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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺はこんな過酷な異世界で生きる!?

プロローグ

生きる意味って?

俺は生きているのか、死んでいるのかわからない。そんな時がある。頭の中はなにも考えられない。生きている実感がない。俺は誰にも愛されない。暗い。暗い。闇の世界で俺は沈んでいく。

「ねぇ君はこの世界で満足しているのかい?」

誰だろう?  わからない。ただ幼い少女の声だった。感覚で分かる。これは夢。

「……俺は」

この世界は壊れるべきだ。醜く。人は争い、誰も助けようとしない。唯我独尊。自意識過剰相手を見下さないと、自分を保てない。相手をどう(けな)すかで自分を誇れる。そして金。それだけで、人間の価値を天秤にかける。それがこの世界、地球。

「ねぇ君はこの世界で満足しているのかい?」

少女はもう一度俺に聞く。

「・・・」

俺は満足という気持ちになった事なんて一度もない。何もかも壊したい。こんな世界に生まれたくなかった。対人恐怖症。 ひきこもり。もう高校生だ。そろそろ卒業。夢も希望もない。そんな世界をどう満足しろと?俺は両手を天に伸ばす、『救ってくれ』と俺は涙を流しながら、両手をバタつかせる。ただ、もうこんな世界は嫌だ。

無様(ぶざま)・・・僕が連れてってあげる。別の世界、異世界へ」

少女は俺の頬に手を当て笑っている。

「さぁ。あなたの死にざま、僕に見せて」


第一章生きよう!?

 雨宮冬人あめみやふゆとが目を覚ましたら、いつもの部屋の風景ではなかった。全体的に石で、できていた。窓が開いているのに寒くはない。恐らく石、魔法石らしき物が暖かくしているのだろう。赤く燃え上がっているから。冬人は意外にも落ち着いていた。髪の癖が強く、シャンプーとリンス以外何もしてない。白いパーカに緑のジーンズ。

(あれはやっぱ夢じゃないんだ)

いや夢ではある。誰か・・・少女が『あの夢』を見せたのだろう。もし夢だったら冬人は此処にいないのだから。

「・・・異世界」

冬人は無性にワクワクした。何の根拠もないかもしれないが、冬人はあんな世界から解放されるそれだけで歓喜の声が響きわたる。

(でもどうする?もし、地球と変わらなかったら、ネットもなにもない状況でまた、俺は独りになったら)

そう思うと、やはりネット社会の有難み、凄さを知る。少なからず、冬人には居場所があったからだ。

(まぁやって見ないと・・・分からないよな)

「よし!行こう!」

冬人は切り替え扉を思い切り開けた。希望を抱いて。この世界では英雄になれるように。友達ができるように。恋人ができるように。ドアを開くのが、勢いがありすぎて、誰かにぶつかりそうになる。冬人は咄嗟に『すみません』と最敬礼をする。

「もう!気を付けてよ!」

「あっ!はい!」


【エルフ】

森や泉、井戸や地下などに住むとされる。また彼らは不死あるいは長命であり、知的で魔法の力を持っている


当たり前だけど、初めて見る。身長は一五〇センチメートル前後、年齢は多分冬人と同じぐらい。エルフは千歳でも不思議ではない。髪型はショート。耳と眼が鋭く、瞳が蒼色だ。そして華奢で愛らしい。黒い靴。白いミニスカートに白いシャツ、焦げ茶の革ジャン。控えめにいっても彼女に良く似合っている。超絶美少女だ。・・・やはり冬人も男だ。自然と眼が下がってしまう。小さな谷間を見る。

「ふん!」

彼女は俺に頬をグーで殴った。

「あんた、少し私の部屋に来なさい・・・少しだけだから」

(・・・なんなんだ?コイツ!?)

この世界に着て、数秒、数十秒でこんな出会いがあると思わないよね。彼女と旅をすることになるなって、思わなかった。


「ねぇ?ここって何処?」

「ここって?」

急に話が逸れた為、彼女は戸惑う、まぁそうだよね。でも現在地をはっきりした。変人と言われるようが、なんだろうが、冬人はここで生きなければならない。

「俺らが立っている建物?」

「何を言っているの?」

彼女はポカーンと口を開けている。本来、冬人は自分(・・)の(・)部屋(・・)で目を覚める筈だった。

(これは現実だ)

もうあの世界に戻るつもりはない。冬人を知っているものはこの世界にはいないだろう。冬人はある意味生まれ変わったのだから、ゼロからか分からないが、人生二度目の出発地点だ。

(俺はこれから違う人生を歩むんだ)

夢の異世界で、生きられるチャンスをくれたことに、誰に感謝すればいいのかはわからない。神でも祈ればいいのかだろうか。

(神さまか)

なんで・・・俺に。

不意に冬人は周りを見る。石で、できた建物と洞窟らしき物、煙突。平たく言えばヨーロッパ風だ。地球とは違うのは種族、ドワーフとか獣耳とか妖精らしき者がいる。あとは、魔物。・・・魔物!?モンスター!?

「えっえぇ!?モンスターと共存してんの!?」

「そうなの?」

「俺が聞いてんだよ!」

なにこの子!?俺そんなに日本語下手ですか?冬人は何とも言えない声が出た気がした。

「じ、じゃあダンジョンとかあるよね?」


【ダンジョン】

「地下牢」を意味し、城などの地下に造られた監獄や地下室を指し、魔物を倒し経験値を稼ぐところ。


「・・・確かに私もダンジョンを探す者、プラムよ。 アナタも!? な、名前は何ていうの!?ネコ?イヌ?バナナ?」

今度は通じたけどなんで人間の名前じゃないねん。誰がバナナや!

「もう何でも良いわ!バナナ!」

・・・この人、人の話を聞かない厄介なタイプだ。

「私はベラよろしく、見ての通り最強種族のエルフのベラよ」

最強・・・男だったら憧れる存在。それが最強。心が燃え上がる。

「・・・あ!俺、冬人。田舎から来たから勝手が分からなくぜひ色々教えてくれないかな?」

取り敢えず常套手段を使わせてもらった。万が一危険があったら逃げればいいし、何より、この娘が可愛いのが大きい。

「え?バナナじゃないの!?」

・・・コイツ。

「良かったら、私の部屋に来ない?」

「ぜ、ぜひ!」


ベラの部屋に入り、ベラからコップを受け取る。

「はい、飲んで」

アールグレイの香・・・よく知らないけど、紅茶というのは分かる。コップの全体が黄色でパンダとキツネがフュージョンしたかの様なキモさ、だが妙に愛おしい。

「この動物なに?」

「なにって?キツマよ」

・・・・まぁ良いや。ちょっと、いや、かなり、良いかもしれない。ネコや犬にはない魅力がある。冬人は紅茶を口に含む。

(アイスティー?)

「うん。おいし・・・」

冬人はベラの胸元にあるネックレスが気になる。宝石にも色々あるだろう。有名なのが、ダイヤモンド、サファイア、ルビーとかだろうか?だが、それらにはない魅力があり、妖しさ、人を惹きつける魅力。そして輝き、冬人は目を奪われる。地球と異世界の違いをもう一つ見つけた。自然界の物が天と地の差があることだ。

「???」

ベラは冬人の目線を追い、自分の胸を見ていると思い、胸をかくす。

(・・・まさかね)

「ご、ごめん!そんなつもりじゃなくって!ネック・・・」

「まぁ良いわ。私の、む、胸にきょ、興味があるんでしょ?・・・あぅぅ」

ベラは自分で言って恥ずかしいのか、腕を伸ばし膝に置いている。頬を紅くしながら、唇をキュと閉める。

「ところでプラムってなに?」

ずっと気になっていた。ダンジョンを探しているとかも言っていた気がする。

「プラム?知らないの?どんだけ田舎なのよ!?」

呆れた様に溜息をし、ベルは『・・・説明しないとね。嫌だな~』と再び溜息をつく。

「プラムとはね。ダンジョンを探し見つけた暁には、宝、土地、モンスターを自分の所有物に出来るのよ。その者をプラムと言うの」

「・・・えぇーと」

おそらく、プラムはダンジョン自体を『家』と仮定とする。その『家』物件は王様か何か住んでいて、もう亡くなっており、相続権は『この家(屋敷)を見つけたものに全財産をやる』という条件。その『家』を探す者をプラムってことかな?

「じゃあ。プラムって結構いるの?モンスターならそこら中にいるし」

「あぁあれはダンジョンにはこんなモンスターかな?という願望よ。バイオテクノロジーで創った所謂(いわゆる)、自作よ。まぁダンジョンのモンスターはあんなもんじゃないけどね」

ベラはさみししげに遠い眼をし、身体を小刻みに震えている。冬人はその理由を知らない。ただ、恐怖を感じているのではないだろうか。 冬人は話題を変える。

「何人ぐらいいるんだ?プラムってのは?」

「三人って聞いているわ。一人は龍族。全ての属性、火・風・土・水・木・闇・光を操る。

伝説の龍族・ドラコ・アルファ。

もう一人は妖精族。全ての回復担当、どんなに大怪我をしようと一瞬で回復したらしいわ。伝説魔法・レスレクティオを実現したという。これは復活魔法。もし上級者の冒険者が使おうとしたら、おそらく本人だけが死ぬか、仲間を生き返らせ自分の命を絶つの二つに一つしかないわ。だけど、妖精族、キミラ・クィーンはキミラ本人も仲間も生き返らせた。という噂があるの。

そして最後の種族・エルフ。遠距離や超遠距離魔法を使えるわ。この星のどこでも攻撃できる。感知能力、命中力、集中力は誰にも負けない。エリー・サマントこの三人はプラムの神として崇めれている。そんな伝説があるわ。」

ベルはこの三人だけは妙に説明が上手かった。多分好きだからだろう。そんな話を聞くと冬人は燃え上がってくる感情を抑えきれない。

「す、すごい!」

「でっしょ!?」

冬人は頷く、伝説とか神とか誰でも憧れる物、しかも三人って言ったら本当に神話的だ。自然と会いたいと思う。

「なんか、たかがダンジョンを探すのに凄い伝説が出来るんだね」

冬人は満面の笑みだった。だがこの世には禁句と言うものがある。それは触れると誰もが逆鱗に触れる。それは理不尽というには言い難い。何故なら言ってはならないルールだからだ。

「・・・・」

冬人はベラの姿を見る。景色は変わっていない。だが空気が変わった。空気、雰囲気。それは生きる中で絶対的に関わってくるもの。今の空気は怒り、いや、生易しい。『殺気』だ。

「え、えぇと、ごめん」

謝るというのはタイミングと言うものがある。そのタイミングを外すと、逆鱗を悪化する。所謂、火に油だ。

「死ねぇぇ!!!!!」

「な、なふがよ・ちゅよいしゃん(なんだよ。強いじゃん)」

強力なダメージを受け上手く喋れない。

「・・・でも、おかしいわ」

「なうが?・・・ふぁれ?(何が?・・・あれ)」

ベラは親指と人差し指を顎に添えるが、冬人が意識がなくなり始めると『何だ。効いているじゃない』とベラの安心した声が聞こえた。

「・・・・ごめん」


 どの位たったのだろう。少しずつ、眼の(もや)が消えていく。そして段々頭が覚醒してきた。冬人は周りを見る。何もかもが黄色に包んで、道があるのか、ないのかも区別できない。『き、気持ち悪い』と吐き気が収まらない。

「はぁはぁ。最悪だ。どこだよ?ここ。頭が可笑しくなりそうだ」

歩くしかない。何もしないで此処にいれば確実に精神が可笑しくなる。『恨むぜ。ベラ』冬人はそう吐き出し、歩き出した。何処へ歩いているのか分らない。しかも、目的もない状態で歩くしかない。

「いや、目的ぐらいなら・・・プラムにでもなるか」

苦笑をした。ベラがなりたかった夢なのだろう。プラムは、だったら先になっちまえば良い。ちょっとした悪戯心が歩く度にエスカレートしていく。

(俺は此処まで精神力弱かったか?)

