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<仮想空間へ>

<仮想空間へ>


北海道へ行ってから数日が経過したが、彼女がラスプーチンの卵を破壊しようする様子もなく、放課後は彼女が気に入っている駅前のハンバーガーショップでごく普通の会話で楽しんだりと平穏な日々だった、ラスプーチンの卵は彼女が作り上げた想像上のもので存在していなければ俺はそれで良かったが、いくつか遭遇した不思議な現象について説明がつかなくなる。


いつもの裏庭でベンチに座わり彼女のお弁当を広げた。


「そういえばさぁ、あの、ラス何とかの卵ってどうなったんだろうな」

「う、うん、ラスプーチンの卵ね、早く見つけないとね」

「そうだな、でも、ないなら、ないで、俺は全然構わないけどな」

「うん、なくなっているなら良いよね」

「ああ、俺はその方が良いと思ってるよ」


俺はおにぎりを頬張った、葉唐辛子の辛みが白米のうまさを引き立てている。


「いつ食っても、エミリーのおにぎりはうめーな」

「ありがとう、ねぇ、今日の放課後、久しぶりにお堂に行ってみない?」

「ああ、良いけど、何をしに行くんだ」

「まだ、あるのかなと思って」

「無くなってたらどうなんだ」

「お堂がなくなっていれば、ラスプーチンの卵も一緒に消えてるはず」


放課後、教室を出ようとした時、あの女が待ち伏せしていたかのように現れた。


「ねぇ~だぁ~りん」

「なんだよ、気持ち悪いな、それに、その呼び方、止めろって言っただろ」

「どうしてよ?」

「俺が嫌だからだよ」

「ふんっ、最近、なんか私に冷たくない?」

「変わらないと思うけど、それで何か用か?」

「たまにはさぁ~買い物付き合ってよぉ~ダーリンの服も買ってあげるからぁ~」

「だから、その、ダーリンって呼ぶの止めろって言っただろ、今日はダメだ、俺、用事があるから」

「最近、付き合い悪いよね」


女が腕を絡めて身体を寄せているのを彼女が遠くから見ていた。


「おまえ、いつも、馴れ馴れしいんだよ、離れろよっ」


女の絡みつく腕を振りほどき彼女の元へ駆け寄った。


「本当に良かったの?」

「なにがだ」

「彩矢さん、可哀想じゃない?」

「良いんだよ、あいつとは昔からあんな感じだから、気にするなよ」

「私は良い夢を見させてもらっているけど、彩矢さんは悪い夢を見ているんだね、でも、夢はいつか醒めて現実に戻る、そうなったら私なんて見向きもされないんだろうな」

「また、そんな事を言ってんのか、夢だろうがなんだろうと、俺は変わらねーって言っただろ、彩矢の事なんて気にするなよ」

「だけど・・・」

「気にするなって、言ってんだろ」


学校の外で出た俺達は旧校舎の裏側にある雑木林を目指している途中で彼女が時々後ろを気にするような素振りを見せた。


「どうしたの?さっきから、後ろを見てるけど」

「う、うん、なんか後を付けられているような気がするんだけど・・気のせいかな?」

「マジか、彩矢じゃねーのか」


嫌な予感がした俺はわざと急に立ち止まり後ろを見た、でも、人の気配は感じなかった。


「誰も居ないような感じだけどな」

「そう・・・気のせいだったかも」


そのまま、雑木林に入り藪の中を抜けるとお堂はまだあった。


「これがあるって事はあの卵もあるって事か?」


頷いた彼女はすぐにお堂に入らずに、周囲をグルグルと巡って何かを探している様子だった。


「エミリー、探し物か?」

「時空の鏡が落ちてないかなと思って」

「今頃になって探しているのか?」

「あるはずないよね、あのさ、実は話しがあるんだ」

「なんだ」


彼女は黙ったままお堂の中に入っていった、俺も後に着いて入っていくと神妙な顔をして彼女が立っていた。


