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ルナ姫とシェネル 前編

 あるニュースが、ユニベル中を轟かせた。

 それは、シェネルとルナ姫の結婚だ。

 カリナーンとリューベルクという二つの大国の王と姫が結ばれた事で、ユニベル中―――特にこの二つの国が祝賀ムード一色に染まった。

 この知らせは、辺境の地ヴィッツジェラルドの集落にまで届いていた。


「へーっ!

 シェネルとルナ姫、結婚したのか!」


 レンジは、普段手に取ることのない新聞に目を通す。

 そこには、シェネルとルナ姫という美男美女が一面を飾っていた。


「何だよてめぇ、知らなかったのか?」


 ヤグティンのぶっきらぼうな態度は相変わらずだ。

 カウンターに頬杖をついている彼を、隣にいたロマノフ軽く小突く。


「久しぶりに来た客人に何て口の利き方だ!

 それじゃあ当分宿は任せられんな。」


「何でぇ親父。

 まだまだそんな気はねぇだろうよ。

 さっさと引退しやがれ!」


 親子の言い合いを尻目に、レンジは新聞を元の位置に戻した。

 ふとハープの方に目をやると、彼女はにっこりと微笑んだ。


「ねぇ、久しぶりに行ってみようよ!」


「あぁ。

 俺もそう思ってたトコだ。」


 ハープはレンジの腕にそっと手を添えて、瞬間移動魔法テレポートを唱えようとする。

 レンジはこの瞬間、即ちハープに触れられる瞬間に、未だ慣れないでいる。

 彼が軽く狼狽したことに気付かないまま、ハープは瞬間移動魔法テレポートを唱えてカリナーンを目指した。


 王都カリナーンは、大いに賑わっていた。

 シアード達と以前来た時に比べて、城下町全体が明るい。

 祝賀ムードだからというのもあるが、街の人々の笑顔が心の底から笑っているという事がレンジ達にも分かる。

 あれからシェネルは、国民に慕われ、愛される王としてカリナーンを統治している。

 リアンの商人がこぞって商売をしている。

 彼らが売る物には花や果実が多く見られ、まさに「大地と花の国」という言葉が相応しい。

 それだけではなく、城からは休む間もなく花火が上がっている。

 花火の音に、花を抱えた婦人が独り言を呟いた。


「やれやれ、王様も好きだねぇ。

 式を挙げて、あれから一週間も経つというのにさ。」


 空を見上げてぶつくさ言っているものの、優しい眼差しで城を眺めていた。

 婦人がその場を立ち去ると、レンジは唇を尖がらせた。


「レンジ、どうしたの?」


 彼が少々いじけているという事に、いつも一緒にいるハープはすぐさま気付いた。


「俺達、式に呼ばれてねぇよな。

 ちょっとシェネルに文句を言ってやらねぇと。」


 相変わらず子供っぽいレンジの背中を、ハープはおろおろしつつも追いかけていく。

 レンジは城内に入ると、何処にも寄ることなく王の間を目指した。


「シェネル!」


「あぁ、レンジ!

 来てくれたんだ、久しぶりだね!」


「久しぶり、じゃねぇよ。

 何でもっと早く教えてくれなかったんだよっ!

 それに俺達、結婚式に呼ばれて、ねぇ……。」


 レンジの口調が段階を踏んで大人しくなっていく。

 何故ならシェネルの隣には、ルナ姫がいたからだ。

 一目散にシェネルの真ん前を目指していたため、ルナ姫は視界に入らなかったのだ。

 幼さが抜け、より一層美しくなったルナ姫に、レンジは軽く頭を下げる。

 相変わらずのレンジの様子に、彼女はくすくすと笑う。


「レンジ様、お久しぶりです。

 私、シェネル様の妻となりましたの。」


「そ、そっか。」


 レンジはどう言っていいのかが分からなかった。

 ルナ姫が、シアードに好意を寄せていた事を知っているからだ。

 だからこそ、シェネルと結ばれたという事に戸惑いを隠せなかった。

 シェネルの隣で幸せそうに微笑むルナ姫が、不思議で仕方ない。

 それを察したのか、シェネルが柔らかく崩した笑顔でレンジを見つめている。

 腹違いとはいえ、さすが兄弟だ。

 その笑みはシアードによく似ていた。


「勿論、妻が兄上を想っていた事は知っているよ。」


「それなのにどうして?

 どうして結婚したの?」


「ハープ!」


 レンジは思わずハープに声を上げた。

 空気の読めない質問をするのは、いつもなら決まってレンジだというのに。

 だが、彼女の大きな瞳は真っ直ぐに二人を見据えていた。

 当のシェネルとルナ姫は視線を合わせると、その視線を今度はハープに向けた。

 そして、優しく微笑んで見せた。


「シアード様にお断りされてから、私は心が張り裂けそうでした。

 ……しかし、あの方の心が、決して私に振り向くことがないという事も分かっておりました。

 それでも、私は諦めきれなかった。

 私が想いを告げる前に断って下さった。

 それがシアード様なりの、優しさだったのかもしれませんね。

 だからこそ……。」


 ルナ姫は、愛おしそうな表情をシェネルに向けた。


「あなたに胸を張って、好きだと言えるのでしょうね。」


 いきなり目の前で惚気られた事で、ハープは頬を桃色に染めて口元を両手で隠した。

 何も彼女だけではない。

 ルナ姫の夫である、シェネルも顔が真っ赤になっていた。

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