97話 行き着いた先
注意! グロ表現アリです。
黄県主はこれまで、何者が相手であっても自分を優先させてきた。
……それが唯一、通らなかったのが後宮であったが。
あれは人生の汚点であると同時に、狂った瞬間であった。
贅沢と権力が大好物であった黄県主は、では娘に望みを託すも、それも叶わず。
ならばと大公の座を狙えば、それを邪魔するのが利民とその父だ。
船乗り風情がと視界にも入れていなかった連中が、今黄県主の邪魔をしている。
利民が公主を娶ったと聞いて見に行けば、当人を見て「ああ、ハズレ公主を押し付けられたのか」と安心した。
それに公主として後宮で蝶よ花よと大事に育てられ、贅沢を極めた生活を送っていた女が、船乗りの夫を良しとできるはずがない。
そう思っていたのに、今日のアレは一体なんなのだ?
宴の席に現れた潘公主は、百花宮でも噂の四夫人のような美しさを誇る女たちのようではなかった。
けれど、不思議と目を惹くものがあった。そう、黄県主が理想とする美しさとは、程遠いものではあるのだが。あの潘公主を、「綺麗だ」と思ってしまったのだ。
――そんなはずがない、あのような姿が、美しいはずがないのよ……!
黄県主が一人、ギリギリと歯ぎしりをしていると。
「お母様、佳の宿など嫌です。魚臭いもの」
軒車の中で、黄県主の正面に座っている娘がそう不満を述べた。
己とて、その意見はもっともだと思うものの、呑気に不満を漏らす娘を、黄県主はギロリと睨む。
「では、あの屋敷で物置に泊まりたかったの?」
利民の屋敷で用意されたのは、決して物置などではないのだが。
黄県主にとって、いつもの部屋以外は、狭い物置であった。
そして物置を好む公主と、潘公主を揶揄していたのだが。
「それだって嫌だわ」
嫌だ嫌だと言っていればいいと思っている娘に、黄県主は怒りがこみ上げる。
なんのために自分たちが色々と画策しているか、娘は本当にわかっているのか?
それに、海賊が討伐されたらしいという噂が、まさか本当だったとは。
それを確かめるために、今日あの宴に乗り込んだのだ。
何故その詳しい情報が、自分に入らないのか?
海賊を動かすために一緒に行動していたはずの義弟は、どうなったのか?
なにひとつ思い通りにいかない現状に、黄県主が苛々していると、突然、軒車が止まった。
「やっと着いたの?
全く、車も通らないとはなんて街なのかしら」
黄県主は文句を言いながら、軒車の窓を開けて外を見る。
降りる前に宿を見て、不満があればすぐに他に向かわせようと思ったのだ。
けれど、窓から見えた景色は、予想外のものであった。
「どういうこと?」
「お母様、どうなさったの?」
眉をひそめる黄県主に、娘が尋ねる。
しかし黄県主は娘に構っていられない。
窓の外は、宿ではなかった。
それどころか、佳の街並みすら見られない、ただの真っ暗闇だ。
利民の屋敷を出たのは、日が暮れ始める頃。
しかし佳の街中であれば、店が掲げる灯りで明るいはず。
なのに、今どうしてこんなに暗いのか?
その答えを得ようと、御者を問いただすべく、そちらの窓を開ける。
「ちょっと!? どこなのここは!?」
黄県主は怒鳴りつけるが、よくよく見ると窓の向こうの御者席には誰も座っていない。
――どういうことなの?
状況がさっぱりわからない黄県主が御者の姿を探して、外を見る方の窓に再び視線を戻した、その時。
外の方の窓から、布の包みが投げ込まれて来た。
「ひっ!? なに!?」
娘が悲鳴を上げた。
赤黒い染みのついているその包みから、なんともいえない異臭がする。
そしてそれほど頑丈に固定されていなかったのか、包みが解けて中身が零れ出た。
「ひいぃっ!?」
「きゃあぁーーっ!?」
黄県主は声にならずに息を呑み、娘が大声で悲鳴を上げる。
包みから零れ出たのは、人の頭部。そう、生首だったのだ。
しかも、見覚えのあるその顔は、黄県主の夫のものだった。
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