忘れてはいけない。彼はひきこもり。対人恐怖症なのだ。この異世界なら自分でも変れると思った。それは浅はかだった。そう簡単に変れる者ではない。

(怖い)

冬人は胸を掴む。ただまた、対人恐怖症が悪化しただけだったのかもしれない。でも、『夢』の少女の笑みが脳裏に浮かぶ。

「何だよ!俺を笑うな!」

夢の少女の笑みとこの異世界のベラを想いながら、歩くのだった。


第二章 大切にしたい!?

「良くやったね。ありがとう」


【ヒューマン】

地球の人間と変わらない。だが魔力を持っているため魔法が使える。


少年がある少女に優しく微笑む。その少年の瞳は焦げ茶、紫の長髪、マント、ジーンズ、靴が紫色だ。白いシャツが目立つ。

「・・・はひゃく!ぷらむをおしぇなさいよ。きる(早く!プラムを教えなさいよ。キル)」

少女は強張り、緊張の性で上手く喋れない。少女は思った。殴られてもないのに、上手く喋れないなって。自分が恥ずかしい。

「ベラ。可愛いね」

「う、五月蠅い!」

ベラは怒号した。全て吐き切った呼吸を少しずつ整え、胸の鼓動が落ち着きを取り戻した。キルに会うのは五回目だ。やっと少しだけ対面できる。誰にも好まれない殺気。誰にも近づけさせない笑み。誰もが恐怖を覚える眼力。『まるで悪魔だ』

「・・・そうだね。じゃあ教えるよ。死んでなかったらね?」

キルがなにを言っているのか分からなかった。『誰でも良いから、面白い子を連れて来たら教えてあげる』そうキルは言ったのだ。『アグガウガグアグガウガウガウガウガウグガウガググゥウ』猛獣が咆哮(ほうこう)を上げる。その猛獣は人の形をしていた。黒い翼に、赤い眼がいくつもあり、(よだれ)を垂らしていた。ナノテクノロジーでもない。勿論そこら辺にいる人間が作ったわけでもない。野生の怪物ダンジョンテェナスだ。名はサディスト。難易度S級。

(や、約束がち、違う)

震えて足が動かない。このままじゃ殺される。

「逃げなよ」

キルは楽しそうに、逃亡して楽しませろと告げる。

お願い!足、動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて動いて!

『コーフィズデイミィット』

混乱解除魔法、中級者以上が良く使うスキルだ。キルのお蔭でベラは落ち着きを取り戻す。

「さぁ逃げな。愛しのベラ」

顎を上げ、キルは何があっても笑みを崩さない。

「後で覚えてきなさいよ!」

ベラは必死に逃げた。ベラは魔法類が殆ど使えない。筋肉強化魔法(スイムー・マジカル)が一番役に立つぐらいだ。だが、一日四回しか使えない。エルフ種族だったら、何度でも使える筈なのだ。ベラはエルフの中でも落ちこぼれの類だ。

(まだ今日は一度も使ってない。なら!)

筋肉強化魔法(スイムー・マジカル)

サディストの速度はベラでは敵わないが、サディストとベラの大きさはベラの三倍はある。そしてこの洞窟は六メートルしかない。逃げ切れるようには最初から出来ているが、サディストに触れれば、死ぬ。

(本当にアイツ最低)

その言葉が自分にも返ってくる。もう遅いことは分かっている。でも謝りたい。ごめんなさい本当にごめんなさい。・・・許してくれるなら

(何でもするから)

ベラは泣きながら走るしかなかった。


「はぁはぁはぁ・・・やっと慣れてきた」

冬人は黄色景色(デッドムービー)を永遠に歩いたため、体力も精神力も危うい。

(黄色恐怖症になりそうだ)

いや、実際、無事に此処を抜けたあと黄色を見る度に思い出すだろう。そうしたら吐く自信がある。もう黄色恐怖症になっている可能性が高いのだ。

「・・・あれは!?出口だ!?」

正確には出口の光は見えない。黒い景色が見える。今は光より闇の方がかなり嬉しかった。冬人は走る。もうこんな処に居たくない。

「出れた!!」

後ろの黄色景色デッドムービは姿がなくなった。どうやら、冬人が出ると消えるように出来てたらしい。『何の嫌がらせだったんだ?』と考えたがムダな事だと思い、全身疲れ切った身体が崩れ、冬人は腰を落ち着かせる。

「・・・これからどうしよう」

此処にいたら餓死に間違いない。あの状況にいたら精神が壊れていた。此処で救援者が来るのを待つというのも手だ。確かにそれが一番良い方法かもしれない。

「それはある程度の食料と水があったらの話だよなー」

冬人は少し回復したらまた当てもなく歩いた。小一時間経ってからだろうか?何か音が聞こえる。「なんだ?」それは段々と近づき、音が次第に轟音(ごうおん)のように洞窟の全身に響き渡り、冬人はバランスを崩れ、地面に片手をつく。

(地震?洪水?どっちにしてもアウトだな)

その轟音の先からか分からないが、誰かが近づいてくる。あれは!?

「ベラ!?」

会いたかった。とてもとてもアイタカッタ。だがそれよりも気になったのは眼がウジャウジャと気持ち悪い物体が近づく。

「俺を吐かせたいのか!この洞窟は!?」

「フユト!?バカ!早く逃げて!『筋肉強化魔法(スイムー・マジカル)』」

ベラは冬人に自分と同じ強化魔法の呪文をかけた。冬人はさっきの疲れが嘘のように消えた。

(・・・これが魔法!?これならアイツを倒せる!)

そう思ったのは一瞬だった。サディストに触れた壁は溶けている。

「ベラさん!?何ですか?あれは!?」

「三日前に言ったと思うけど、あれはダンジョンのモンスター。野生の怪物(ダンジョン・テェナス)よ!」

(あれが?)

『じゅりゅぅう』

サディストの涎が垂れ、滴が落ちた所から煙が出る。跡がまるで拳銃でも発砲したかの様に穴があいている。

「ベラ!あの化け物を何とか出来ないのか!?」

『ウアッガウグアグアガウガウガウガガウグアッグガウッガウアウアグアグアグアアウウガァ』

逃げる二人の距離が縮まっていく。更に最悪な事に行き止まりだ。爆笑しながら、キルは見ていた。

「おけおけ、もう楽しんだから死んで良いよ」

キルは姿を消した。


 ベラは冬人の手を握る。怖いのだろう。そうりゃそうだ。もう二人とも死ぬしかない。だが冬人は死にたくなかった。

「じゃあ!倒すね!」

冬人はベラが一瞬何を言っているのか分からなかった。少し遅れて『た、倒せるのか?』と驚きと不安、そして期待。

「・・・フユトに早く会いたかったな。あんな変態に出会わなければ良かったに」

初めてプラムをバカにしなかった男の子。

初めてあうのに心がときめく男の子。

初めてあうのに彼はなぜか分からないけど懐かしい。 彼と一緒に旅がしたい。

「・・・ベラ?」

「じゃあね!」

何故かお別れをベラは冬人に言い、サディストに飛びつく。

『虹色の破壊(コティフルス・コーラス)

虹色の光がサディストとベラを包む。虹色の光が消えた瞬間、サディストは最初からいなかったかの様に消えていた。

「ベラ!凄いじゃん!見直したよ!」

ベラは何も答えない。ただ眠っている。いや・・・呼吸すらしっていなかった。

「なんで・・・目を開けないんだよ」

冬人は優しく、ベラの頬に手を添える。何度も、何度も『ベラ?ベラ?寝るな?』と囁く。だが返事は帰ってこない。

「お前に言いたいことが、あるんだよ。ベラ?お前は俺をこんな所に連れてきた張本人だろ?文句が沢山あるんだよ!」

眼を覚まさないことに、胸が苦しくなる。『・・・何で、初めて会った奴に!俺を騙した奴なのに!』冬人は戸惑った。

「・・・わかってるよ」

(認めるよ。・・・俺は)

「頼むよ・・・目を覚ませ」

(誰か、頼むからベラを助けてくれ。頼むから!」

冬人は力強く、ベラを抱きしめる。『ごめん。ごめん。俺が悪かったから』何度、謝ったか分からない。

「誰でも良い。ベラが助かるなら、何でもするから、ベラを頼むから助けてくれ。」

「感謝してや」

ベラではない声が聞こえた。冬人は周りを見渡した。


第三章 神さま!?

「誰だ?」

くすっと誰かが言った。『まだまだやね』と冬人とベラに未熟ねと言っているのか。確かにベラも冬人も、十が中級者なら二人は一も満たないだろう。

「ウチは後や」

「!?何だ?お前は?」

その女は神秘的でドワーフでも巨人でもヒューマンでもエルフでも妖精でもない、まるで神の様だった。瞳がサーモンピンク、髪が黄緑。葉っぱの服を着ている。その特徴は妖精と変わらない。だが確実に妖精とは違う。何故なら、他の妖精とは身長が愕然と違う。

大体妖精は、10センチメートルぐらい、だが、この女は一七〇センチメートルある。

「ウチはキミラ・クィーンや、覚えとき。そのムスメエルフやのにホンマに死んでるわい」

「・・・うるせぇ」

お前に何なにが分かるんだ。笑いに来たなら、何処かへ行け、俺に関わるな。と冬人は思う。どんなに美人だろうが、そういう人間は冬人は好きになれなった。なにも心がときめかない。

「ウチが生き返させたる」

冬人の眼が開いた。何故なら復活魔法だ。もし上級者の冒険者が使おうとしたら、おそらく本人だけが死ぬか、仲間を生き返らせ自分の命を絶つの二つに一つしかないとベラが言っていた。ドラクエとか他のゲームでは本人が死んだりしないのに、まさか本人まで死ぬとは思ってもいなかった。

「良いのか?」

酷かもしれない。だが冬人、いや人間の本質だろう。大事な人が生き返るなら、初めて会った奴なんてどうでもいい。道徳心なんて、こんな時にあるわけがない。

「・・・あははっは。ええで」

キミラは目を開き、ただ笑った。自分の人生なんてどうでも良いのだろうか?やはり冬人はこの女が気にくわない。冬人も何度死のうと思ったか、対人恐怖症、ひきこもり。自分の人生は終わったと何度思っても生きているのに。それなのに、この女は容易く、人生を降りると宣言したのだ。

「早くやってくれ」

冬人は冷たい口調だった。

「生きなはれ」

(呪文?)

