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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第五章 海の見える街

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100話 お土産より食い気

「あの時はどうも、乗せていただき感謝する」


立勇も気付いたらしく、雨妹を背後に庇う姿勢は崩さないものの、軽く目礼をする。


「いやぁ、おたくらに世話になったのはこっちの方さ!」


おじさんはそう言うとニカリと笑い、ヒラヒラと手をふった。


「魚を売っているんですか?」


雨妹は立勇の背中から顔を出し、おじさんの前に並ぶ魚たちを見る。


「おうよ、朝獲れだぜ?

 都人にゃあ、海の魚は珍しかろうて。

 現物を見たことあるかい?」


「佳に来て、初めて見ました!」


自慢気に話すおじさんに、雨妹は正直に返す。

 前世を計算しないのなら、尾頭付きの生魚なんて、佳で見たのが人生初だ。


「私もだ、川魚とは違うものなのだな」


「はっはぁ!

 川魚なんざ話にならんさ、海の魚の美味さはよぅ!」


立勇もそう言うと、おじさんはうれしそうな顔をする。

 おじさんは心底、海が自慢であるようだ。


「あの、魚の丸焼きって食べられますか?」


魚は利民の屋敷でも食べたのだが、いかんせんあそこの料理はお洒落に盛られていて、一匹丸焼きなんていう料理は出なかったのだ。


「ああ、買った魚を浜辺で焼けるぜ」


おじさん曰く、浜辺には漁師小屋があり、そこの焚き火で焼けるのだという。


 ――やった、食べたい!


 というわけで、雨妹はおじさんのところからアジやサザエ、大ぶりのエビを買って、浜辺の漁師小屋へ行く。

 浜辺では漁師たちがちょうど昼食時なのか、火のまわりに集まっていた。

 そこに雨妹は混ぜてもらうと、早速魚を焼く準備だ。

 雨妹が漁師から借りた刃物でアジの内臓をとる。


「アンタ都人だろう?

 よく捌き方を知っているなぁ!」


すると漁師たちから感心されてしまう。


「ちょっと、やり方を聞きかじっていまして」


雨妹は立勇を気にしつつ、そう言ってごまかす。

 その立勇は、雨妹の手元を興味深そうに見ている。


「川魚で、そのような事をしたことがないが」


「海の魚にゃあ、毒があるのもあるからな。

 中はとるんだよ」


立勇の疑問に、雨妹ではなく漁師が答えた。

 それを聞きながら、串刺しにしたアジやエビを炙り、サザエを火のそばに置く。

 それからしばし待ち。


 ――もういいかな?


 いい香りがしてきたので、雨妹はまずアジの串を火から外すとガブリとかぶりつく。


「おいひい~♪」


立勇もアジに齧りつくと、「うん、美味い」と頷いている。

 雨妹は次にエビの串を取る。


「エビもおいし~い♪」


プリっとしていて甘味があって、味付けがなにもなくても十分に美味しい。


「……お前は、よくソレを口にできるな」


立勇はアジは川魚と変わらない見た目だからいいとして、エビは見た目がよろしくないのか、抵抗があるらしい。


 ――まー、海を知らないとこうなるよね。


 利民の屋敷での食事で、エビも出てきたはずなのだが。

 魚介に慣れない都人を気遣って、形が分からない料理にされていた。これは料理長も都から引き抜かれた故の気遣いだろう。

 だから立勇は、エビの本当の姿を見るのは初めてなのだ。


「あれ?

 でも利民様の船に乗った時、魚を食べなかったんですか?」


それこそ、魚食べ放題に思えるのだが。


「川でもそうだが、船の上では火を扱うのが難しい。

 ゆえに行軍同様、食糧は保存食だな」


長い航海ならばともかく、数日程度では船上調理はしないらしい。

 漁師もこれに口を挟んで教えてくれたことによると、調理は水も使うので、どんな大きな船であっても、余分な水を積む余裕はないとのことだった。

 火を扱わないのであれば、生という手もあるが、船上では食中毒も敵なので、生食もよほどでなければしないらしい。

 そんな船の知識を得たところで、サザエもいい香りがしてきた。

 その雨妹が買った中で一番見た目が不気味であろうサザエを、なんと立勇が気に入ったという。

 最初は食べるのに腰が引けていたものの、一口食べたら口に合ったようだ。


 ――なんでも、食べず嫌いはよくないよね!


 これがまた都に戻れば、魚介が食べられない生活に戻るのだから、今のうちにお腹いっぱいに食べておきたい。


「さあ、まだまだ食べ溜めしますよ!」


「……土産を買い忘れるなよ」


魚介に心を奪われている雨妹に、立勇が釘を刺した。

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― 新着の感想 ―
[一言] >立勇はアジは川魚と変わらない見た目だからいいとして、エビは見た目がよろしくないのか、抵抗があるらしい。 中国人は何でも食べるといういうか 医食同源で虫や冬虫夏草とか見た目の悪いものも食…
[一言] お土産が海産物になりそう。せめてサンゴや貝の細工物になってね(^-^)
[一言] 立勇がサザエを気に入ったことにビックリです。 サザエは苦い部分があるので人を選ぶような気がするのですが……。 でもエビは拒否するという。 贅沢者め!
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