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昔話
暫く二人は身体をぴったりと寄せ、女は男の背中をまるで子供をあやす母親のように優しく、とんとん、と叩いていた。
優しい声で女は自分の身の上話をした。
「実は私、結構いい家の娘でしたのよ。でもね、ある日お父上様よりお年の召された方との結婚を決められてしまいましてね、私それが嫌で嫌で毎晩枕を濡らしておりましたの。それで、夫婦生活の一番初めの日、家を飛び出しましたの。」
優しくひっそりとした声に眠気を感じながらも、男はじっと耳を傾けた。
「5日ほど経った日、神社で隠れていたのが見つかって家に連れ戻され、沢山殴られて、不良娘はうちには要らない!と追い出されてしまいまして、実家にも見放されて行き着いた先がここでしたの。」
昔話をするように話す女を男はじっと見つめ、手を握った。
「ごめんなさい、余計な話をしてしまいました。貴方様を見ていたらつい、初めてここに来た日のことを思い出してしまいましたの。」
色素の薄い瞳で男を見つめ謝る女に、男は言った。
「僕と一緒に逃げませんか」