キミラはベラに手を乗っけてただ、呪文?を言った。何処か青い眼の天使ちゃんが言っている口調に良く似ていた。

「・・・うぅう」

「ベ、ベラ!?」

ベラは何も返事をしなかったのに、(うめ)き声を上げる。間違いなく生き返った。

「これでどうや?」

キミラは微笑んだ。

「お、お前。生きているのか?」

冬人はキミラが生きていることに驚く。人生で一番驚いたかもしれない。キミラに対して失礼な言だったかも知れないが、素直な言葉だった。だがキミラは首を傾けるだけだった。

「・・・フユト?私生きてるの?」

『虹色の破壊(コティフルス・コーラス)』この(スキル)は敵を確実に倒す条件に自分の命を絶つ。ベラは冬人が眼の前にいるのが信じられない。

「あぁ。生きているよ。コイツが生き返らせてくれたんだ」

「えっ?」

冬人の言葉が信じられない。ベラにはエルフの友達もいなければ、他の種族もいない。

いやそもそも、友達でもそこまではするだろうか?親か恋人なら、なんとなくだが分かる。だがベラには父親は数年前に他界し、母親はキルに捕まっている。

「どうも」

「アナタは?」

「この人が生き返らせてくれたんだよ」

ベラは冬人が何を言っているのか分からないらしい。もう慣れたのか、キミラは欠伸を噛みしめる。

「ウチはキミラ?クイーンや」

ベラは驚愕する。まさかあの伝説、神とも言われた妖精種族、キミラ・クイーンが実在するなんて、都市伝説、人類の願望だけかと思っていたらしい。

「ほ、本物?」

「お前さんが生き返り、ウチが生きている何よりの証拠や」

「・・・信じれないわ」

感激のあまり、勝手に握手をするベラだが、キミラもたまにあることだと眠そうな眼で怠そうに握り返す。

「知り合いか?ベラ?」

「バカ!伝説の妖精種族のキミラ様よ!」

「あはは。でも礼ぐらい、いってなぁ」

復活魔法で本人が死ぬのはSSS級の魔力がいるため、例え使えても死ぬのが常識。本気でやろうと思う者は何人いるだろうか。だがキミラの知っている者はほぼ、復活魔法を試した者が多い。どこかで自分ならと思ってしまうらしい。その事をキミラは知らなかった。

「「あ、ありがとうございます!!」」

「えぇよ」

慌てて最敬礼する二人をキミラは笑って二人を撫でる。ベラは撫で心地良いが冬人に対しては不満がある。キミラ身長は一七二センチメートルに対し冬人は一七五センチメートルだ。少し不具合がある。

「ウチまだ君らの名前を聞いへん。教えてや」

二人は少し可笑しくなった。

「ベラと申します。この度は本当にありがとうございます」

「俺は冬人です」

二人は思う。神さまはこんな人だろうかと。

「じゃあよろしく。プラムに連れてって欲しいねん」

「「はぁい?」」

それは思わぬ人から言われて、戸惑う二人。


第四章 逃亡!?

三人はカイ洞窟を出る。すると、安心したのか冬人の腹が鳴る。だが三日も食べていないなら無理もないだろう。

「―あ、ヤバい。何処かの誰かさんが、騙したせいで腹減った」

「・・・・・」

「どないんしたん?」

冬人が何を言っているのか分からなかったキミラはベラに確認したよしようと思った。だが、ベラには活気がない。復活魔法には服作用はない。厳密にいえば、キミラにはない。他の人が復活魔法をすれば、恐らく、過剰な服作用が出るだろう。だが一度も出たことがないキミラはベラを心配そうに見る。

「・・・・・・キミラさん。お願いがあるんです」

「なんや?」

真剣な表情にキミラは耳を傾ける。ベラは中々言おうとしない。恐らく、本当にお願いしても良いんだろうか。と心配しているのだろう。

「言ってごらん」

「・・は、母を助けてほしいんです!」

どいうことだろう?と疑問に思うが一瞬のことだった。それは良く頼まれることだったからだ。

(ウチのこと何も考えてないやな)

魔力が無限だったらキミラもやっていただろう。噂は良くも悪くも広がる。

寿命だったら流石のキミラでも治せない。

断ればまた悪い噂が流れる。そして治したら良い噂が流れ、限界ギリギリまで魔力を使わさせる。

「どうことだよ?ベラ」

「私の母がキルに捕まって、いまはまだ、生きていると思うんだけど」

状況が読めない。だが、危険ということは分かる。キルという人物は知らないが、冬人がいたところで足手まといだ。喧嘩だって勝ったことがないのに魔法を使う相手にどう立ち向かえと。でも。

「俺も手伝うわ。」

「・・・・・」

キミラが噂になってから初めて、生き返らせてくれと頼まれず、生きた者を助けてくれと言われ、驚愕する。

「別にそれやったらええけど」

「サンキュー。じゃあ黄色景色デッドムービに立ち向かうか!」

「なんやねん・それ?」

キミラは冬人の言葉に思わず笑みが出る。ベラといえば、口を開けたまま動かない

「どうした?ベラ?」

「どないんしたん?」

「・・・冬人!デッドムービーってなによ!馬鹿らしい。私に任せなさい!」

そして、『ありがとうございます』とキミラに礼を言う。笑った。

「お前らも黄色景色(デッドムービー)を食らえばいいんだ」

どれだけ恐ろしいか。だが、この時は、まさかキミラの発言で過酷な旅になるとは思わなかった。


第四章 誰でも良いから優しくして欲しいよね!?

カイ洞窟に入ると、極端に暗くなる。そういう所は地球と変わらない。

「ここはダンジョンじゃないやな」

「ダンジョンと何が違うんだ」

それはベラにも興味がある。夢を追うものとして違いがあるなら、是非とも聞きたい。いつか、キミラとは別れなければならいから。

「クリスタルがあるんや」

「クリスタル?」

「そうや。洞窟の中にはクリスタルちゅもんがあってな。それらが蒼い光で洞窟のなかメッチャ明るいねん」

「モンスターとかやっぱり強いの?」

「ーん。分からんけど、倒したら金がぎょうさん貰えるで」

冬人は黙って聞いていたが、成程、そこら編はよくラノベとかゲームに出てくるのと大して変わらないのか。それはありがたい。

「どのくらい貰えるんだ?」

「一体十万エニやったかな?あんま覚えておろんのよ~堪忍な」

「じゅ、十万エニ」

それだけあれば一年は暮らせる。でも恐らく、いや絶対にベラには倒せないだろう。そのぐらいの自覚はあったらしい。顔を表情が変わり、落ち込む。

「なに諦めてるんだよ。俺らも強くなれば良いだけだろ?」

冬人はベラの頭を撫でる。ベラは自身なさげで中々元気を取り戻さない。

「ウチも最初魔力は殆どなかったんよ」

「本当ですか!?」

内心、疑ったベラは『ホンマやで』とキミラの一言が、ベラの活気を取り戻すがあまり信じていないのも事実。

「・・・行くぞ」

冬人は先に歩き始める。ベラがキミラの言葉で元気を取り戻したことに、面白みを感じてないでも冬人は分かっている。これは経験の差だと。

「っで何処へ行けばええの?」

「あ、はい!もう少しです!」

ベラが走り始めた。

「可愛いね?」

「そうですか?」

冬人は不機嫌そうに答えるが、キメラは何となく感じているのかもしれない。冬人がベラの事が好きなんだと。

「おもろいわ~」

キミラの独り言を無視し二人はベラの後を追う。

「確か此処だったんですけど」

「・・・・いないな」

「・・・・・・」

そこにはキルの姿がいない。だが異変を感じ取っているのはキミラだけだった。

「今更言うのもあれなんやけど、ウチ攻撃魔法は全く使えへん」

「「はぁ?」」

『ウアグアグアグガウガウガウガウガウガウグアグアグガウガウガウガウアグガウガウガウガウグア』

「おいおい」

「・・・私が倒したのに」

「ぎょうさんおるで、こういうの。まぁ一体やから楽勝やろ?」

((そんなバカな))

全ての属性、火・風・土・水・木・闇・光を操る。伝説の龍族・ドラコ・キラムと最強のエルフ種族エリー・サマントなら楽勝だろう。

寝ていても勝てそうだ。でもな、上級者にも中級者にも及ばない民間人が威張ってます!ってのが冬人達だ。勝てるわけがない。

「言いな。ベラ、分かってるよな」

「も、勿論」

「???」

「「逃げるぞ・わよ!!!」」

「なんでや?」

キミラは不思議そうにしているが、常識で考えてほしい。虹色の破壊コティフルス・コーラスを使えば倒せるが、しかもキミラのお陰で魔力は十分にある。だが冬人は許さない。あんな想いをする以前にキミラがいる前で『使え』なんっていえばベラは道具と変わらないからだ。

「ど、どうすんだよ!」

「知らないわよ!」

「あれ?キルって言うんか?あれ?サディストちゃうか?」

今はキミラのボケを聞いてやれるほどの余裕はない。

「なぁあれ弱点ないのか!?」

「私が知るわけないわよ!」

そうなると、やはりベテランに聞くのが早い。だが『だから普通に倒せばええやって』言われれば、参考になるわけがない。

『ウグアグアグアグアグアグガウアグアウガウアググアグアグアガグアグガウガウガウグアグアグアガウ』

「てか、口!何処にあるんだよ!」

「結構余裕ね!?アンタ!?」

「なんか、楽しいわ~」

(余裕?そんなもん!この状況に突っ込まないとやってられんわ!)

冬人は(あなが)ち間違ってはいない。人間のブレーキ、コントロールするのに、叫ぶ、そして別の事を考える。それは防衛本能だと言えるだろう。いつまでも同じことを考えていたらキリがないからだ。

「なんで俺こんな所に来たんだ!?」

「五月蠅い!」

「???まぁ多分やけど、それはそれ、これはこれやな」

テンションがハイになる二人は、流石と言うべきか、落ち着いた表情、いや眠そうな表情のキミラ。

「こんなだったらひきこもりの方が楽だ!」

「ひきこもり?なんやか知らんけど、ウチは楽しいけどな?ようはあれやな?楽しまなきゃそんやな」

そうなのかも知れないと冬人の頭の片隅に入っていた。それは楽しめたらの話だろう。きっと此処にはない人間関係が複雑なのだろう。それはこんなにも優しくはなく、こんなにも仲間思いもないからだ。だからか冬人はいま、いや異世界にいることに安心感がある。対人恐怖症が出ていない。その事に冬人は気づかなかった。

「 このままじゃ(らち)が明かんなぁ。フユト、ちょい力を貸しぃ」

「・・・どうするんですか?」

「わ、私の力も力使ってください!」

キミラは苦笑する。

「ほんな頼むわ~」

キミラが二人の背中を叩き、同時に包むように青色の光が出る。

「す、すごい」

「疲れがなくなる」

S級制限回復魔法。一般的には、三分ぐらいが妥当だという。だがキミラの場合、五十時間だ。

「死ぬことはないと思うで」

((これなら、いける・わ))

確信だった。全く死ぬ気がしない。だが攻撃力は変わらない。10,000HPを一ダメージずつ与える様なものだ。長期戦は覚悟の上なのか、二人の眼つきが変わる。

(さぁどんな戦いを見せててくれるんや?)

楽しそうに真剣に二人を観察する。

「とりあえず、一発殴らせろ!」

冬人は先にサディストを殴りかかる。拳から煙が出たことに驚き一旦引くことにする。

「だ、大丈夫!?」

「・・・・・・・」

痛くない。まるで神経まで通っていない。キミラの魔法の。冬人が瞬時に回復する。

「魔法サイコウ!」

「・・・良かった」

無事だと分かると安心をしたのか、表情が変わる。そして『筋肉強化魔法(ムースイ・マジカル)』を最大に冬人とベラ自身にかける。だが魔力がなくなっているとも思えない。

(キミラさん。アナタ何者よ!?)

