女
「雪と申します」
女は優美に頭を下げた。
男は女の動き一つ一つに見惚れていたがハッと我に返り、自らも軽く挨拶した。
が、遊郭も女との経験も初めての男にはこの後何をすれば良いのか全く見当もつかず、しばらく硬直していた。
「あの…」と困ったような顔をして女が男を見た。
男の様子を見て何かを察し、にこりと微笑み「お側にいってもよろしいでしょうか?」と尋ねた。
男は少々困惑したがすぐ了承し、女は軽やかに男の側に寄り添った。
「今まで女性と親しくされたことがないのですか?」
と、嫌味のない調子で女が尋ねた。
「無い。全く無い。僕は今まで生きてきた中で女と親しくなるどころか興味を持ったことすら無い。」
男はゆっくりと答えた。
女は「それは損な人生を歩まれてきたのですね」
と、悪戯げに笑った。
男は何も答えなかったが、「そうかもしれない」と心の中でひっそりと思った。
男が異性に興味を示さなかったのには様々な理由があるが、青春時代は勉学に励み、良い職に就けたのはいいが仕事上意地汚い女ばかりを見てきたことが1番大きいだろう。
だが、初めて女の甘い香り、優美な動き、柔らかさに触れたことで男の中の女に対しての概念が変わりつつあった。