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<最期>

<最期>


俺は漆黒の闇を彷徨い歩いていた、キーホルダーもなくなっていた、そして、彼女も居なくなり空いた席には彩矢が座っていた。


「これが現実なのか」


授業も全く頭に入らず俺は窓の外に遠く広がる空をぼんやりと眺めていた、彼女の最期の言葉だけが頭に木霊していた。


「エミリー・・・ごめんよ・・・」


最期に僅かに彼女の手を掴んだ感覚はまだ残っていた、その手を掴みきれなかった自分が不甲斐なくて、思い出す度に心が切り裂かれ、悔しさに身体が震えた。


「ダ~リン、み~けたっ!ねぇ、ねぇ、今日の放課後、ちょっと付き合ってよぉ~」

「悪いな、そういう気分じゃないんだ」

「気分とかの問題じゃないのっ!いいから、放課後だよ、勝手に帰らないでよね」

「ったく、何だよ!また、買い物か何かだろ、一人で行けよ」

「だ~め!」

「はい、はい、付き合えばいいんだろ、どうせ、暇だからいいよ」


俺の憂鬱な気分に拍車を掛けるように、女はスキップしながら教室から出て行った。


「あいつが悪い訳じゃないんだよな・・・」


俺は一人呟き、現実を受け入れるしかないのだと席を立ち、彼女に最期の別れを告げに雑木林に向かった、お堂への目印にしていた巨樹を見上げた、木漏れ日の中に彼女の笑顔が浮かび上がり滲んだ。


「ごめんよ・・・ずっと一緒で居られなくて」


悔しさや悲しさ色々な感情が込み上げ身体が震え、幹にすがり膝から地面に崩れ落ちた。


「ごめんよ」


胸が締め付けられる思いで声にならない、抑えきれない感情に恥ずかしげもなく声を上げ涙を流していた、何があっても冷静を装っていられたのに、彼女と過ごした日々の思いがそうさせてくれなかった、俺は感情の全てをぶちまけた。


「俺は、エミリーの事が好きだっ!」


誰に聞かれようが構わない、俺の叫び声は雑木林中に響き渡った、木漏れ日が星屑のように地面に散らばっていた、その小さな明かりが瞬く間に集まり、一つの大きな光になって樹の周りを照らした。


「私もだよ」


背後から聞こえた声は空耳だと思いながらも人の気配に振り返った。


「・・・・」


目の前の光景を現実として受け入れるのに、これ程までに時間が掛かるものかと思った、言葉の出ない俺に彼女は頬笑んだ。


「ふふん、逢いたかったよ、ビックリした?」

「エ、エミリー」


俺は次の瞬間、彼女を力一杯に抱きしめていた。


「あ~ん、痛いよぉ~」


夢なら二度と醒めないでくれ、現実なら永遠に続いてくれと願った。


「これ、夢じゃないよな」

「現実だよ、ちょっと、痛いってばぁ~、もう、どこにも行かないから離して」


彼女は見かけない学校の制服を着ていた。


「今まで、どこに居たんだよ」

「隣町の学校じゃない?」

「じゃない?って」

「だから、ほら」


彼女が指さす方向から同じ制服を着た子が坂道を上がってきていた。


「なんだ?」

「さぁ、私もまだ、完全には把握してなくて、たぶん、美術の写生じゃない?」


手にしていた絵画道具を見せた。


「俺が言いたいのは、どうして、早く、会いに来なかったんだ、俺の学校は知ってただろ」

「だから、今、到着したんだもん」

「どういう事だ?」

「だから、今、この場所で時空の交錯があったの、まぁ、今って、言うか、ちょっと前からだけど・・・ちょっと、声を掛けずらかったから」

「はっ、それじゃ・・・」

「うん、見ちゃった、でも、凄く嬉しかったよ、私の為にさ・・・ねっ」

「バカ、ちげーよ、俺、泣いてなんかないからな」

「ふふふん、良いじゃん、エミリーの事、好き?」

「ふざけんなよっ!マジかよ・・・」


人目もはばからず嗚咽をあげている姿を彼女に見られた事を一生の汚点とするか、しかし、彼女の笑顔を見ているとこれも思い出の一つとして俺が思い出せない記憶の奥に仕舞って置けば良いと思った。


「ねぇ、確認だけど、後悔しないよね」

「なにを後悔するんだ」

「私が現実空間に来ちゃったじゃない、だから、何か異変が起こっていると思うんだ」

「なに言ってんだ、何が起こっても俺は後悔しないぞ」

「なら良いけど・・・まぁ、今更、遅いけどね」


徐々に人が集まり二人の存在を周囲が気にし始めていた。


「これから授業なんだろ」

「そうみたいだね」


彼女は最期に俺が掴み損ねたと思っていた彼女の手は最期まで離れなかったと、だから、時空の切れ目が分かり彼女がここへ来られたと、普通なら信じられない話しだけど今の俺は信じられた。


「ここで別れたら、もう、二度と会えないなんてないよな」

「浮気しなければ、ないよ」

「しねーよ、じゃーな」

「うん、同じ学校だったら良かったのにね」

「そうだな、これも、時空の関係なんだろ」

「たぶん、同じ学校だと都合が悪い事があるんだと思う、でも、そんなに遠くないから、いつでも、逢えるね」

「ああ、ハンバーガーを食いに行こうぜ」

「うん、うん、行きたい、行きたい、今日の放課後は?」

「いいぜ」

「それじゃ、学校が終わったら校門の所で待ってるね」


俺は彼女と約束をして雑木林を学校に向かって歩き始め時に余計な事を思い出し戻ると、彼女は画材を用意しながら何かを見つめていた。


「何を見ているんだ」

「これ」




彼女が見ていたのは鏡だった。


「それ、俺が、あの時に投げたやつだろ、でも、鏡は割れてたはずだし、どこにあったんだ」

「画材入れに入ってたの、誰のかなと思ったけど、あの時のね・・・」

「持ち主に返ってきたんだろ、それ、俺が、エミリーじゃないエミリーから借りたやつだからな」

「そうなんだ、きっと、この鏡があったから、私、ここに居るのかも、大切にしよう」

「それでよ、今日の放課後なんだけど・・・」

「どうしたの?」

「わりぃー、今日は先に約束があったんだ、忘れてた」

「そう・・・別にいつでも良いけど・・・」

「あっ、いや、俺、あいつに言ってなんとか断るからよ、そんな、悲しそうな顔するなよ」

「彩矢さん?」

「うん、まぁ、そうなんだけど・・・だってよ、エミリーが居なくなってよ、俺、どうでも良くなって・・・」

「そうだよね・・・良いよ、今日は、彩矢さんとデートしてくれば」

「いや、ダメだって、俺、絶対に断るから、なっ、待っててくれよ」

「うん、ありがとう、それじゃ、待ってるから、ダーリン、もう、授業が始まちゃうよ」


俺は急いで雑木林を抜け教室に戻った。

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