伝説の妖精?そんなもので片付けて良いんだろうか?抱いていた憧れが想像以上に凄い。ベラさえもがいけると確信出来る。

『アガウガウガグガウガウガウガグアグガウアグアグアウグアグガウアグアグウググガウガウガウアグ』

「ったく。取りあえず」

「あの眼疎しいわね」

死角がないというは戦闘中で一番厄介だとベラは知っている。二人は目を重心的に狙う。

「つーか何個あるんだよ!?」

「知らないわよ」

サディストのスピードを凌駕していた。だが条件反射でサディストは(つむ)る。中々全てを壊せない。

「おらぁ!」

「はぁっ!」

『ぐぎゃぎゃがぎゃぎゅががぎゃぎゃぎゃが』

(まるでドラコとエリーみたいやわ)

あぁやって遊んでいたと懐かしむキミラ。

「何個潰した?」

「二十三個。フユトは?」

「二十二個」

勝ったと誇らしげにベラは微笑む。一方冬人は悔し気に『次は勝つ』とサディストに向かう。

(やばいわ~このままじゃ死ぬでぇ二人とも)

サディストの本当の力を知っているキミラは立ち上がる。

「早く倒さんとヤバイでぇ~」

「ど、どういことだ!?」

「自爆されたらかなわん・・・この辺り血の海になってしまうでぇ」

「そ、そんな」

『――――ウガァ』

(ヤバいヤバい!ヤバい!!!ど、どうする!どうする!どうする!!)

「・・・早くいってくれよ」

「堪忍な」

泣き声に近い呻き声を上げる冬人を申訳なさそうに眼を垂らすキミラ。強ければ簡単なのだろう。倒せばいい。なんて羨ましいことだろう。

(俺が強ければ)

女を守れない悔しさが冬人を追い詰める。だが、ベラならあれを『また使えばいい』それだけで全てが解決する。もしそれが冬人も使えたら間違えなく自分は使っていただろう。

「キミラさんが居てくれて良かった」

「うるせぇ・・黙れ」

虹色の破壊(コティフルス・コーラス)を使う気だろう。だが、冬人が何よりそれを許さない大事な人をあんな(スキル)を二度と使わせない。

「で、でも」

「お前は物じゃないんだから他の方法考えろ!バカ!」

冬人の怒号にベラの目が開く。だがその方法以外に思いつかないのも事実だ。

『ウアガグアグアグアガウガウガウガガウガウガウグガウググアグググアガウガッガウガ』

(あれは!・・・いけるかもしれない!」

「ベラ!俺に全最大力の筋肉強化魔法をかけてくれ!」

「え、え?え?」

「頼む!」

「ウチも手伝ったる」

どんなに凄い魔力でも一人より二人にかけられた方が何倍にも何十倍にもなる。


【冬人 力 10―20.000.000】


「くたばれ、糞野郎」

『ウグアガウウアグウアゥアッァァァ』

散り散りになるサディストを呆気にとられるベラに対して関心するキミラ。

「へぇ~あれ口が弱点やったやん。知らかったわ~」

「く、口?」

「ほれ?これクリスタルや~・・・なんやちっこいわ~」

初めてクリスタルを見るベラは目を輝かせる。妖しい蒼い光が目を奪う。まるで、父の形見のネックレスの光によく似ていた。

「あれ?」

動けない。身体が(しび)れる。痛いよりも熱い。このままじゃ死ぬ。

「どないんしたん?フユト?」

「早く起きなさいよ」

「・・・・全然動けねぇ」

「???フユト・・・契約まだなん?」

「嘘、でしょう!?」

契約。ダンジョンを探す者、プラムになる為の決定事項。契約をしなければ罪になる。

「君か!?」

突如やってきた、ポルスらしき者が冬人を抱える。違反者確保(エラー・トラップ)ため、冬人は全く動けなかったらしい。ポルスは地球で言う警察に近い。

「フ、フユト」

「君も仲間だな?付いてきなさい」

「・・・・」

ベラはただ「・・・はい」と言うしかない。楯突けば体罰は免れない。

「ちょいまちぃ」

だがこの世には自分に絶対的な自信を持つ人間がいる。

金でもない。

自意識過剰でもない。

唯我独尊でもない。

それは英雄とも言われ、神とも言われ、自分を曲げなかった者の屁理屈(りそう)は体罰ごときに負けない。

「キ、キサマ!?」

「毎度、毎度、ドラコがお世話になっとる。おおきに。カルム」

「ドラコは何処にいる?」

眼付が鋭い男、カルムがキミラに聞く。

「ドラコのことはどうでもええぇけど」

「良くはない。アイツには死刑が待っているのだ。」

捕らえるのが我々の義務だとカルムは剣を抜く。

「キサマ一人なら訳はない」

「勘弁してなぁ・・・間違えて殺してしまうで」

「止めろ。カルム。呪願でもされたら厄介だ」

呪願、人と対峙する世界最悪の魔法。二人に一人は確実に死に至る。カルムは鞘を納めるが、殺気は上昇する。キミラはお構いなしにカルンの首筋を掴む。

「その子置いてきや」

「ダメだ」

「殺すで?」

ポルスだろうがなんだろうが、キミラには関係なかった。だがフユトは心の中で『バカ、止めろ』と叫ぶ。

「俺に楯突くのか」

「どうせ。何も言わさず死刑やろ?ドラコと同じや」

地球では聞き込みとか情報を集めて、刑罰が決まるだろう。だが此処では違反者確保(エラー・トラップ)がかかったら死刑。それがもし冤罪だったとしても。

「ふん。すでにコイツも、ドラコ違反者だ。死刑の他に何がある?」

「厳しすぎやろう?もっと人の話を聞きぃ」

「聞く価値があるのか?・・・そろそろ手を離せ」

もう既にキミラは死刑者確定だとポルス二人は頷く。

「なんやウチもか?ええぇやろう。他の者にどう説明するんや?またあれを抑えるか?」

暴動。ドラコが死刑が確定したときプラムを目指す者が反乱が起こし、ポルスを壊滅状態まで追いつめたのだ。

「・・・何が望みだ!」

「解放や」

プラム自体、名誉でもなんでもない。だが、人々からの恩恵を授かっている者の力は伊達じゃない。

「ドラコだけ捕まえさせてもらう。例え壊滅になってもだ」

「それは楽しみやわ~」

やれるものならやってみろ。キミラは微笑んだ。


第五章 異世界で俺の親戚に出会う!?

 当時、キミラ達がまだ幼かった頃。キミラの大事な人が死んだ。


【セルフネグレクト。】

衣食住を放棄、自己放棄というらしい。それがキミラの好きだった男の子が孤独死をした姿だった。


「なんでウチに相談してくれかったんや?」

そうしたら助けてあげたのに、なんで誰にも相談しなかった?キミラは信用されなかったのか当時は何も持っていなかった。彼は独りではなかったのに、独りだと思ってしまったのだ。

「おい!キミラ、何してんだ?」

ドラコはキミラを探していたのか息を切らしている。

「ミッちゃんがいなくなってしもーた」

「誰だっけ?」

キミラは悲痛になり、激怒する。

「ドラコのドアホ!何でや!何でや!!!!」

ミツルは虐待を受け三年前この街へ逃げてきた。彼を知る者は少ない。

「でも此処?違法物件だぜ?ポルス達が言ってたぞ?」

「ポルスは知ってるん!?」

「おい?どうした?そんなに叫んで?」

そこには十歳ぐらいの少年がキミラとドラコに近づく。

「カルム?いやーそこの・・・誰かは知らないけど」

「うん?・・・あぁ死んでるな。って!ミツル!?」

「知ってるん!?」

それは涙が出る前に呻き声をするカルムの姿だった。

「な、なんでだよ。大丈夫っていってたじゃねぇーか!」

それはミツル自身がそう言ったのだった。だが大丈夫ほど大丈夫じゃないことに気づくには幼すぎる。殆ど飯も食わずプライドだけがあった。しかし生き残るにはどうしても、食、水は必要だ。だが確保が出来なかったのだろう。

「もう信用せぇへん」

「キ、キミラ?」

それは何をか?誰をか?を聞かなくても分かった。

(・・・俺は)

カルムは悩んだ。死んでいる友人、泣いているキミラ。何も知らされていないドラコ。カルムはキミラ達とは違う道を決心する。カルムはポルスの道を選び、キミラとドラコはプラムの道を選んだ。喧嘩の日々が何年も続き、あれから今になってもキミラはカルムが嫌いだ。裏切ったのだ。その考えが変わらない。


「ウチは絶対許さへんで」

「俺は俺だ。その俺が嫌いなら、それで良い」

「変わったわ。ホンマに」

「変わらねぇよ」

カルムは冬人を離して姿を消した。瞬間魔法を使ったのだ。

「ホンマに何を考えてるのか、分からんわ~」

「兎に角、危なかったんだよな?サンキュー」

「アンタ死ぬところだったんだからね!?」

ベラにそう言われるが、実感がないのも事実だが、違反者確保(エラー・トラップ)は死ぬかもしれないと寒気がする。

「でもキルちゅ奴はおらんなー まぁ瞬間魔法をつこうとる痕跡があるちゅことはいなやろうな~」

瞬間魔法。一般的に使われている移動魔法。契約している場所であれば何処でも移動が可能だが、一万エニを支払わなければならない。

「・・・・」

「探すしかねぇーな」

「せやな、行ってみようや」

「・・・いや でも」

そこまでして貰ったら流石に悪いと思ったのか言葉が濁る。更に言えばベラには今手持ちがない。

「じゃあ頼む」

「ア、アンタね!」

冬人は首を傾げる。だが当然来たばかりの冬人にはお金が掛かるなって知る余地もなかった。別の世界から来たことを言った方が楽かも知れないが信じてくれるかは別の話だ。

「えぇで 別に大した金額でもないんやから」

(え?金掛かるんだ)

「あ、ありがとうございます!」

「じゃあ?まり」

「は、はい」

「・・・なんかドキドキするな」

「可笑しいわ」


『ライ商店街』

「はい。一人一万エニ貰うよ」

「ほな、これで頼むは」

商売人のおっちゃんに金貨一枚渡す。

「あいよ。銅貨七枚だ」

(へぇ~この世界の金か)

「おおきに」

釣りを受け取ったキミラはガイ洞窟の新しい魔力・・・つまりキルらしきの魔力を探す。感知魔法。ポルスの専売特許の(スキル)だ。カルンには負けるがキミラも上級者を遥かに超えている。

「おらんなー ボチボチ探してみようや」

「・・・・キミラさん アナタどれだけ凄いんですか?」

この街は大体三百万人の人口の大都会。それをはっきりといないと答えた。ポルス以外の感知能力で此処まではっきりと答えた人はいない。

「これぐらい ダンジョンを探すなら最低条件や~」

「・・・・あははは」

「早く行こうぜ」

乾いた笑みをするベラ。興味がない冬人。当たり前の様にするキミラ。それぞれの凸凹を丸くするのにどのくらい掛かるだろう。

「取りあえずこっちへ行こうや」

「あ、はい」

キミラの腹が鳴ったとき冬人は嬉しそうだった。


「上手いな!?」

「この、オムメシも美味しい」

こってりとした鶏肉は脂身があり、スパイスが効いている。鶏肉を冬人は頬張る。地球でいうオムライス。とろとろの卵に、自家製のタレをかけている。甘辛らしい。

「オムメシも頼もうかな?」

「・・・あんたそんなにお腹すいていたの?」

「三日も食ってないからな!」

「・・・ごめん」

「ごくごく ご馳走様や」

「・・・・やっぱり妖精なんですね」

「水だけで良いのか?」

「木の実も食ったで」

妖精種族は基本、水だけで十分らしい。だが、その栄養は集中的に胸部にいくの納得いかないベラ。つい凝視してしまうのか眼が逸れない。

「どないんたん?」

「・・・え? あぁ何でもないです!」

「これからどうする?」

頬紅くして慌てて両手を横に振る。ベラはこの世は理不尽で出来ていると改めて実感する。窓の外はもう夕方だ。これ以上探すのなら気合がいる。だが見つからない可能性のが高い。だったら明日まで待った方が賢明ではないだろうか?そう思ったのは冬人だけではなかったらしい。


