いっそ忘れた方が今後の平穏のためな気がするのだけれど、忘れようにも忘れられないのだ。

 それでも大きな声で「教えて!」とは言い辛く、多少遠慮しつつ言ってみる雨妹を、楊が真っ直ぐに見てくる。


「知りたいかい?」


雨妹はその視線の強さにドキリとしながらも、コクリと頷く。


「そうですね、知りたいです。

 でないと大の大人にあんなに怖がられた私が、よっぽど鬼女みたいじゃないですか!」


雨妹が力説するのに、楊はふっと表情を和らげる。


「お前さんは、本当に揺れないねぇ。

 そうかい、だったら当時の事に詳しいお人がいる。

 話を聞きたいのならば会わせてやることができるがね」


楊はそう話すと、雨妹と目を合わせる。


「本当に聞きたいかい?」


「……! はい、お願いします!」


雨妹は勢い込んでそう告げると、ペコリと頭を下げた。



そんなわけで、楊から話を聞かせてくれる人と会えるように設定してくれたのは、翌日の夕刻であった。

 雨妹にとっては夕食後ののんびりした時間だが、その相手がその時しか身体が空かないのだそうだ。

 待ち合わせ場所になっている回廊の隅で、雨妹は日が陰って来ると共に秋の風が冷たくなるのを、建物の影に入って凌いでいると。


「小妹、待たせたかね」


楊が誰かを連れてやってきた。

 顔を伏せ気味に歩いてきているあの人が、話を聞かせてくれるという人であろう。

 宦官の格好をしているが、明とはどういう関係なのか? と雨妹は目を凝らしてその人物を見る。


 ――なんだろう、どこかで会ったことがあるような……。


 ふと、雨妹はそのように思った。

 それも、よく見知った相手などではなく、数回顔を合わせたことがある、くらいの人物な気がする。

 しかし、雨妹の交友関係はそう広いわけではないし、宦官となれば立彬リビンしか知り合いはいない。

 あとは医官のチェンくらいか。

 それ以外で顔を覚える程度に一緒に行動した宦官が、果たして他にいただろうか?

 「う~む」と雨妹が唸っていると、その宦官が伏せていた顔を上げる。

 雨妹の目に飛び込んできたのは、青い目であった。

 その時、雨妹の中に衝撃が走る。

 相手が何者か、わかってしまったのだ。


 ――まさかこの人、皇帝陛下!?


 あまりのことに全身が固まってしまって礼の姿勢もとれない雨妹だが、何故すぐに皇帝だと気付かなかったかというと、その顔に髭がないからだ。

 この国の男にとって髭は、男らしさの証である。

 庶民だと手入れが面倒で剃ることが多いが、偉くなると髭を生やすようになるものだ。

 若者だと髭を生やすと、逆に「偉ぶっている」と思われるそうで、生やさないようにする気遣いがいるらしいが。

 それが、まさか国で一番偉いはずの皇帝が、髭を剃って宦官になりすますだなんてこと、あるのだろうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 李将軍とのツテはないのに、皇帝とのツテはある。 楊おばさんは一体何者なのでしょうか? というか、この宦官の格好をした人は本物の皇帝なのか……? 謎が多すぎます。
[一言] ……本人? 兄弟とか従兄弟とかそんなオチとかじゃなく? ……もし本人なら……絶対に初版じゃないでしょ(苦笑)
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