<最後の力>
<最後の力>
床に転がっている鏡面がなくなった鏡を手に取った。
「これじゃ、役に立たないよな、こんなので簡単に割れちまうなんてな」
ポケットからキーホルダーを取り出し彼女に見せた。
「これって・・・美術の授業で作った」
「そう、これさ、エミリーと一緒に作ったやつだよな、それと、趣味の悪い時計もあってよ、それで、確信したんだ、夢じゃなかったと、それにしてもよ、彩矢が悪趣味で良かったぜ」
「時計はどうしたの?」
「ああ、タクシーの運転手に帰りの金が無かったから、あげちまったよ、あっ、あの運転手、ビビってんだろうな、俺が灯台から消えちゃったからな」
「ふふふっ、そうなんだ、誰も信じてくれないだろうけどね」
頬笑んだ彼女はキーホルダーを見ながら何かを考えている様子だった。
「何か、良いアイディア浮かんだか」
「あのさ、それで、鏡が割れたんだよね・・・ってことは、この鏡も割れるのかな」
「割れるんじゃねーの、それ、割ると化け物みたいのが出てくるのか」
「出てくるってよりは、闇に引き込まれちゃう」
「引き込まれたらどうなるんだ」
「分かんないけど、一緒にはなれないと思う、離ればなれになるのはお互いにとって悪夢、嫌なことでしょ、ラスプーチンはそれをエネルギーにして膨張するから」
「畜生、人の不幸を糧にするなんて、最悪な野郎だな、そんな野郎に負けたくねーな、俺が一番嫌いなタイプな野郎だ」
「うん、私も、絶対に負けたくない」
「よっしゃ、この暗黒野郎にエミリーのパワーを見せてやれ」
「うん、なんか、やれる気がしてきた、パワー全開!」
「いくぜっ!」
キーホルダーのロケットを振り下ろそうとすると、慌てて彼女が動きを制止した。
「ちょ、ちょっと、待ってよ」
「なんだ、パワー全開だろ」
「違うよ、そう、言っただけ、もし、あの時みたいに出なかったらどうしようと思ったの」
「大丈夫だよ、エミリーならやれるさ」
「だけど、もし、離ればなれになちゃったら」
「ならないよ、俺が絶対にエミリーを離さない、こんな暗黒野郎にエミリーを取られてたまるかよ」
「いつから、暗黒野郎になったの・・・ラスプーチンの卵なんだけど」
「この際、何でもいいだろ、どうせ、俺たちには勝てないんだからよ」
「うん、そうだよね、凄くパワーが溜まってる感じ、こんな感覚は初めてだよ」
「その調子だぜ、いくぜっ!」
「パワー全開っ!」
俺は勢いよく鏡にキーホルダーを突き刺した、その瞬間、もの凄い勢いで目の前が真っ暗になったかと思うと、今度は頭の中までが闇黒に染まっていった、様々な憎悪や嫌悪が頭の中で渦巻き目を塞ぎたいような情景がフラッシュバックのように次々と浮かび上がっていく。
「エミリー、これは何なんだよ、頭がブチ切れそうだ、早くしてくれ、パワー、パワーを早く出せっ!」
「もう、出しているよ、負の力が強すぎて、パワーが効かないよ、もう、ダメだよ、無理だよ!」
強大な勢力に怯えているような彼女の声に俺は不安を抱きながらも孤軍奮闘している彼女を鼓舞するしか出来ることがなかった。
「エミリー、こんな暗黒野郎にやられて良いのかよっ!」
「嫌だよ、でも、パワーが闇にどんどん吸い込まれちゃうの!」
「エミリー、弱気になるんじゃねー、俺はこんな奴に負けねーっ!」
「えぃっ!パワー全開っ!遠くまで光りが届けばなんとかなりそうだけど、何か良い方法ない!」
俺は鏡面がなくなった鏡を手にした、何でもいいから俺なりに抵抗がしたかった。
「エミリー、この鏡にパワーを当てろ、俺が暗黒野郎に投げつけてやる!」
「分かった、やってみる、私と手を繋いで!」
手探りで彼女の手を握りしめると、鏡面がないのに鏡が光り始めた。
「やったぁー!成功っ!」
「なんじゃ、こりゃ、スゲーな、よっしゃ、暗黒野郎、これでも食らえっ!」
暗黒の中に一筋の光の線が走った。
「どうだっ!」
「これならいけるかもっ!お願い、届いてーっ!」
彼女のパワーで光の道筋が広がっていくと、頭に渦巻いていた暗黒の闇も消えていった。
「エミリー、やったぜっ!・・・・エ、エミリー・・・なんだよ・・・どうした」
しっかり繋いでいた彼女の手が力無く離れていく、どんどん、彼女の存在が薄くなっていくような感覚に恐怖に似た不安が込み上げてきた。
「やっぱり、ダメだったみたい・・・もう、パワーが出ない・・・」
「ダメじゃねーよ、どうしたんだよ」
「私が移動する分までは広がらなかったみたい・・・さよなら・・・」
「ば、ばか、言うなよ、一緒に戻るんだろ」
最期の力を出し切り俺は必死に彼女を探した。
「エミリーっ!」