「アンテナはかなり張ってるやけど、範囲を広げるなら、休んだ方が早いわ~」

「・・・そうですね」

アンテナを張る。それは感知魔法の専門用語、個人差にもよるが、相手の魔力を見つけるのに二十四時間以上、探すのは危険だと言われている。魔力が切れた者は精神が壊れるからだ。

「何処か宿を借りるのか?」

「・・・え?宿?」

冬人は勿論、ベラもお金を持っていない。ここまで来るとベラが貧困に見えるが、一般的に宿と移動も上級者以外使うものがいない。もし中級者以下が使うとするのなら、見栄か余程の裕福な家庭だけだ。

「アナタ田舎から来たんでしょ?」

「えぇ?お、おう」

「出身はどこなん?」

困った。ここが人生の選択肢だ。本当の事を言う。適当に東西南北のどれかを言う。さてどうした物か。まぁ別に深く考える必要はないんだけど。困った。だけど俺は知っている。嘘はボロが出ると。でも信じてくれるかどうか。

「えぇと、ちきゅ」

「チキュ?そうとう田舎ね」

「・・・あそこ何もないんやろ?」

まぁ人生の選択は独りだけではないので、難しい。だから世界は複雑にできているのかも知れないと冬人はそんな風に考えるのだった。

(まずは人の話を最後まで聞くって大事だよな~)

冬人とベラはキミラに宿代を払って貰った。ちなみに食事代は流石にベラが払ったらしいが冬人が一文無しだと知ってベラは冷たい眼で見た。


第六章 俺は異世界ではいちゃいちゃできる!?

「いま一部屋しかありませんぜ」

酒場で宿の場所を聞いたら何ヶ所教えて貰ったが、イベントどうのこうのあるらしく、殆ど、いやここ以外満室。ベラは青ざめていた。

「し、仕切りはないの!?」

「嬢ちゃん。あるわけないっすよ」

「えぇやん。おもろいやん」

「・・・・」

冬人は想像する。


『フユト・・・好き』

『ベラ ウチが先や」

『順番だ』

重なり合い。唇を奪い合う二人、冬人の唇を先に奪ったのはベラだった。不機嫌になる伝説。伝説に勝ち誇ったエルフ。彼らの夜は長かった。


「なに、にやにやしてんのよ!?」

「ベ、別に」

頬紅くし、怒鳴るベラに顔を合わせることはできない。冬人は片手で頭を掻く。

「じゃあ頼むわ~」

「がははっははは モテモテだな!あんちゃん!」

「・・・えぇっと」

ベラは戸惑う。自分の身が危険なのだから当然と言えば当然だ。だが一方冬人は二人に見えないようにガッツをした。

「二十一号室のピンクの部屋だ。行けば分かる。個室にシャワーがあるからゆっくりしてきな。なんなら音楽もかけるぞ?」

「ラブホみてぇだな」

笑顔で鍵を渡すおっちゃんには悪いけど、ピンクの部屋はないと思う。行ったことはないけど、ドラマとかたまにアニメで出ってくるのを見る程度だが、だいたいそんなもんだろう。

「おおきに、行こうや」

楽しそうに笑み溢すキミラだが異様に不安しかないベラ。

「変なことをしたら殺す」

「大丈夫、大丈夫」

冬人は思う。大丈夫という言葉は一番意味がないのではと。


『二十一号室』

「なんか嫌やわ~」

「なんか、き、気持ち悪い」

「・・・休まる場所じゃねぇな」

悪態しか出なかった。全体が桃色に出来ていて、ベッドが一つまぁギリギリ三人寝れるかどうか広いベッド。その上に魔石があるがこれはミュージック様だろう。流れているのはおっちゃんのラップだ。これで寝たら悪夢しか見えないのは容易く想像できた。

「・・・まぁ野宿よりはマシやろう」

季節は寒季。日本で言う冬だ。夜になるとマイナス四〇度は当たり前らしい。朝方から二〇度まで上がる。

「とりあえずシャワー浴びたい」

「そうやな。 フユト?」

女性二人組が冬人を見る。二人の眼は早く出ていけだ。


「でもやっぱ此処異世界なんだな」

此処には俺以外の地球人はいない。それが寂しく感じるとは冬人自身思ってもいなかった。溜息をもらし、廊下の窓に手枕をし額を顔全体に包む。冬人はホームシックに襲われているのか、どうも居心地が悪い。

「帰りたい」

自然とそう呟く。本音かどうかは置いとくとしても、異世界では赤子同然だ。それなのにこれから自分自身でやっていかなければならない。ベラやキミラにお世話になってばかりではダメな人間になってしまう。

「言葉は通じている事に感謝だけど」

「うん?どうした小僧元気ねぇな」

二度目の溜息をした頃、黒髪の青年が冬人に声をかけてきた。瞳は茶色。ジーンズに銀の篭手(こて)にマニカ、グレアウェを装備している。腰には落雷の(つるぎ)


【篭手】

戦闘時に腕、手を守るための防具。

【マニカ】

戦闘時に上半身を守るための防具。

【グレアウェ】

戦闘時に下半身を守るための防具。

【落雷の剣】

名刀の一つ。切れ味は最高級品。


「どうも」

「俺はトール・カンザキだ。よろしくな」

「かんざき?」

それは良く聞く名前だった。トールは苦笑する。

「珍しいだろ」。

「ま、まぁ」

「信じるかどうかは自由だが。俺の先祖が異世界からやってきたらしいんだわ」

胸が張り裂けそうだった。まさか地球から来たという奴が冬人以外にいるなんて思わない。

「ど、どどどどど、どういことですか!?」

もうパニック状態だ。冬人の顔を見て噴き出すトールだが『面白い奴だな』と好意に捉えてくれたらしい。信じているのか定かではないが嬉しくてしょうがないだろう。何度バカにされたかトールは苦い思い出があるから。

「昔、夢を見たそうだ。それは凄い美人の女の子だったらしい。その子は『ねぇ君はこの世界で満足しているかい?』と先祖に言ったそうだ。先祖はその世界に満足していなかった。何でかはわかるか?」

「・・・なんで、でしょう?」

「自意識過剰。唯我独尊、金で全てが決まる。そんな世界だったらしい。俺はこの世界とたいして変わらないと思うけどな。・・・でも先祖は変わったらしいぞ?まぁようは心の問題なんだろうな」

「・・・心の問題」

冬人はそうなだろうか?とふっと思う。でも何か違う。確信はないが、そうだと信じたい。

「つっても人間そう強くはねぇ。折れると時は折れる」

「そうっすね」

折れない人間。鋼の様な心があるのなら、冬人は間違いなく異世界以上に憧れていたかも知れない。

「まぁ要は乗り越えた奴が英雄なんだろうな」


 トールのご先祖は間違いなく地球人だ。『安心』とはこの事だろうか?世界に一人だけだったらきっと冬人は壊れていただろう。寂しさ。誰にも相談できない。不安。誰かが、いた。いる。それだけでこんなにも安心出来る者だと冬人は初めて知った。

「なんか・・・ありがとうございます」

「いやいや俺は別に!・・・聞いてくれたことが初めてだから興奮しちゃって俺こそありがとう」

「お前何て言うの?」

「雨宮冬人です」

「・・・・・」

名前でいじめられ、呪った。地球だったらなんでもないのに、トールは地球に憧れていた。彼もこの世界の名前ではない。そのことに驚愕、号泣する。きっとトールは嬉しいのだろう。初めて、理解者がこの世にいてくれたことに。

「お前も辛かったな」

「えっ?あ、はぁ・・・」

両手で握手するトールは誤解をしている。名前で虐められたのだと。だが冬人はトールの過去は知らない。

「なぁ?良かったら仲間(パーティ)にならないか!?」

「・・・パーティ」

心に惹かれた。ネットゲーの他のゲームにもあることがリアルにできることに感動を覚える。だがベラ達のことを思い出す。

「でも・・・少しやることがあるので、それからで良いですか?」

「うん?良いぜ。通信してくれれば全然オッケー」

「ありがとうございます!」

その代わり敬語をやめることを条件にされたが、何かキミラとは別の意味で嬉しい。まるで友達ができたみたいだから。

「・・・あぁ此所におったんや~」

「???仲間(パーティ)か?」

「・・・・・」

キミラを見たトールは冬人に問うが、仲間ぱーてぃと言われたら困る。そりゃ仲間と言いたいが、キミラはプラムだ。

「まぁそんなとこや」

「俺もこれからお前らと一緒だ。。トール・カンザキだ。よろしく」

「ウチはキミラ・クィーンや」

握手をしようとしたトールだが・・・聞き間違えたのか混乱する。まさかプラムじゃあないよなと。

「悪い・・・キミラと聞こえたんだが」

「・・・ウチの名前おかしいんか?」

硬直する。そして自分の発言に何か無礼はなかっただろうか?フル回転で記憶を辿る。『俺もこれからお前らと一緒だ。。トール・カンザキだ。よろしく』完全にタメ口だ。

「失礼しました!!まさか憧れのプラムだと、思ってもいませんでした!何卒ご無礼をお許し下さい!!!」

「「・・・・」」

まさか土下座までするとは思っても見なかったキミラ。まさかプラムの凄さ、信仰がどれほど凄いのか今更ながら驚きを隠せない冬人だった。『・・・教えろよな』とキミラに聞こえないように囁くトールに冬人は謝る。

「そうや。フユト。ベラのおかんを探すのに登録しないとあかんな」

「あはは でしたね!」

登録はプラムを目指す者の最低条件。登録しなければ、違法者確保エラートラップが発動する。身を持って体験した冬人は二度はごめんだ。動けないだけならいい。体中が刺すような痛みは殺す気か?・・・まぁ殺す気なんだろうけど。

「・・・ お前登録してないのかよ」

「あははは」


【神の都】


『今度はどんな死に方をするのかな?』

『悪趣味も度が過ぎれば・・・死を意味する?」

紅髪に紅い瞳。血のように濃くて、染まる色は何もない。ただの紅。相反する蒼髪と蒼の瞳、純粋な蒼色が彼女の色に染りつつある蒼。

(私はどんな死に方するのかな?)

人は何色にも染まる様に出来ている。

光を求めるか、闇を求めるか。

光を支配するか、闇を支配するか。

血に染まるか、ただ未熟に生きるか。

『何が幸せなのかな?』

騙さないと、騙されるのに。

脅さないと脅されるのに。

殺さないと殺されるのに。

『生きても意味がないのに』

自ら命を削れば、痛覚が悲鳴をあげ、精神が壊れるようにできている。

『誰も幸せになるようにはなってない』

そう決まっている。誰かが幸せになれば、誰かが不幸になる。皆不幸になれば私が幸せになれるから。

『だから私が正しい』

『・・・かわいそう』

蒼い瞳が悲しい眼をしていた。冬人達は観察されていることに気づかなかった。


「さっさと行こうぜ。通信ができない」

「せやな。なにかと便利やからな」

通信って・・・スマホ?じゃないなわな!?あれどうやってやるんだ?

