第8話:初めての城下はご飯屋さんで。
――タスクさんに連れられて城下街に行くはずだったボクは今、タスクさんが寝起きする城内の外れにある騎士寮にいた。
……正確に言えば、タスクさんの部屋でタスクさんの着替えが終わるのを待っている状態だった。
座るところがないからとベッドに下されて、この人はすぐにボクがいることを忘れたかのように躊躇いもなく着ていたモノを脱ぎ捨てていった。
曰く、城内の時と城下に行く時は服装を変えなきゃいけないらしい。
でも、だからって……
「タスクさんムキムキですね!?」
「……ミサキ様、それは意味があるんですか?」
「見ちゃダメなら指閉じます。」
「……お好きなように。」
タスクさんが少しだけ呆れ混じりにそう言った理由はボクが両手で目を隠しながら指の間から覗いてるから。
だと思う。
若い男の人の裸を見るなんて白夜以外になかったから少し珍しく思っていたのもボクの中でホントのことだけど。
「じゃあ隠さないですけど。……着替えまだですか。」
忘れてたわけじゃないけどボクは空腹が限界だった。
目の前にあるものに噛みつきたくなるくらいにお腹がすいた。
「お待たせしましてすみません。では、行きましょうか。ミサキ様」
「お願いします。いっぱい食べれるとこがいいです」
「ならきっと、これから行く場所は気に入るかもしれませんね。」
そう、軽々ボクを再び抱き上げたタスクさんの服装は確かに変わっていて。
むしろパッと見じゃこの人が騎士なんてわからないだろうと思えるくらいに普通だった。
「どんなお店なんですか?行くとこ」
「そうですね……ついてからのお楽しみに、ということにしてください。」
そう言うタスクさんの足は迷うことなく進んでいて
なんとなく、よく行くお店なんだろうと言うことはわかったから素直に楽しみにすることにした。
そして、ついたお店は少しだけ古くて、でも、すごく美味しそうな匂いのする小さな食堂みたいな感じのお店だった。
ただ、気になったのは美味しそうなお店なのにお客さんが居る感じがほとんどしないということだけ。
「いらっしゃ……おや、タスク君じゃないか。ずいぶんと可愛い子を連れているね。娘さんかい?」
「お久しぶりです。いえ、この方は……」
「む、娘……え、ボクそんな小さ……」
お腹がすごく鳴ってるけど気にしない。
いや、気にする余裕がないくらいにボクは密かにショックを受けていた。
「おばさん、この方は王子が召喚した勇者様ですよ。」
「おや、それは失礼したね!お詫びにおまけしてあげるから何にする?」
「ではAセットをお願いします。ミサキ様、それでいいですか?」
「……どんなセット……」
「ミサキ様お望みの沢山食べられるセットですよ。」
そう言われたらボクは問答無用で頷くしかなかったけど
料理ができるまでの間、いつしかボクは気分が向上してご飯が待ち遠しくなっていた。
「はいよ、おまちどうさま。Aセットだよ」
「おー!?揚げ物!?」
そう、出てきたお皿の上には沢山の種類の揚げ物がいっぱいのってた。
ていうかこの世界に揚げ物文化なんてあったんだ……
そう思ってるとおばさんとタスクさんが説明してくれた。
「昔に召喚された勇者様がアゲモノっていうのが大好物だったらしくてね。うちの御先祖がその時の勇者様に教えてもらってそれにあやかったって感じなんだよ。」
「……食べてもいいんですよ?ミサキ様」
「っ……いただきます!」
とんかつ、鳥カツ、コロッケに海老フライ。
さすがにてんぷら系はなかったけどすごく食べ応えのある感じがあり、ボクは少しだけ昔のことを思い出しながら箸を動かしていた。
――そういえば……あの日、お母さん朝から張り切ってたっけ……理由は思い出せないけど……――
「おかわり自由だからね。勇者様?」
「ん。……ん?タスクさん。何か来ますね」
「……そうですね。よくわかりましたね。」
「煩いもんね。おばさん、おかずおかわりお願いします!」
「あいよ。」
ちょっとだけ、腹ごなししようかな。
そう思いながらタスクさんの方を見ればどこか見定めるような視線をボクに向けた。
ホントに、勇者として戦えるかどうかを知りたい。
そんな感じの。
なら、見せてあげようじゃないか。
ボクの戦い方を。
揚げ物を揚げている音を耳にしながらボク達は騒がしい元凶が来るのを扉の方を見つめながら待っていた
7話までの間で一部加筆修正しました。




