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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第六章 百花宮の秋

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114話 再びのお願い

雨妹ユイメイは昨日のミンの様子を思い出しながら告げる。


「明様の顔を見ることはできましたが、なにせ飲み屋で飲んだくれて寝ている所でして。

 本人との会話は無理でした」


「そんなにかい?

 どうやら私の知っている姿から、悪化しているようだねぇ」


ヤンおばさんがため息を吐く。


「けど、観察はできました。

 あれは酒の飲みすぎでかかる病です。

 酒を飲まずに普通の生活をしていれば、いずれ治るかと」


肝心のことを話すと、楊は少しホッとしたような顔になる。


「酒ねぇ。

 元々そんなに飲めないのだから、飲んだくれても楽しくないだろうに」


「なになに、楊さんの知り合いの話?」


そう言って陰りのある表情をする楊に、隣に座る美娜メイナが口を挟んでくる。

 こうもズバッと聞けるのは、美娜の性格故かもしれない。

 楊は別段隠すことではないのか、すんなりと話した。


「ああ、私と同じ土地から同じ時期に都へ出てきた男さ。

 それなりに交流があったんだが、最近あまり良くない噂を聞いたもんで、ちょいと様子を探ってもらおうと思ってね」


楊の口から、昨日は聞かされなかった初耳の情報が出た。


「明様、楊おばさんと同郷の同期だったんですか?」


「おや、言わなかったかい?

 私が後宮に勤めたのと、あちらが兵士になったのが一緒だから、同期といえば同期かねぇ」


懐かしそうに語る楊の様子を見ながら、雨妹は考える。

 明の屋敷にいたあの老女曰く、おしめまで替えていた間柄だという。

 となると、明は少なくとも付き人がいる生活だったはずで、裕福な家柄だろう。

 そんな明と付き合いがあった楊も、それなりの家柄であると想像できる。

 そうならば楊は宮女として入ったのではなく、女官から仕事を始めたのだろうか?

 そうであれば、明との交流も可能であろう。

 雨妹はそんな風に推測してしまうが、だからどうだという話ではない。

 単に華流ドラマオタクの血が「考察したい」と騒ぐだけだ。

 一方、美娜も別のことを考えていたらしい。


「もしかしてその男って、独り身かい?」


「そうでしたね、屋敷の世話をしている方はお年を召した女性が一人で、連れ合いの方は見られませんでした」


「なるほどねぇ、独り身男ってのは、酒におぼれがちじゃあるか」


美娜が昨夜の雨妹が想ったのと似たようなことを言う。


「楊さんの同期ってなると、結構いい歳だろう?

 近衛だったら女に人気があるだろうに、よほど問題でもあるお人なのかねぇ?」


首を捻っている美娜に、楊が「はぁ~」と大きく息を吐き出す。


「……まあ、問題といえば問題さね。

 いつまでも昔のことをウジウジしているっていうのがね。

 それで小妹、もう一度頼みたい」


「……なんでしょうか?」


雨妹はなんとなく言われることがわかる気がするが、一応尋ねる。

 すると楊が告げるには。


「今日の仕事は休みでいいから、これからあの男の家に行って、きちんと身体について言って聞かせるついでに、酒を飲みに出るのを阻止してくれないかい?

 一人でとはいわない、手伝いはきちんと用意するから」


想像通りといえば想像通りで、雨妹は不思議に思う。

 あの明に対して楊は、一体どうしてそこまでするのだろう?

 同郷の同期というだけで、そこまでするものだろうか?


 ――身内ならともかく、同郷でも所詮他人だしなぁ……。


 雨妹であれば、おそらくそこまではしない。

 雨妹はお節介焼きな質だという自覚はあるし、見える範囲の人は助けたく思うが、視界から外れた人までは手を回さない。

 そのあたりの線引きをしておかないと、キリがないのだ。

 それで言うと、楊にとって明は近衛を休職して飲んだくれていても、まだ視界から外れていない人なのだろうか?


「楊おばさん、どうしてそこまで明様のことを気にするんですか?」


雨妹が直球で尋ねてみると、楊は目を伏せて言った。


「……あの男もぼちぼち夢から醒める時が来たんだと、そう思ったんだよ」

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