「そうや。チキュはないやろう?」

「ま、まぁ~」

「・・・おいおい まさか、そこに住んでいたのかよ」

トール曰く人が住む場所ではないらしい。水だけが困らない。ただ家もなにもない。

「そろそろ、ベラがシャワーを終わるで~行こうや」

トールはまだ仲間がいるのか?と少し困惑したが、ベラはプラムの名ではない。ならため口でも良いだろうと思った。

「つーか何でプラムと一緒なんだよ」

「成り行き上」

(どんな成り行きだよ)

「しかし寒いな~」

確かに吐く煙は白い。肌は冷えてくる。夕方から段々冷え込んできた。トールは両手で肘を掴み、身体中が震えている。それは冬人もたいして変わらない。

「また、後で紹介してくれねぇか?もう寒くて早く部屋に戻りてぇ」

「あぁわかった。 ベラは一応女の子だから」

「わかった。わかった。 またな」

「根性ないの~」

既に六度くらいまで下がっている。冬人は根性の問題だろうか?と疑問に思ったが、現にキミラは露出度が高い割には、寒さを微塵も感じていないようだった。

「じゃあ部屋に戻ろうか?」

「せやな ・・・ でもちょい付き合ってや」

頬を紅くするキミラが色っぽい。俺まで身体中が熱くなるのがわかった。


「・・・ ここですか!?」

「せや」

寒空の下に二人の男女が冷えた身体を冷やすために、ある建物、地球で言うホテルによく似ている。ピンクでかなり嫌らしく、生々しいデザイン。これこそがラブホ。そして男なら当然、卒業をしたいと何度も思う。『童貞』を。扉を開く。夢の旅たちへ。

(・・・まさかキミラと)


【酒場】

「ここめっちゃ上手い酒があるねん!」

おい。これを建てたの建築家は誰だ?ぶち殺す。何度も男の浪漫を裏切り、弄ぶ。その罪は重いぞ。

「ってフユト、なんで泣いとん?」

「ろ、ろまんが・・・ろまんが」

俺は悲しいんじゃない。悔しいんだ。【いつまでも、大切にしようね。男心 雨宮冬人作】絶対に俺は建築家を許さない!


「まぁえぇわ。はよ!はよ!」

「いま、いきまーす」

棒読みの冬人にたいして、興奮するキミラ。周りにむさ苦しい男共。代々の男がウエィトレス(美少女)にナンパ、セクハラをしている。又は、寝ている者もいる。

「ネェちゃん!ネェちゃん! 注文頼むわ~!」

「あ、はい!」

泡油麦酒くーりむばたーびーるを十個?十三個?どんだけ頼むだよ。


「・・・ お酒強いんですね」

「うん?三パーで酔うで」

・・・・三パー?

「これ何パーですか?」

「一つ五パーや」

え?えぇ?ダメじゃん。飲めないじゃん?何個頼んでのよ。仮に俺が十飲んだとしても、アンタ一杯で終わりやん。

「・・あの俺そんなに強くないかもですよ?」

「??ウチも飲むで?」

噛み合わない。ヤバい。どうしようこれは終わった?酔いつぶれるってもんじゃない。ぶっ壊れるわ!逃げよう。もう逃げよう。

「か、帰りましょう!」

「なんでや!」

「お待たせしました!」

・・・プロだ。はや過ぎる。

「頑張ろうや」

「頑張ります」

初めての酒じゃ!! 気合でなんとかしないとな。よいが、まわりはじめた。身体中が火照ってきた。熱い。


「・・・キミラさん」

「うぅんぅん なんや?」

「キミラ・・・テメェ酒飲んだのか?」

「・・・なんかキミラさんが二人に見えます」

「幻覚やろ~」

「テメェら!早くここから逃げろ!こいつ暴走する!!」

雄叫び声をあげる男。何か危険を慌てているのか全員分からなかった。『酔っているのか?』と笑い者もでる。

「なんや・・・冬人の声がおっさんの声に聞こえるわ~」

『汝は罪人。誰にも愛されない。孤独なり』

(・・・やめろや)

『彼もまた壊れき者』

(ちゃう!)

キミラは暴れだす、だが、一人の男が必死にとめる。プラムの回復魔法担当でも弱い訳がない。

「やめろ!店が!」

「逃げろ!死ぬ!」

「「ううぁ~~~~~~~~」」」

『汝を許されざる罪人。生きることに罪あり』

「キミラ!やめろ!バカ!」

「うるさい!」

キミラは男の声を聞いていない。頭の中の猛獣と戦っている。一人の冬人(少年)が叫ぶその声は。なぜかキミラには響いた。


「・・・・冬人や あれどうないしたん?」

建物は壊れ、ケガする者、客がキミラにおびえる。破壊の妖精

「たっく 今回はひでぇな」

その男は被害を最小限に止めた。

「ドラコやん」

銀髪、銀の瞳、長方形のウールを全身に巻いていた。龍族。全ての属性、火・風・土・水・木・闇・光を操る。伝説の龍族・ドラコ・アルファだ。

「久しぶり 街をなくすきか?」

「どうないしたん? この建物こんなに殺風景やったかな?」

「酒癖が悪いってもんじゃねぇだろう?」

キメラは不思議そう見るが、ドラコが呆れ、ため息をつく。

冬人と言えば、口を開け、呆気にとられる。

「でもなんでいるん?」

「うん?ダンジョンが全く見つからんから暇つぶしに酒でもと」

伝説のプラムが見つからないのなら、きっと誰も見つからないだろう。

「キミラ エリーを見なかったか?」


【エリー・サマント】

遠距離や超遠距離魔法を使える。この星のどこでも攻撃できる。感知能力、命中力、集中力は誰にも負けない。エリー・サマントは独りでダンジョンを探すと言い出した。現在行方が分からない。


「全然見ないで~」

プラムの会話に入れないのは当然だが、普通に話しているだけで絵になる。それは彼らがプラムだからだろう。

「じゃあウチ行くわ~」

「たまには通信ぐらいしろ」

オデコを小突くドラコ。

「痛い」

「じゃあエリーを探しに行くぞ」

ドラコはキメラの手を引っ張り始めた。

「・・・?」

キミラは何も考えず、ドラコについてゆく。

「行かないでくれませんか?」

冬人はプラム龍族のドラコの道を塞ぐ。周りは青ざめ、見守り、祈るだけだ。神であるプラムの逆鱗は街の壊滅に間違いはない。

「・・・・・」

何をしてるのか分からなかった。誰を止めているのかと。

「ドケ」

「イヤです」

神を侮っている?ドラコは憤りを感じたのか、身体中が震え上がる。

「・・・・」

キメラもそれは初めての事だった。確かにプラムに挑む者はいた。だが、彼みたいに膝が震えていたわけではない。

「お、おねがいでしゅ」

「・・・わーたよ」

ドラコは口元を隠し、キミラの腕を離した。

「よ、よかった」

(この男、気に入った)

そう憤りを感じている訳はない。笑っていたのだ。冬人(じぶん)より遥かに超えるドラコ(神)を相手にしようとしたのだから。

「・・・名前は?」

「冬人です」

変な名前だと思ったのか、眉をよせる。

(根性あるわ~)

キミラは冬人に感心し、優しそうな眼をしていた。


第八章 最強はつらい!?

生きているとはなんだろうか?


自信か。


娯楽か。


愛情か。


個人差はある。だが恐らく全部だろう。

自信がなければ、何ができるだろうか?

娯楽がなければ、ストレス発散はどこでするのだろうか?

愛情がなければ、人は生きていけるのだろうか?

ただ、生きるために、何もかも失って。ただ、自信よりも娯楽よりも私は愛ほしい。

「・・・・・」

世界最強と言われ、死体(てき)は多くなった。誰もかもが私に挑むばかり、そして情けをかけたら『殺してくれ』だ。こんな風になるなら、強くなりたくなかった。

「・・・助けてよ」

頭が壊れそうだ。誰も救ってくれないって知っているから。

「・・・いこう」

もう涙で死体が埋まっているかの様に濡れていた。

               

「そんでエリちゃんがどないんしたん?」

エリーを探すなんて珍しい。仲がよいかと言われれば最悪だとこたえる。最強の龍と最強のエルフどっちが本物かでよく争う二人だ。

「・・・まぁ えぇと」

歯切れの悪いドラコを見て、『またケンカでもしたんやろうか?』と思いながらも、探すほどまでしたのなら、街は大丈夫だろうか?と極度に寒気がする。

「はやくいくで!」

「おおい!」

「ち、ちょっとキミラさん!?」

(ハヤ!)

プラムが本気で走れば、誰もついていける者はいない。冬人は唖然としてそこを見た。

「俺の立場は?」

さみしく呟き、夜空を見上げる。

             

「?フユトなにしてるの?」

「・・・ベラ!?」

ど、ど、どどどどどどうしよう!キミラ様どこかへ行ってしまったよ。あぁなんて言おう

『キミラはいなくなった。お前の母親はもう駄目だ』

『・・・・』

この世の終わりのような眼。

(駄目だ。考えろ!オレ!)

「キミラさんは?」

「・・・えぇと。ほら・・・トイレ?」

「ふぅ~ん。妖精族ってトイレに行くんだけ?」

え?トイレ?誰が?何を言っているんだい冬人さんは。・・・おいおいもっとマシなごまかし方はなかったのかい?後悔しかなかった。

「なんか地震とかあったの?・・・私全然気が付かなかったけど」

「・・・まぁね」

どう説明しろと?逆に説明しない方がいいよね?『キミラさんがブチ壊しました』なんて言えない。俺の(・・)精神衛生上よろしくありません。

「・・・じゃあとりあえず、ねようか。もう遅いし」

結構飲んで、騒いでいたのか(キミラさんが暴れていたのか)もう夜中だ。周り人も溜息をつきながら飲みなおしするか、帰るのか、それぞれの目的に向かう。

「それでどっちや!?」

「アイツ気配マジでないからわからないんだよ!」

気配を消すのはエルフにとって専売特許だ。そのエルフを代表する。世界最強のエルフを探せる者はこの世にはいない。

「もう!エリちゃん!」

ただの人探しで二人は生まれて初めて苦戦をする。そして初めての苦戦も冬人とベラもするのだった。


「「・・・・」」

無言の時間。ただ時計の音と鼓動が酷く鳴る。同時にため息をし、今日は眠れないと思うばかり。二人は初めての夜を共にする。

(なんで頼んだ人が来ないのよ~)

(ヤバい。これはヤバい)

二人は背中を向け、頬を紅くする。そして

((なんでベッド一つしかないの・んだよ!))

二人の鼓動は早くなるばかり、少し触れるだけで過敏に反応してしまう。

「「・・・ねぇ・なぁ」」

「「ど・・どうぞ」」

おみあい。

「じゃあ私から」

「お、おう」

だがやはり少しばかり沈黙がある。気になった冬人は後を振り向く。

「なんだよ?」

「・・・お母さんのこと」

心配なのだろう。だけど、冬人には良くわからなかった。なぜなら母親の愛を知らない。いや家族の愛をしらない。親同士の不倫・昔からの暴力・貧困。愛ってなんだろうか?

