第一話 ~崩壊の日~
「待ってよクリフ~」
「遅いぞケイル! そんな事だと勇者になれないぞ!」
「クリフが早すぎるんだよ~」
このころの俺は周りのどんな子供よりも運動神経に優れ、勇者候補として大人から期待されていた。
しかし………。
「遅いぞクリフ! 早くしないと学校に遅刻しちまう!」
「ま、待ってくれケイル……もう足が……」
今の俺にはあの頃の運動神経も期待も何もなくなっていた。
それに比べケイルは昔の俺を見ているようで、今では勇者最有力候補になっていた。
「仕方ないからまたあれで行くぞ」
「頼むよ………」
いつものあれとは移動呪文の事である。
ケイルはさすが勇者候補であるとともに魔術師候補としても期待されている。
こいつにかかれば高等呪文なんかもすぐに使えるようになってしまう。
それに比べ俺には呪文を扱う力は米粒ほども持ち合わせていない。
「じゃあ行くぞ」
ケイルが呪文の詠唱を始めると俺とケイルを囲うように地面が光だし、一瞬目の前が真っ白になったかと思うと目の前には学校が現れている。
「相変わらず便利な呪文だな」
「俺の中では覚えておいた方がいい呪文ナンバーワンだな」
「俺も使ってみたいな………」
「呪文適正×のお前には一生かかっても使えないよ」
「そんなの俺が一番分かってるよ」
「それより早く教室に行こうぜ。今日は待ちに待った卒業試験だぜ!」
卒業試験か………。
この学校では真の勇者育成を目標にしてる。
試験に落ちると退学処分となりそれまでやってきたことはほぼ無に帰してしまう。
ここでは五つの試験があり各試験では合格者が一人しか選ばれない。
さらに受けられるテストは一人一つ。
つまり卒業試験を受ける生徒の九割以上が退学になってしまう。
「しかしひどい学校だよな試験落ちたら退学なんてな」
「お前が言うと嫌味にしか聞こえないぞ」
ケイルと話しながら教室に入ると教室の前方に試験選択の用紙が張られている。
「俺はどの試験受けても結果は変わらないし召喚士試験でも受けるかな」
「適正ないのに受けてもしょうがないでしょ。なんだったら武闘家試験の方が受かる可能性が残ってるんじゃないかな」
「それもそうだが召喚士に対しては適性が全く無いわけではないからな。若干の希望にかけてみようかなと思ってな。それにドラゴンとか出せたらかっこいいし」
「そうか。それじゃあ俺は勇者試験を受けるよ。昔からの夢だしね」
「お互い頑張ろうな!」
「おう!」
俺とケイルは試験選択用紙のそれぞれの試験欄に名前を書き入れそれぞれの会場に向かった。
ちなみに五つの試験は勇者、魔術師、僧侶、武闘家、召喚士となっている。
召喚士試験は特殊な試験のため学校から離れ山奥で行うことになっている。
『召喚士試験を受ける生徒は裏山の広場に向かってください』
放送を聞き召喚士試験を受ける生徒が何人かクラスを出ていく。俺もそのあとを追う。
召喚士は神獣と呼ばれる獣などと契約をして自分がピンチの時に呼び出し一緒に戦う職業だ。
契約には自分の生命力が必要となり、自分が死に至れば契約が切れ神獣は自由の身となる。
当然契約できる神獣は一人一体まで、神獣側も一人の人間としか契約できない。
このルールがあるおかげで神獣の奪い合い、すなわち殺し合いが多く起きる闇の深い職業である。
「私が神獣出したらそれに嫉妬した人に狙われたりして」
「変な神獣出たら契約切ってやろう」
「合格したい」
一緒に歩いている生徒は各々好き勝手なことを言いながら歩みを進めている。
中には召喚詠唱の練習をしている生徒もいる。
「俺も召喚詠唱読んどくかな」
正直な所召喚に関する授業は一回神獣とのルールを教えられているだけで他には何も教えてもらっていない。
正直、試験は不安である。
そうこうしていると試験会場らしき場所が近づいてくる。
「それではついた先に着いたものから空いたスペースで召喚詠唱を行ってくれ!」
試験官が生徒に向かい試験に関する指示を出している。
「なお、召喚に成功したものは二次試験に移るためしばらくの間待機していてくれ! 召喚できなかったものは学校に戻り退学の手続きをして試験終了だ!」
さらっと残酷なことを言う試験官だな。
試験管の言葉を聞いていた俺だが、周りの生徒はほぼ召喚を始めていた。
召喚に成功しているのは二割といったところか。
「そこの君も早く召喚士たまえ」
「は、はい」
試験官に促され早速召喚詠唱を始める。
「汝、我がもとに姿を現して………」
“我ヲ呼ブカ、若キ者ヨ”
詠唱を始めると脳内に何者かの声が流れ始める。
しかし召喚中に神獣の声が聞こえるなど聞いたこともない。
“我ト契約シタクバ唱エロ、マクアヨディ”
「まくあよでぃ?」
聞こえた言葉を口に出した瞬間、俺の足元に真っ赤な光が浮き上がりすさまじい衝撃が体全体に広がる。
“感謝スルゾ若キ者コレデ俺ハ自由二”
「契約せよ!」
出てきたそれに向かい俺は自分の手のひらを押し当て契約の印を結びつける。
召喚に成功した俺は喜びで足が震えその場にへたり込んでしまった。
「俺にも召喚することができた………こんな俺にも出来たんだ………!」
召喚した神獣を見ると二足歩行で羽が生えて………。
「これって悪魔じゃ………」
「貴様! 悪魔なんかと契約しやがって!」
やはりこれは悪魔!
なんでただの基本的な召喚詠唱で悪魔なんかが現れるんだ⁉
気づくと悪魔の姿はなく一瞬にして周りを囲まれた俺はそのまま抱え上げられ何の手続きもなしに牢屋にぶち込まれてしまった。
「お前は一生ここから出れない! 死ぬまで反省するんだな!」
怒涛にいろんなことが起きすぎて理解が追い付かない。
分かっているのは悪魔と契約してしまったこと。
その証拠に召喚士にしか現れない紋章が手の甲に現れている。
「貴様よくも私と契約してくれたな!」
「なっ!」
いきなりの大声にビックリして声の方を向くと先ほどの悪魔と思われる奴が立っていた。
「あんたのせいで私は故郷に帰れなくなったじゃないか! せっかく封印とかせたのにー!」
なんだか知らないが凄い怒っている。
「契約されたらあんたの近くにいないんだからね。どう責任とってくれるの⁉」
「せ、責任って………。そもそもお前が俺の詠唱中に割って入ってきたからこうなったんだろ!」
「あんなへなちょこ詠唱じゃ何も出てこないわよ!」
心に刺さる一言だった。
分かってたことだがやっぱり俺には召喚なんかできなかったのか。
「さっきまで興奮して分からなかったけどあんた人間の匂いがしないわね」
「は? どういうことだよ」
「そうねぇ、簡単に言うと悪魔の匂いがするわ」




