僕のカミサマ
僕には、カミサマがいた。
暗く長く続く道を
ただ宛てもなく彷徨う
すれ違う人の顔は
何故だか全て同じに見えた
人は大切なものを失うと
世界がモノクロに見えるという
だけど僕の場合は違った
そこには灰色も白も無い
僕の世界は暗闇だった
僕が幼い頃から
母さんが繰り返していた言葉
「神様が幸せにしてくれる」
ねぇ母さん
じゃあなんで母さんは
僕を残して逝ってしまったの?
僕の事は何でも母さんが決めた。
神様の言う通りにした。
全ては幸せになるため。
僕にとっては母さんが神様だった。
だから辛くても笑った
大丈夫だって笑った
そうすれば母さんが
笑ってくれたから。
気がつけば全てが母さんの為だった。
だから母さんが死んだあの日
僕の生きる道もぷつりと途絶えた。
母さんが信じた神様は
母さんを簡単に裏切った
僕が信じた神様も
僕を簡単に捨て去った
残された僕は
暗闇の中途方に暮れていた
骨だけになった神様を
何の実感も無く壷に入れて抱いた
壷は驚くほど軽かった
納骨を済ませて線香をあげている間
僕は真っ黒に染まったこの世界で
最後に1つ、呟いてみた
「さよなら、カミサマ」
カミサマはもう何も言わなかった。