(でも)

それは冬人の家庭。ベラの家庭は違う。愛されて育てられたらしい。その証拠に母を思うのだから。

(そうだよな)

それが普通なのだろう。

「大丈夫だ」

なにが大丈夫なのかわかない。無責任かもしれない。でも。

「俺がなんとかするから」

―――必ず。 少しだけベラの寝息が聞こえた気がした。


「・・・・ん」

なにかに触れている気がする。

「・・・ちょ!どこ、触ってるのよ!」

「ふゃあ?」

鈍い音が冬人の顔面に広がる。

「な、なにすんだ!」

「さいていさいていさいていさいていさいていさいていさいていさいてい!」

朱面(せきめん)し、身体がこわばってしまう。控えめにいってもっと大きかったら触ってもよかったのに。

「バカ!」

あらゆる物という物を投げつける。冬人は外に出るしかった。


「い、痛いなぁ もう」

ベラに殴られた鼻を押させ、空を見る。

「かわいいのに」

勿体ないと思うのは冬人だけだろうか?だとしたらベラの魅力に気づいているのは自分だけだと誇れるだろう。

「・・・」

溜息しかでない。ただ初めての恋だ。失敗はしたくない。

「どうすればいいだよ」

(エルフ族か)


「なんだ?騒がしいな」

「フユト!きょ、今日は許してあげるわよ!・・・ムードがあるときならいつでも相手してあげるわよ」

冬人は人が集まっているところが妙に気になる。ただ後ろの声の主には気が付かなかったらしい。


「キサマがエリー・サマントか?」

「・・・・なに?」

十人に囲まれている少女は首を傾げる。エルフの耳にゴールドの瞳に緑の髪・少し長め。そこら辺で売っている装備品とは訳が違う。エレメンタルホープという素材を使っているのか身長がやや低いのに威圧感が溢れだしている。そんな少女は幼い顔つきでとてもプラムとは思えない。

「あれが伝説のエルフか」

「ガキ過ぎないか?」

「いや・・・ないわー」

「でもあの装備は?」

「・・・・おいおい」

ベテランの冒険者の一言でみな表情が変わる。『レベル・・・三億オーバーかよ!』たったそれだけで、実力の差がわかる。

「テメラァー離れろ!死ぬぞ!」

「巻き込まれる気か!バカ野郎共!」

「おいおい!あの猛さ共の慌てぶりヤバくね」

「・・・。バカ。俺は先に逃げさせてもらう」

「おいおい待てよ!キル!」

散り散りと町から遠ざかる人々。それは冒険者じゃなくても危険だとわかるレベルだ。民間人すら見当たらない。だが思う奴もいる。『最強の戦いを見なくてもいいのか』と。最強と名乗るのなら。本物の戦いをこの眼で焼き付けたい。

「・・・あなた達は?にげないの?」

「あぁ」

「死ぬよ?」

「もういらない命だ。どうせなら最強の選手と戦ってみたい」

「こっちは十人だ! 行くぞ!」

「「「「おう!」」」」

「・・・あっそ」

激怒。そんな言葉がある。ただ、なにを触れたてはいけないものを、触れたのかわからないが、怒らせてはならない最強(人物)を怒らせてしまったらしい。だが、エリーの怒りは恐ろしいというよりも。

「すごい綺麗」

醜さが美しい。一人の女の子がただ立っているだけ(・・・・・・・・・・・・・・・・)なのに思わず声に出してしまう。美貌のエルフ。勝てる気がしない。ただ立っている人を倒すのにこんなにも汗がでるものだろうか?どこを狙えば良いのかわからない。自分の隙を見せたら一瞬で終わる。ならもう終わっている可能性の方が高い。

「・・・ばいばい」

美貌のエルフにも予知できないものがある。どんなに集中力があろうと。どんなに命中力、いわば洞察力、動体視力があろうと。あらゆると敵を倒してき者が初めて驚愕する瞬間。それは。

「・・・やめてください」

「・・・」

眼の前に少年が敵を庇うことだ。限界ギリギリの魔力で彼女は止めるのに力をいれる。最初から止める気だったもの。寸止めという奴は楽だ。だがやる気だったものを止めるのは至難のわざだ。

(・・・お願いとまって!)

「「・・・」」

((やっとみつけた))


第九章 彼らの戦!?

「はぁはぁはぁ」

エリーの呼吸がなかなか整わない。ここまで必死に止めたのは生まれて初めてだ。

「なんなの・・・君は?」

「・・・冬人です。ごめんなさい。勝手に止めてしまって」

「・・・・」

『ただ、あなたがツラそうだったから』

心の声を聴く能力はエルフの中でも使える者は少ない。冬人の声を聴いて驚くエリー。ただ、そんな風に思ってくれている人はいない。

「・・・・そう、ありがと」

「エリちゃんや!」

「はぁ。一ヶ月も探したぞ!テメェ!」

「・・・キミラ・・・カス?なに?」

キミラとドラコは疲れを見せていた。三人揃った。三神層(さんしんそう)、伝説でもあり、神でもある。彼らの恩恵である。

破壊の妖精。

美貌のエルフ。

悲痛の白龍。

ただ、これは運がいいのではない。最悪だ。彼らの気に障るようなことがあれば、街は終わりだ。

「・・・またガキがいるぞ」

「アイツ知ってるか?お前」

「いや~なにも」

冬人に悪意(きょうみ)を持ったのか、たいていの人が冬人を監視する。

「・・・ばしょ・・・かえよ」

「???なんでや」

「ガキも来い」

「えっ?俺ですか?」

異質を感じ、エリーとドラコは別の場所を提案した。冬人は戸惑う。確かにキミラが戻ってくれたのは嬉しい。だが、プラムの威圧感のそばにはいたくはない。

「・・・きて」

「は、はい」

だからといって断れる勇気がある訳がない。

「ベラちゃんは?どないんしたん?」

「ベラなら部屋だと思う」

「呼んだ?」

冬人は驚く。いやプラムさえ驚いていた。魔力の限界だ。

「・・・これはヤバいな」

「・・・やすまないと」

「・・・せやな」

溜息がでるって物じゃあない。プラムは心底不安でしかない。

「「「「「いまだ!」」」」」

なぜなら襲われたら。

「「「・・・・」」」

手加減が出来ないからだ。一瞬の出来事だ。全て体術。滑らかに、静かに、確実に急所を狙い、敵を倒す。

「バカだな。コイツら」

「うちらの魔術は二の次や」

「・・・最強と名乗るなら、体術・・が基本」

断言した。プラムの強大な魔力より、己自身(プラム)の方が凶器だと。敵じゃなくって心底良かったと思う、冬人とベラだった。

「・・・・ゆこう」

この世には基本というものがある。立ち方、持ち方、殴り方、蹴り方。それらの基本は戦闘に有利にさせる能力がある。それは歩き方も。

「綺麗」

「おいおい」

エリーは背筋を伸ばし、顎を引いている。内また、腰はまるで、自ら自由に前に進みたい。そんな思いをさせる。はっきり言って、『モデル』。彼女にはピッタシだと思う。これが歩く芸術だろうか。ただ歩いているだけなのに眼が奪われる。

((こいつと一緒に歩きたくない))

そう思うものも事実。比べられるというよりも、恥ずかしいのが大きい。

((これは慣れだな・慣れや))

戦闘狂のドラコとキミラもここまではしたくない(・・・・・・・・・・)。エリーは可能なかぎり強くなりたいからここまで出来る。


『・・・退屈』

紅い少女が欠伸をする。

『なにが?』

髪を弄る蒼い少女は『いつものことでしょ?』と軽く紅い少女に尋ねる。

『ねぇ世界を変えても良い?』

『どんな風に?』

もし、世界の答え、未来の答えがわかればどんなに楽だっただろうと考えたことはないだろうか?

ルールもある。その通りにすれば良い。自分を失うこともない。

世界は『答え』で決まっている。答えが眼の前にでる。それを反してはならない。それだけだ。例えば、彼の『答え』は弁護士になること。あと、一時間でノルマを達成しなさい。これが『答え』だ。絶対回答。万が一達成しなかったら、社会のゴミ。死に値する。人間扱いをされない。これが世界の掟。

『そんな世界に変えるわ』

『人類を滅ぼすき?』

蒼い少女は目を開かせる。・・・もしそんなことをしたら、脆く腐りおちる。

『じゃあね。私の冬人』


異変が起きる。それは『答え』だけの世界、神の娯楽によって、種族達の脳が改善されていく。その光景は地獄そのものだった。

『世界の汚染物よ』

―――――――――汚染物の生き方を教えよう。

一つ、一般人と一緒に行動しないこと。

二つ、お金を使わないこと。

三つ、人に迷惑をかけないこと。

四つ、無様な姿を神に見せなさい。

この生き方を背いた、汚染物は来世として、また生きられる権利をあたよう。

「つまり汚染物は死ねってか!?」

ドラコは激怒するがムリもない。エリーやベラ、冬人ならまだしも破壊のエルフ・キミラまでもが怒りを隠せないのだから。

「ふざけるのも大概にしぃ」

「僕がふざけてるようにみえる?」

その言葉の引き金にプラムの魔力が増量する。激しく乱れた魔力で、空が妖しく輝く・・・ただ少女を殺したい。ただ純粋に殺したい。

「あらら、周りの人に迷惑かけてもいいのかな?」

少女の言葉にプラムは抑えようとするが、そんなことどうでも良くなる。ドラコが最初に少女に襲いかかる。

「ドラコさん!」

冬人は声を高くあげ、やめてくれと叫ぶ。少女の思うツボだと。だが、冬人ごときに止められるわけがない。

「ドラコ!やめい!」

「・・・キミラ。だけどよ」

ドラコはキミラの目線を見るが、ここまで怒りを露わにしたのは、一番、付き合いがあるドラコでさえ初めて見るものだったらしい。ドラコ・・・いやエリーも目を開かせる。

「・・・嬢ちゃん?名前を聞いてもえぇか?」

「僕は神さまだよ。」

二人の微笑みが、ただ恐怖でしかなかった。

『では世界の改善だ』

少女は膨大な魔力で世界を包む。

「・・・やめろ~~~~~~!」

「・・・頭が壊れる」

次々と、街の人は倒れる。

「な・・に?」

「そうやな。尋常ではないことは確かやな」

「おいおい。血じゃねぇか」

ドラコの眼から血が溢れだす。もうプラムには痛覚の感覚すらない。だがベラには。

「・・・ごめんなさい。ごめんなさい」

「おい!ベラ!ベラ!」

ベラの眼から血文字が現れる。『ベラ、リンゴを食べなさい』これが、『答え』。つまり、リンゴを食べなかったら汚染物になる。

「リンゴある?」

「り、リンゴ?」

ベラは何を言っているのだろうと冬人は頭が痛くなる。目が尋常ではない。

「早く!早く!リンゴ頂戴!」

「わ、わかった!」

冬人はリンゴを探す。だが、冬人の眼に『元の世界に戻れ』と血文字が現れる。考えもしなかった。なぜ、地球にもう戻ることはないと勝手に決めつけていたのだ。世界が歪む。そして知らない少女の声が妙に懐かしかった。


「・・・・ ! なんでここに俺はいるんだよ」

ついこないだまで使っていた部屋。冬人は慌ててカーテンを開けようとするが、見るのに勇気がいる。でも、確かめなければならい。恐る恐る、冬とは

「・・・地球だ」

最悪の精神状態で冬人は元の世界に戻った。そして世界は変わっていた。


「・・・」

「あぁん?雨宮じゃん」

「・・・おおおう。レアじゃん!?学校来てんじゃん!?」

「今更来ても遅くね?」

高校。俺の高校だ。

「・・・どうも」

なんで冬人が高校に行ったのかそれは。目の前に血文字で『学校へ行きなさい』と書かれていたからだ。地球も『答え』によって作られた世界と人類の脳はそう改善されていた。


「では進路を言いなさい」

授業中に突然、先生が生徒に言う。流れが不自然だが、気にもしない。おそらく、先生の眼には映ったのは『生徒に進路を聞きなさい』だろう。

「私は弁護士」

「次」

「俺はプロ野球選手」

「次」

「私はホームレス」

「次」

「俺は小説家になる」

冬人は強制的に小説家にならいといけない。文才はない。だけど売れる作家にならないと世界の汚染物となる。

「てか、理恵。なんであんたがホームレスよ」

「・・・それ聞く?」

「あれだよね。何度も思ったけど。生まれとか才能とかマジで関係ないよね。」

「無意味でしょ?才能なんて。」

池田理恵。名家に生まれ、天才バイオリニストの才能がある。この世界には関係のない話だ。

「・・・リンゴない?」

「私の弁当にあるから食べな」

冬人は途端に走馬燈みたいなものを体験する。

『もう!気を付けてよ!』

『プラム?知らないの?どんだけ田舎なのよ!?』

『死ねぇぇ!!!!!』

『・・・・ごめん』

『じゃあね!』

『リンゴある?』

・・・ベラ。ベラ!ベラ!ベラ!ベラ。ベラ!!

