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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第五章 海の見える街

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98話 襲撃

注意! グロ表現、残酷表現アリです!

「いやぁーーっ! 向こうにやって!」


 黄県主はかろうじてそれを夫と認識できたが、娘は死して形相の変わり果てた父の顔を判別できないのだろう、足で生首を蹴りつけている。


 ――なんてことなの……。


 義弟は買収した海賊と共に行動していたが、ある時から連絡が来なくなり、そのまま戻らず仕舞。

 その上、海賊討伐で利民が出払うため、守りが薄くなる利民の屋敷を見張り、あわよくば潘公主を襲うように計画していた夫が、今回佳で合流できないと危惧していたのだが。

 まさか、このような変わり果てた姿になっていたとは。


「これは、どういうことなの!?」


 誰ともなしに問いかけた黄県主だったが。


「どういうことかは、そちらがよく理解されているものだと思うが?」


 軒車の外からそう声がしたかと思ったら、バン! と扉が開いた。


「先程ぶりであるか、黄県主」


 そしてそう呼び掛けてきたのは、宴にいた都人の武人の男であった。


「お前、太子殿下の使者か!?」


 黄県主の問いかけに、男が小馬鹿にするような顔をする。


「そのような事すら知らぬとは、宴の席で誰からも相手にされなかったと見える。

 私は護衛であり、使者は別にいる」


 男はそう言うと、腰から剣をスラリと抜いて、こちらに突きつけてきた。


「ぶ、無礼者! わたくしにそのような態度をとって、しかも、わたくしの夫にこのようなことを……!

 どうなるか分かっているのでしょうね!?」


 黄県主が叱責すると、男は眉を上げて見せた。


「ほう、黄県主はまだ今の状況を理解できないか。

 ならば教えて差し上げよう。その生首の主は潘公主、もしくは太子の使者の娘を攫い、手籠めにしようとしているのを捕らえた。

 あまりに非協力的な態度であったため、こうなったわけだ」


 夫は、どうやらあちらの手に落ちたようだ。

 だが利民の屋敷は戦力が出払い、一網打尽にする絶好の機会ではなかったのか?

 夫とて黄家の端くれで、それなりに腕に覚えのある男であったはずなのに。

 しかも潘公主はともかくとして、太子の使者の娘を攫うと、この男は言った。

 若い女好きの夫は、どうやら娘であったらしい太子の使者をも狙ったようだ。

 だが、あの宴にそのような都人らしき娘がいただろうか?

 この男と一緒にいるのを見かけた娘は、都人らしからぬ見た目であったので、違うだろう。


「そのような話など知らぬ!

 それに、なんという野蛮なことを……!」


ゆえに黄県主がそう突っぱね、逆に詰ると、男はギロリと睨んでくる。


「野蛮?

 皇帝陛下の御子に手を出すということは、こういう結末が待つとわかっていたはず。

 皇族を甘く見ていたから、このようなことになる」


男がそう言い放った直後。


「いやぁーーっ!!」


 娘が現状に精神が耐えきれず、恐慌状態になったのか、悲鳴を上げながら軒車の反対の扉を開けて外に出ようとする。

 しかし、その足もすぐに止まってしまう。


「ひいっ!?」


 飛び出した娘に、剣が突きつけられている。

 暗闇に紛れている黒ずくめの姿の者たちに、軒車は取り囲まれていたのだ。


「わ、わたくしは黄県主!

 わたくしになにかあれば、黄大公が黙ってはいない……」


「その黄大公から、あなたの身柄は好きにしてよしとのお言葉を頂いている。

よほど目に余ったらしい」


「そんな、そんなはずはない!」


ここまできて黄県主はようやく現状が分かってきて、ガタガタと震え出す。

 自分が自分であるための土台が、崩れ落ちていく音がする。


「助けて、お母様!

 ぎゃぁあーっ!」


 軒車の外で娘の悲鳴が聞こえても、黄県主は身体が動かず、その身の無事を確かめることすらできない。

 ただただ、震えて座っているだけの黄県主が、御者席側の窓から剣が差し込まれたことに気付いたのは、その剣が己の身に沈み込んだのと同時のことだった。


「……あ?」


 弱々しいうめき声が、黄県主の最後の言葉となり。


「公主方のお目に、汚らわしいものを入れたくないのでな」


 そう言った男――立勇が手を上げると、黒ずくめの一人が軒車に火を放つ。


 佳の郊外にて、火事で燃え尽きた軒車が発見されたのは、その翌日のことであった。


***

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― 新着の感想 ―
[一言] 汚物は消毒たぁ!
[気になる点] 今回の首級は黄県主の夫のものですが、屋敷を襲撃して首級を黄大公に送られたのって黄県主の夫の弟(義弟)ではなかったですか? 悩める黄大公のときも『義弟は海賊と一緒にいたのに屋敷に押し入…
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