「話しってなんだ、卵を破壊する話しか」

「うん、それも関係するけど、私、ずっと、考えていたの、こんな都合の良いことなんてあり得ないって」

「どういうことだ」

「これは、私の想像なんだけど、これ、全部、夢なんじゃないかなって、それも、私の」

「意味が分かんねーけど、それじゃ、俺はどうなんだ」

「だから、私が、その、夢の中に引き込んじゃったじゃないかと」

「ってことは、俺も夢を見ているって事か?」

「そうじゃないの、私の夢の中に居るってこと、だから、このお堂が見えたり、夢が現実になったりしているじゃないかな」

「なるほど、なんとなく分かるような、分からないような」

「要するに、私が夢から醒めたときに現実に戻るってこと、そうじゃないと、あんなに綺麗な彩矢さんが居るのに、私みたいな・・・ブスと・・・付き合ってくれるなんて・・・やっぱり、現実だったらあり得ない話しだと思うの」

「俺はエミリーがブスだなんて思ってねーけど」

「だから、それは、私が夢の中に引き込んじゃったから、そう思ってくれるだけで、本当は違うんだよ」


確かに俺に対するあいつの態度は彼女が勘違いしても不思議ではなかった、ただ、俺は何度もその事を彼女には伝えてきた、急に俺の中に怒りに似た感情が込み上げてきた。


「ふざけんじゃねーっ!いい加減にしろっ!彩矢がなんだって言うんだよっ!」



「ごめん・・・そうだよね、私がラスプーチンの卵を破壊すれば全てが終わるんだから」

「何が終わるだか知らねーけど、それで、エミリーがあいつの事を気にしなくなるなら、早く、そのラス何とかの卵を破壊しろよ」

「だから、早く破壊させて、お願い、この夢は終わりにしたいの」

「バカ言うんじゃねーよ、終わりになんかさせるか」

「やっぱり・・・ラスプーチンの卵がある場所、知ってるんだよね、夢で見たんだよね」

「仮に見てたとしても言わねー」

「お願い、教えて、もう、これ以上、この夢を続けていくのが無理なのも分かっているんじゃないの」


俺はしばらく言葉を失った。


「引っ込み思案で男の人となんて話も出来ない私が・・・こうして、理想の人と放課後に遊んだり、旅行をしたり・・・ブスの私を可愛いって言ってくれる、でも、これは永遠じゃない」

「違う、それはエミリーの夢じゃない、俺の夢なんだ、俺も同じ夢を見ているんだって」

「ありがとう、夢の中でもこんな風に言われて嬉しいよ」

「違うんだ、分かってくれよ」


旧校舎にあるトイレの中にラスプーチンの卵はあったが、彼女が破壊した瞬間に全てが夢になってしまう、そして、全てが終わり、再び始まる現実には彼女は居なかった。


「ありがとう、これで決心がついた、でも、一応、お礼は言っておくね、今まで仲良くしてくれてありがとう」

「バカな事を言うなよ、これからもずっと一緒だろ」

「うん、その言葉、ラスプーチンの卵を破壊した後、もう一度聞かせて欲しいな」

「ああ、絶対だ、約束するよ」


お堂を出た俺達はいつものハンバーガーショップへ寄り、いつものように彼女を送ってから帰宅して、いつもの通りの日常が流れていったが、その夜、また、彼女の夢を見た、やはり、もう、限界なのかもしれない、悪夢が俺に襲いかかってくる、これが現実にならない事を祈るしかなかった。

ラスプーチンの卵は個室の一番奥、窓側の扉を開くとその奥に闇に包まれたラスプーチンの卵が闇黒のオーラーを放っていた。

そして、彼女の手の平から凄まじい閃光が放たれ、俺の目の前は一瞬のうちに真っ白になり、何も見えなくなる、そして、彼女は俺の前から消え去ってしまう。

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