「・・・」

―――俺は異世界を知っているのか。

『異世界には行くな』

冬人の眼には映ったのはその文字だ。世界のルールだから。冬人は守るしかない。ただ生きる為に。


『ミュージックを聴きなさい』

はいはい。聴けば良いんだろう?聴くよ。

「何を?」

『海木次男』

誰だよ。冬人はその曲は好きになれない。いや俺は音楽が嫌いかもしれない。落ち着かないから。

『鏡をみるな』

「・・・」

なんのトラップだよ。思わず見るところだったろうが!

『フユト!鏡をみて!』

『ベラちゃん。まだかいなぁ』

『・・・流石にき・つい』

『ここまで魔力を使うのは初めてだ』

何だ?この声は?俺は知っている。誰だ?

「フユト!鏡をみて!」

「鏡をみる?」

そんなことをすれば、世界の汚物化とする。なぜそんなことをしないといけない。鏡をみたら後悔をするに決まっている。だから俺は答えのいうこと聞いた。これが正解だから。


間違いをするというのは=汚染物ということだ。間違ってはいけない。ただそんな世界が生まれた。


「フユト、私達は間違えたよ?」

「・・・」

冬人は振り向く。幻聴だろうか。

『ベラを忘れなさい』

はいはい

・・・・なぁ。ベラ。俺はこんな世界が嫌いだ。

「・・・ねぇ。フユト。・・・私のことそんなに嫌い?」


「・・・よう冬人」

「・・・理恵、まさかなぁ」

数週間前。

『『二人は付き合いなさい』』

「「・・・俺・私がコイツと!?」」

理恵ホームレスと冬人(小説家)は付き合うことになった。

「俺がもしこの世に選択肢・選ぶことができるのなら間違いなくお前を選ぶことはないのに」

「アンタ・・・結構失礼な人間だよね」

美人だと思うけど、なんでガキの頃から知っている人間と付き合わなければならない。はっきり言おう。吐き気がするコイツは冬人の恥ずかしい暗黒期を一番知っているのだから。

「ねぇ冬人・・・エッチなことしよう?」

「・・・」

冬人は理恵の眼を見る。俺はもうなにも言えない。はぁ答え出てくれないかな。コイツと別れろと。・・・ベラと付き合いなさいと。

「・・・冗談」

「なら、良かった」

冬人は立ち上がった。理恵はどこに行くのか冬人に聞いた。『便所』と答え冬人は用を足しに行く。

「・・・」

理恵は天井を見る。

―――私はこの世界がすき。もし『答え』がなかったらアイツは私を絶対に私を選ばないから。・・・でもなんで胸が苦しいの?好きな人と一緒に過ごせるのに、なんで彼のことを考える度に私は彼が嫌になる。ただ―――私をみて。


「ベラ・・・まだおるんか」

「・・・ごめん」

ただベラは鏡から離れない。冬人が来るかも知れないから。

「おか・あさんは?どうするの?」

「・・・まぁ死んではないだろう?エルフだろ?」

ヒューマンごときに負けるエルフなどドラコは知らない。

「・・・お母さんは私と違って落ちこぼれじゃないからダイジョウブ」

「・・・まぁおかんは強い、いうぐらいやから、平気ちゃうん?なぁエリちゃん」

「・・・わたし、お・かんになったことない。カスは?」

「・・・俺は男だ!クズ」

火花が散り、そしてさっさと来いと思うプラムとベラ。もし冬人が来たら軽く殺そうかなと思うのも事実。俺らは間違えたのだから、お前も間違えろよ。


「・・・・冬人?なんで?そんな顔をしてるの?」

「・・・」

彼女、池田理恵と一緒に登校して、どのくらいたつだろう。冬人はそんな風に思っていた。『俺はどんな顔してる?』と理恵に聞く。ただ、どうでも良いかのように。

「世界が壊れればいいのに」

「・・・そうだね」

そう思っているのは確かだ。壊れればいい。神の娯楽に創られたこの世界なぞ壊れればいい。人の心を弄び、なにかも『答え』で縛りつける。自由なぞなくし、ただ・・・ただ、好きな人に好きとも言えずに。

「・・・」

「・・・冬人泣いてるの?」

もういっそなにもかも壊したい。

「・・・もう答えをムシしたら良いよ」

―――そんなに苦しいなら

「・・・良いのかな?」

汚染物になれと言っている訳じゃない。ただ『自由になれば?』と言ってるように冬人にはそう聞こえた。

「自分らしく生きなさい!」

「はい!」

―――冬人は自分の部屋に戻る。ただ鏡をみるために。


「バカ。バカ!」

理恵は叫ぶ。また私をみなかった。最後まで。

「・・・バカ」


「ベラ!ベラ!」

(なんで俺はこんなにアイツのことが好きなんだろうな)

理由があれば、少しは楽だったのかもしれない。ただアイツをみた、とき思った。可愛いと。綺麗な人だと。目が離せなかった。離したくなかった。これを多分、恋という奴だろうか?ただ、ベラが好きだ。何度でも言うよ?

「俺はお前がいないとダメだ」

傍に・・・俺の傍にいてください。ただ、冬人は走った。


世界とはなんだろうか?

醜くい。人は争い。誰も助けようとしない。唯我独尊。自意識過剰相手を見下さないと、自分を保てない。相手をどう(けな)すかで自分を誇れる。そして金。それだけで、人間の価値を天秤にかける。それがこの世界だと思う。・・・でも。自由ならまだ生きやすい。『答え』がない世界ならまだ、価値がある。

―――そんな世界を知ってた気がするから。こんな世界にしやがって。『答え』しかない世界にしやがって。俺は神を一発殴らないと気が済まない。

「・・・」

鏡は目の前にある。当たり前だけど、どこにでもあるから、サウンドミラー・コンビニのトイレの鏡・スマホのアプリ。冬人は自分の部屋にある長方形の鏡をどうしても見たい。ベラがみろと言ったのはこの鏡だろうから。・・・ただ、鏡を見るだけでこんなにも怖い日が来るとは思わなかった。・・・眼がどうしても開けられない。

「・・・・うっっくっく」

け・・・開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け・・・眼開けよ!バカ!

『鏡をみるな』

「うるせぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

鏡に映るものは暗闇に蒼い文字で『神を殺しますか?』と書かれていた。初めて選択肢をくれた『答え』だ。

「うん。俺は神を殺すよ。」

―――だから行かせろ。異世界へ。


『お父さま。人の価値は誰が決めるの?』

『ベラ?どうした?』

昔、『お前には価値がない』って男の子に言われた。ずっと覚えている。お父さんの言葉がずっと心に染みついている。

『・・・価値か。価値のある種族を私はしらない。だからベラ、自分の価値は自分で決めなさい―――きっとそれが本物(プラ)の(イ)価値()、生きる誇りだから』


「ベラ?」

お父さま?いや違う。もう来てくれないと思っていた彼の声・姿・温もり。『答え』を破ることは自殺に等しいんだと思う。その世界でもう生きられなくなるんだから。

「・・・フユト・・・遅いよ」

「・・・ごめん。なんだよ、これ」

それは、灰と腐った糞尿の臭いが鼻につく。それよりも、驚いたのが、人がまるで、感情がないかのように、機械のように動いている。更に一人も生傷を負ってないことに冬人は眼を丸くする。キミラの回復魔法の凄さは驚くばかりである。

「・・・あいつ ころ・したい」

「当たり前だ。今度、会ったら絶対に殺す」

「・・・」

冬人は周りを見るが、神さまの姿が見あたらない。逃げたのだろうか。周りにはもう喋る者はいない。無音の空気。無音の静粛。ただ無力。初めての敗北。そんな空気を破ったのは冬人だ。正確に、空気をブチ壊すために。

「ダッセェ」

「・・・フユト!?あんたなにを!?」

そうちゃんとプラムに聞こえるように、ケンカを売る。

「あぁん?」

「・・・ちょう、うざいで」

「・・・・や・る?」

ドラコ、キミラ、エリーは殺気を醸し出す。冬人は足が震え始めた。すみませんでした! 心の底から謝罪をする。だが、耐える力は伊達ではない。確かに対人恐怖症だ。人の目線が怖い。だけど、何年ひきこもりやっていると思ってんだ!気にしないスキルは誰にも負けねぇんだよ。

「何もいなかった奴がよくぬけぬけと!」

「・・・だったら! これから殺しにいけばいいだけだろ?」

―――なにしけた面してんだよ?

「「・・・・・・」

「・・・・ぼ・ー」

「・・・・・ふん」

たったその言葉で、戦闘狂の者は震えあがる。絶対的に勝てない相手。だかこそ面白い。プラムの一人、エリーの様子がおかしい。エリーの頬が紅く、唇を締めていた。

―――彼は強くない。だけど彼には敵わない。

―――彼は臆病。だけど、彼は勇者。

―――彼から眼が離れなくなった。わたしはこの感情をしらない。

「ねぇ。ふ・ゆと」

「なんですか?」

―――わたしは、あなたのこと、しろうと思う。・・・だから。

「きょか。ちょうだい」

「えっ?あ、はい・・・??」

 太陽の光が彼らを照らし、寂しく、儚い風が彼らを包む。

プラムのドラコ。

キミラ。

エリー。

そしてベラ。彼らは冬人に出会い、変わった。なぜなら、キミラは、ここの人々に回復魔法を自らの意思で使ったのだ。今までは噂を気にして、出来るならやらなかった。

 ドラコは自分より弱い人間、ヒューマンを認めたのは初めてのことだ。それは気まぐれではないと確信した眼をしている。

 エリーはなにより、種族達をあまり好まなかった。なぜなら、自分しか見ようとしない輩ばかりだから。だが、冬人は違う。彼は死ぬ気で人を守った。エリーはあまり表情が変わらない。だが、いまは満面の笑みだ。

 そしてベラは、臆病で、エルフの落ちこぼれ、そんなコップレックスを抱いていたが、冬人を見る度に自分も強くなれると思える。そんな、不思議な力をくれる。

 ・・・・もしかしたら何より変わったのは冬人自身だろう。生きているのか、死んでいるのかわからない。そんな時があった。頭の中はなにも考えられない。生きている実感がない。冬人は誰にも愛されないと思っていた。だが、彼はいま、生きていると実感する。憧れの異世界に来たからか。仲間と出会えたからか。だが、そんなことはどうでもいい。いま、生きていると冬人は胸を張って言えるのだから。

―――さぁ これから、ベラの母親を助けるために、神を殺すために、旅に出よう!

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