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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第五章 海の見える街

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祝! コミカライズ記念SS~まだまだ伸びたいお年頃

※時間は花の宴の直後です。



百花宮で花の宴が終われば、準備に追われていた宮女たちは忙しさから解放された喜びで、そこかしこで酒盛りを始めるのが常だという。

 食堂はいつも賑やかなのだが、その日は夜も遅くまで、いつにも増して賑やかである。


 ――うーん、酒盛りって見るの、今世で初めてかも。


 雨妹(ユイメイ)はその様子を遠目に見ながら、感慨深い気持ちになる。

 というのも、酒は田舎だと贅沢品なのだ。

 酒は穀物から作られるのだが、貧しい土地だと酒造りに回せる穀物があるはずがない。

 雨妹は辺境で里長の家に厄介になっていた際に、里長が酒を隠し飲んでいる所を見たが、それ以外では酒を持っているという家を知らない。

 そのような田舎で飲まれている酒とは、前世からすると極めて度数の弱い酒であり、酒に弱い人が飲んだら酔うかもしれない、という程度。

 酒に強い人には、まごうことなく水であり、酒の味などしないものだ。

 一方で今宮女たちが飲んでいるのは、明らかに里長が飲んでいたものとは香りが違う。

 きっと度数のそこそこある、特別な酒なのだろう。

 ゆえに雨妹は「酔っ払い」というのを、辺境を出てから初めて見た。

 雨妹がそんな連中がいる酒臭い食堂を避けて、外で夜空を見ながら饅頭を食べていると。


「雨妹、こんなところにいたのかい」


こちらに美娜(メイナ)が酒瓶を片手にやって来た。


「美娜さん、今日はお疲れ様でした」


「ホントだよ、もう肩と腰が痛いったらないよ」


美娜はそう愚痴ると、雨妹に碗を差し出す。


「ほら、饅頭ばっかり食べてないで、阿妹も飲みな」


そう言われた雨妹は、しかしこれに首を横に振る。


「あ、私はお酒は飲まないようにしているんです。

 だって、もうちょっと大きくなりたいですから!

 お酒は成長の邪魔をしますので!」


この国では成人しているとみなされる年頃とはいえ、雨妹はまだまだ成長期。

 お酒が成長に良くないことは、前世でもよく知られていたこと。

 成長期の飲酒は脳細胞を壊し、身体の成長を阻害し、中毒にもなりやすいといういいことなしなのだ。


 ――わたしだって、もっと背が欲しいし、女らしいポンキュッポンだって欲しい!


 けれど、雨妹が胸を張って言ったことに、美娜が怪訝そうな顔になる。


「大きくかい? 阿妹が?」


美娜がそう呟くと、雨妹の頭のてっぺんからつま先までを、まじまじと眺め。


「……大きくねぇ」


再び呟いた。

 その様子が、言外に「無理なのでは?」と語っている。


 ――そんなことないもん!


 人の成長期とは、案外わからないもの。

 特に雨妹はこれまでの食事情が最底辺だったので、成長に必要な栄養が取れていたはずがない。

 しかし成長期には、今からでも間に合うはずなのだ。


「今から私だってぐーんと背が伸びて、肉付きなんかも良くなって、立彬様あたりが仰天するくらいに大人な女になってしまうかもしれないじゃないですか!」


唾を飛ばさんばかりに主張する雨妹だったが、美娜はなにやら微笑ましいものを見ているような顔になり。


「うんうん、夢を見られるっていいもんだねぇ。

 夢は自由だ、大いに語りなよ」


「夢じゃなぁーい!

 本当に大きくなるんですっ!」


雨妹が「うがぁ!」と雄たけびをあげて叫ぶ後ろには、実は楊がいたのだが。


「さてね、張美人は小柄なお人だったねぇ……。

 望みは父親に似ることだが、けどどう見ても母親似だ」


雨妹の夢は叶いそうにないと零す、楊。

 この言葉は幸い誰の耳にも、雨妹にも拾われることもなかった。

お知らせ!

FLOSコミックス様にて、「百花宮のお掃除係」が、本日コミカライズ連載開始です!

https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_FL00201765010000_68/


それと、

カドカワBOOKS様にて、小説二巻が8月7日に発売になります!


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― 新着の感想 ―
[一言] 楊さん…雨林の素性に気付いてたんかい! まぁ、判ってても言うに言えない現状だから仕方ないちゃぁ仕方ないか?
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