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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第六章 百花宮の秋

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117話 考えるとお腹が空く

*お知らせ!*

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実のところ、雨妹の見た目は髪の色が同じであるという点以外、母とは顔かたちや立ち姿といったものは、瓜二つというほどそっくりなわけではない。

 もちろん同じ地味顔系であるし、よくよく見れば親子であると思わせる類似点はあるようだが。

 尼たち曰く「雰囲気が違うので、パッと見では似て見えない」らしい。

 なのに明が雨妹を見て母の名を呼んだのは、この母と同じ髪の色だけで判断したとしても、母をよく知っていたということになる。


 ――もしや明様は、ウチの父母のデートのお守もしていたのかな?


 そんな推測が成り立つものの、だとしても名前を呼んで謝るとはどういうことか?

 考えても、すんなり答えが浮かばない。


「む~ん、色々考えていると、お腹が空いてきちゃいます……」


脳は糖分を活力源にするというから、きっと糖分が足りなくなってきているのだろう。

 それに雨妹はなんだかんだで宮城から出て内城へ向かうのに、そこそこの距離を歩いている。

 なにせ宮城の中を走っている馬車というのは、高貴な方々が乗る軒車か、荷物を運ぶ荷車しか走っておらず、庶民が使う馬車なんてものはない。

 故に下っ端は一つの都市ほどもある広さである宮城の中を、ひたすら歩くしかないのだ。

 こうなると、元気になるには甘味をどこかで確保しなくてはならない。

 なにせ今日は仕事ではないので、おやつを手に入れていないのだ。

 けれど甘味を手に入れるためには、宮城へ戻るか外城へ出なければならない。

 そして外城へ出る場合、雨妹だけでは恐らく許可が下りない。

 というわけで。


「李将軍もお腹が空きませんか?

 空きますよね!?」


同行者をハラヘリ仲間に引き入れようと、必死の訴えを試みる。

 これに、李将軍が「ククッ」と笑いを漏らす。


「なるほど、噂に聞く通りの食いしん坊だな。

 せっかくだから外城へ出てなんかつまんでいくか?」


なんと、外城へ出るのを許可された。

 この熊さん、なかなかいい熊さんである。



外城へ出ると、李将軍が足を向けたのは高級な店が立ち並ぶ中央通りではなく、昨夜の飲み屋が並んでいた通りでもなく、市場であった。


 ――意外なような、似合っているような……。


 将軍としてはおかしいのかもしれないが、熊男としては市場が似合うという、難しい男である。

 そして熊男曰く。


「こういうところで食うのが、性に合うんだよ。

 お綺麗な店に座って食うのは、どうもなぁ……」


そう言って頭を掻く。


「そんなことを言っても、接待とかあるんでしょう?」


雨妹が当然の指摘をすると、李将軍が嫌そうな顔をする。


「ありゃあ苦行だよ、苦行。飯の味も覚えちゃいねぇ」


なるほど、この熊男はいわゆるジャンクフードなどを好むようだ。

 そして市場の人々から「将軍様、美味しいのがあるよ!」と気軽に声をかけられる所を見ると、李将軍はここへ度々出没しているようだ。

 そんな話をしながら、甘味を物色して歩いていると。


「おやぁ、昨日の夜のお嬢さんじゃねぇかい?」


横手からそう声をかけられた。


「へっ?」


雨妹は自分のことかと振り返る。


「誰でぃ、そちらさんは?」


しかしそちらには既に李将軍が立ち塞がっていて、その大きな背中に隠されて相手が見えない。

 もしかして雨妹を守ってくれているのかもしれないが、横にも縦にも大きすぎて視界を塞がれるのはどうなのだろう?

 少なくとも、まるで自分が小人になった気分になる雨妹であった。

 とりあえず相手が誰かだけでも確かめようと、李将軍の背中の横から顔を出せば、そこにいたのは昨夜の飲み屋の主であった。


「ああ、どうも!」


「やっぱりそうだった、人違いかと焦ったぜ。

 今日は将軍様のお供かい?」


雨妹が片手を振って挨拶すると、飲み屋の主がホッとした顔をする。

 熊男に凄まれたら、さぞや怖かっただろう。


「李将軍、この人、昨日明様が飲み潰れていたお店の店主さんですよ」


雨妹が説明すると、李将軍は立ち塞がるのを止めて横に退いた。


「そうかい、じゃあ部下が世話になったのに、失礼したな」


ペコリと頭を軽く下げる李将軍に、飲み屋の主が「いやいや」と頭を横に振る。


「こっちこそあのお客さんを引き取ってもらって、助かったってもんでさぁ。

 あのお客さんも、なかなか飲むのを止めなさらんでねぇ」


飲み屋の主は、そう言って困ったように苦笑する。

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― 新着の感想 ―
[一言] 酒屋の主人としては酒を呑んでくれるのは嬉しいのでしょうが、酒に呑まれるのはやはり困り物なのでしょうね。雰囲気が悪くなって割と他の客への迷惑になりますし
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